スキル『睡眠』で眠ること数百年、気づくと最強に~LV999で未来の世界を無双~

雪月花

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第40話 イノベイター

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「バカな……そんなことが可能なものかああああああああああああッ!!」

 咆哮と共に俊は『停止』を使うだ。
 だが――

「言ったはずだぜ。もうお前の『停止』はオレには届かない」

 俊の停止によってオレを含むこの空間全てが凍りつく、その間に俊はオレに近づき剣を振り下ろそうとするが――“その次の瞬間”には凍りついたはずの時は動き出し、『加速』によって速力を何倍にもしたオレの拳が俊の一刀を弾く。

「ぐッ!?」

「無駄だ。お前が『停止』を使った瞬間、その“停止出来るはずの時間そのもの”を『増幅』と『加速』で吹き飛ばしている。さっきまでの戦いを見る限り、お前が停止出来る時間はせいぜい数秒あたりだろう。だが、今やオレの前ではその停止出来る時間も一秒にも満たないほんの刹那の一瞬だ。その程度の誤差なら、たとえ後出しになろうとも追いつけるんだよッ!」

 俊の一刀を弾くと同時に今度はオレの一刀が俊の体に入る。
 自らの胸を切り裂く痛みに俊は初めて苦痛に表情を歪ませる。

「おのれが……! だがお前はまだ勘違いしているぞ、真人。確かに僕の『停止』は封じられたかもしれないが、そもそものレベルにおいて僕は君より圧倒的優位に立っている! 見る限り、君のレベルは700そこらだ。たとえ加速を使って速力を増したとしても、他の能力値の総合は僕が上。持久戦になろうとも結局勝利するのはレベルが高い方なんだよッ!」

「それは……どうかな?」

「負け惜しみをほざくなあああああああッ!!」

 再び俊の剣が光速に近い速度で迫る。
 その破壊力は受け止めたオレの剣を砕き、体を切り裂くの十分なほどの破壊力、攻撃力を秘めていた。
 無論、俊もそのことは理解しており、だからこそオレが避けることを想定し、回避した瞬間を狙い撃とうという算段なのだろう。
 だが、そんな奴の作戦は無意味となった。
 なぜなら、奴の渾身を込めた一撃をオレは片手の剣で受け止めたのだから。

「! ば、バカな!?」

 ありえない現象に狼狽する俊。
 それもそうだろう。
 レベル、筋力、能力値、全てにおいて劣っているはずのオレが俊の一撃を受け止められるはずがない。
 無論、さきほどまでのオレならば今の一撃で剣もろとも真っ二つとなっていただろう。
 だが、今や花澄の固有スキルを手にしたオレにその隙はなくなっていた。なぜなら――

「生憎だったな、俊。“今のオレのレベルはお前以上”なんだよ」

「な、なんだと!? そんなバカなことがありえるか! 戦闘中にレベルを急激にあげるなど、そんなことたとえ花澄の『増幅』を使っても不可能なはず!」

「それが可能なんだよ。お前、オレが持っている固有スキルの存在を忘れていないか?」

「なに?」

「花澄の『増幅』はなにも効果そのものを増幅させるだけじゃない。スキルが持つ力、可能性、その全てを広げ強化し、成長していく。今やオレの固有スキル『睡眠』はただ眠るだけでレベルが上がるだけのスキルじゃねえんだよ」

 どういうことかと戸惑う俊にオレは答えを告げる。

「『増幅』によってオレは『睡眠』による“レベル上昇”という能力を前借りした。今のオレのレベルは『850』。お前よりも遥かに上なんだよ、俊。まあ、もっともこの戦闘が終了したら前借りしたレベル分、オレの体は強制睡眠モードに入るがな」

「なっ!?」

 オレが宣言に凍りつく俊。
 それもそうだろう。奴にとってみればこれはまさに予想できなかった展開。
 無敵と信じていた自らのスキルが封じられ、更にはレベルにおいても圧倒的に上回っていたはずの自分が追い越されるという結末。
 もはや、ここまで来れば勝敗は明らか。

「それじゃあ、覚悟してもらうぜ。俊」

「ッ、お、おのれがああああああああああああああッ!!」

 咆哮と共に俊は全ての力を込めた一撃を放つ。
 だが、その動きも力も剣にかける想いも、今のオレには全てが――軽すぎた。

「真名スキル『花火一閃』ッ!!」

「―――――ッ」

 俊の掲げた剣を砕き、光の速さで俊の体をすり抜ける。
 瞬間、俊の体に刻まれたのは一文字の傷。
 そして、俊の体を中心に咲き乱れるは光の花束――花火の数々。
 聖皇城。
 地上より遥か高みに存在する百階層にて、オレはかつての友に届くように、あの日見た夏祭りの花火をここに打ち込んだ。

「……湊、花澄、壮一、仇は獲ったぞ……」

 オレがそう呟くと同時に俊の体が倒れる。
 彼の体を中心に床一面に赤い血が流れ出す。
 手応えはあった。致命傷だ。
 だが、さすがはかつての英雄にして今は神と称される人物か、わずかにうめき声を上げると血まみれの顔をこちらに向ける。

「う……あ、き、君、は……?」

 だが、その瞬間オレと目があった俊の瞳に違和感を覚えた。
 先程まではまるで機械にように冷酷であり、一切の感情を感じさせなかったおぞましい瞳。
 しかし、今の俊の顔には確かな怯えがあり、その表情は前にオレ達と共にいたあの引っ込み思案な少年の面影そのものであった。

「ど、どうして君がここに……真人さん……? あ、あなたは確か、あの時『睡眠』で眠りについたはずでは……?」

「は? 何言ってやがる。そのオレを罪人にしたてあげて、さっきまで殺し合っていただろうが!?」

「殺し……? な、何を言ってるんだ、真人さん……?」

「何って、お前……」

 奇妙だ。
 しゃべている内容が支離滅裂すぎる。
 さきほどまでオレの事を虫けらか何かのように始末しようとしていた男とはまるで別人だ。
 演技にしてはおかしい。今ここでそんなことをする必要がどこにある?
 戸惑うオレに、しかし俊は何かに気づいたように焦りだす。

「そ、そうか……確か僕はあの時“奴ら”に……! だとしたら――真人さん! 聞いてください! 湊、花澄、壮一さんの三人。彼らはまだ“生きています”!」

「なん、だって!?」

 思いもよらぬ俊の一言に驚くオレ。
 どういうことかとさらに俊に詰め寄るが――

「いいですか、真人さん……。彼らをあの三人を見つけて、今の四聖皇――いいえ、イノベイターを倒してください! 彼らはこの世界の――」

 そう俊が何かの確信を告げようとした瞬間、

「それ以上は喋らなくていいよ。“お兄ちゃん”」

 俊の体に無数の釘が打ち込まれる。
 釘を打ち込まれた俊はそのまま釘の先にくくりつけられた糸によって上空へと運ばれる。
 上を見ると、そこには一人の少女がオレや俊を見下ろしていた。

「はじめまして、あなたが真人さん? 俊お兄ちゃんが世話になったね。ああ、この場合はネプチューンと呼ぶべきかな」

「お前は……!」

 オレはその初対面のはずの少女を知っていた。
 なぜなら、その顔はオレが持つ『四聖教』の教典に描かれた四人の英雄、神々とされる『四聖皇』の肖像画の一人――

「私の名前はディアーナ。北の王国を支配する『四聖皇』」

 俊と同じこの世界を救ったとされる英雄にして四神の一人。
 だが、なぜこいつがここに?
 戸惑うオレにディアーナは舌なめずりしながらオレを見下ろす。

「ふふ、ユピテルからの命令でね。ネプチューンが敗北したみたいだから私が迎えに来たの。しかも洗脳まで溶けちゃったみたいだから焦っちゃってね。まあ、ここであなたと戦う気はないわ。ここにいる私はただの分身だし、ネプチューンを倒すほどのあなたとやり合うにはちょーっと不足してるからねぇ」

 そう言いながらもその目はまるで獲物を狙う狩人のようにオレを品定めしていた。
 正直、今すぐにでも切りかかりたいところだが、先ほどの増幅による『睡眠』の前借りの限界が来ていた。
 倒れそうになる意識を必死に支えながら、それを相手に悟られないようディアーナを睨みつける。

「ああ、怖い。けれど、安心していいわよ。またすぐにあなたとは会えるわ。今度は私達、四聖皇が――いいえ、イノベイターがあなた達アダプターを抹殺してあげる」

「! 待て! そのイノベイターだかアダプターだかなんだ! それに湊や花澄、壮一達はどこだ!?」

 叫ぶがそんなオレをあざ笑うようにディアーナは俊と共に消えていく。
 やがて、二人の気配が完全に消えたのを確認し、限界を迎えたオレは意識を失う。

「! 真人さん! 真人さん、しっかりしてくだ――……ま……!」

 遠くでシュナがオレを呼ぶ声が聞こえた気がした。
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