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文化祭 3
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ウェイトレスが去ったというのにまだ何も無いところを見つめている2人を放って、俺はプラスチックのスプーンを手に取った。
俺たちがカレーを食べている間にも次々と教室の中の人が入れ替わっていく。
教室の隅の方で簡易的に仕切られたスペースへウェイトレスが盛んに出入りしている姿が見える。
調理室を使っているのは俺らのクラスだけなので、おそらくその仕切りの中でレトルトのカレーを使っているのだろう。
俺たちのクラスは焼きそばのレシピに1番力を入れたが、このクラスは早さと接客の丁寧さが売りのようだ。
無論、このクラスがカレーに手を抜いていると言いたいわけではない。
さすがは日本の技術と言ったところか、温めたばかりのレトルトカレーは文化祭で食べるには十分すぎる味だった。
黙々と食べ進め、少し後に食べ始めた2人も、俺が食べ終わるのとあまり変わらない時間で食べ終わった。
「まだ食べてすぐだけど、タピオカ買ってそのまま軽音楽部行くか」
眼鏡を軽く直しながら凛々しい表情で言うその姿が、数分前に苦しんでいた姿を引き立てているようで俺は1人吹き出しそうになった。
──どちらかと言うとこちらのギャップの方が萌えそうだ。
俺たちもここには長居せず、タピオカを買うため、今度は1階の教室に向かった。
やはり今流行りのものだけあって、何人もの人が並んでいる。
並んでいる人は女子が多くて、おそらくは中学生であろう女子グループの笑い声が響いてきた。
「買い終わったら教室の外で集合だな」
チラッと中を覗いた雅也がそうつぶやく。
俺も続いて中を覗くと、今目の前にいるグループと同じような女子たちが何組もいて、正直、その中に長居はしたくないと思った。
やたらテンションの高い女子が苦手な俺も、あまり雅也と裕貴のことばかりいじっていられないかもしれない。
ゆっくりと列が進み、裕貴から順に教室の中に入ると、さっきまで俺たちの前にいたはずの女子たちがすぐ近くで写真を撮りながら「キャーキャー」言っていた。
「い、いらっしゃいませ……」
明らかに周りの騒ぐ声と比べて声量が負けている、1つ年下の女子がぎこちなく接客してくれる。
初めての文化祭であんなテンションの高い年下を接客するなんてお気の毒に、と見ず知らずの女子を心の中で労う。
この光景を見る限り、俺は料理が得意ではなかったにせよ、接客を選ばなくて正解だったと、役割決めをした過去の自分に感謝する。
「タピオカミルクティー1つで」
まだ中学生のあどけなさが残っている彼女に、俺は精一杯大きな声で聞こえるように言った。
「あっ、かしこまりました!」
俺の注文を聞き取った彼女はパッと笑顔を見せ、「ミルクティー」と書かれたお手製のチケットを渡してくれた。
「あちらで、交換してください!」
さっきよりも聞き取りやすい声で言いながら、今ちょうど雅也がタピオカを交換している場所を指さす。
俺たちがカレーを食べている間にも次々と教室の中の人が入れ替わっていく。
教室の隅の方で簡易的に仕切られたスペースへウェイトレスが盛んに出入りしている姿が見える。
調理室を使っているのは俺らのクラスだけなので、おそらくその仕切りの中でレトルトのカレーを使っているのだろう。
俺たちのクラスは焼きそばのレシピに1番力を入れたが、このクラスは早さと接客の丁寧さが売りのようだ。
無論、このクラスがカレーに手を抜いていると言いたいわけではない。
さすがは日本の技術と言ったところか、温めたばかりのレトルトカレーは文化祭で食べるには十分すぎる味だった。
黙々と食べ進め、少し後に食べ始めた2人も、俺が食べ終わるのとあまり変わらない時間で食べ終わった。
「まだ食べてすぐだけど、タピオカ買ってそのまま軽音楽部行くか」
眼鏡を軽く直しながら凛々しい表情で言うその姿が、数分前に苦しんでいた姿を引き立てているようで俺は1人吹き出しそうになった。
──どちらかと言うとこちらのギャップの方が萌えそうだ。
俺たちもここには長居せず、タピオカを買うため、今度は1階の教室に向かった。
やはり今流行りのものだけあって、何人もの人が並んでいる。
並んでいる人は女子が多くて、おそらくは中学生であろう女子グループの笑い声が響いてきた。
「買い終わったら教室の外で集合だな」
チラッと中を覗いた雅也がそうつぶやく。
俺も続いて中を覗くと、今目の前にいるグループと同じような女子たちが何組もいて、正直、その中に長居はしたくないと思った。
やたらテンションの高い女子が苦手な俺も、あまり雅也と裕貴のことばかりいじっていられないかもしれない。
ゆっくりと列が進み、裕貴から順に教室の中に入ると、さっきまで俺たちの前にいたはずの女子たちがすぐ近くで写真を撮りながら「キャーキャー」言っていた。
「い、いらっしゃいませ……」
明らかに周りの騒ぐ声と比べて声量が負けている、1つ年下の女子がぎこちなく接客してくれる。
初めての文化祭であんなテンションの高い年下を接客するなんてお気の毒に、と見ず知らずの女子を心の中で労う。
この光景を見る限り、俺は料理が得意ではなかったにせよ、接客を選ばなくて正解だったと、役割決めをした過去の自分に感謝する。
「タピオカミルクティー1つで」
まだ中学生のあどけなさが残っている彼女に、俺は精一杯大きな声で聞こえるように言った。
「あっ、かしこまりました!」
俺の注文を聞き取った彼女はパッと笑顔を見せ、「ミルクティー」と書かれたお手製のチケットを渡してくれた。
「あちらで、交換してください!」
さっきよりも聞き取りやすい声で言いながら、今ちょうど雅也がタピオカを交換している場所を指さす。
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