良と不良

ろくえんさん

文字の大きさ
1 / 2

ある日  英 聖良サイド

しおりを挟む
ずっと、あなたが嫌いだった。

「次、この問題を……三谷。この答えは?」
「………」
「おい、三谷、聞いてるのか?」
「…あー、分かりません」
「全く…時間が無いな。じゃあ英、解いてくれ」
「分かりました、この答えは─」

三谷はずっとムスッとした顔で窓の外を見つめていた。ちらりと横目で見たところ、何故か私と目が合う。すると彼女は舌打ちをしてまた外を見た。一体何なんだ。

チャイムギリギリで終わった授業の後、私は早歩きで生徒会室へ向かう。あーあ、弁当一口も食べられなかった。どうせ今日はお手伝いさんじゃなくてあの母親が作ったものだから良いけど。

「…あ、英さんじゃん」

ひそひそ話を無視しつつ、足を早める。ロクなこと言われたものじゃない。けれどもそれは無意識のうちに耳に入ってくる。

「あの子鬱陶しいよね。良い子ぶってて」
「分かる~、誰にでもニコニコしてるし」
「優等生だからってさ…あの先生にもえこひいきされてるし」

言わせとけ、とは思う。なのにどうして、心を離れてくれることはなかった。どうせ私は外面が良いだけの薄っぺら。さっきだって、時間が無いからさっさと解ける私を選んだだけだし。…良い子ぶっているのは、本当のことだし。

薄ら笑いを浮かべながら、一日は勝手に過ぎて行く。帰りたくない家にいる時間を短くするため自習室へ寄ろうと席を立ったところで、誰かが声をかけてきた。

「おい英」

忌々しい声だった。

「…どうしたの、三谷さん」
「そのキモい笑顔止めろよ」
「…え?」

彼女はそれだけ言ってスタスタと教室を出て行った。三谷は時々こうして学校に気まぐれに来ては、私に適当に突っ掛かるだけ突っ掛かって帰ってゆく。訳が分からなかった。

私は腹を立てたが、とりあえず自習室に行くことにした。勉強していれば気は紛れる。…でも、夕暮れは近付いてくる。

「…ただいま」
「聖良!」

帰宅直後にそう叫ぶなり、母親は私を玄関に正座させた。…だから嫌だったのだ。

「この結果は何?どうして2番だったの?何で1位になれないの!?」
「ごめんなさい、お母さん、次は頑張るから」
「前もそう言ったわよね?何回失敗したか分かってるの?全く、お姉ちゃんはいつも1位だったのに…」

そして、散々怒鳴って泣いて喚き散らかして、やっと自室に戻って行った。私が部屋に帰ると、気まずそうにお手伝いさんが夕食を運んできた。

机の上には、母親が飾れと言った写真がある。幼い頃の私と姉……そして、後ろの方に三谷が写っていた。そう、この後に彼女は私に話しかけてきたのだ。

嗚呼、三谷はいつもそうだった。勝手に私に話しかけてきては嵐のように振り回して帰っていく。いつも自由で誰にも縛られなくて、自分自身を素直に表現できる女。

三谷……莉世のように、なりふり構わぬ不良に、私もなりたかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

処理中です...