命の記憶

桜庭 葉菜

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久しぶり 2

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 やっぱり私はどこか期待していた。

 でも違った。

 こうちゃんは完全に私のことを忘れている。

 こうちゃんの前から立ち去ろうとした瞬間、涙が溢れ始めた。

「え、いや、その違くて。ご、ごめ──」

 突然の涙を隠しきれず、こうちゃんになんとか言い訳をしようと考える。

「こっち、きて」

 こうちゃんがそう言うのと同時に、私の手を取り歩き出した。

 こうちゃんの手は昔よりも大きくて、今の私にはとても暖かかった。

 私が連れて行かれた場所は体育館の裏と思われる、人の少ない場所だった。

「ちょ、ちょっと待ってて」

 慌てた声で言われ、私は近くのベンチに座った。

 こうちゃんに迷惑をかけてしまった。

 知らない女の子に泣かれてきっと嫌な思いをしているだろうな……

 せっかく履いてきたスカートに、涙の模様が1つ、また1つと増えていった。

「あの、ごめん。ほんと、泣かないで」

 どこに行っていたのか、いつのまにか戻ってきたこうちゃんに言われる。

 顔を上げると、こうちゃんが手に2つのペットボトルを持っていて──

「はいこれ。何が好きかわからなかったから俺の好きなやつだけど……飲める?」

 ゆっくりと差し出されたのは、小さめのりんごジュース。

 急に人前で泣き出した私をわざわざ人がいないところに連れてきてくれて、飲み物も買ってくれた。

 困っておどおどしている姿も昔のまんまで。

 私のことは忘れてしまったのかもしれないけれど、昔と何も変わっていなくて安心した。

 気がつけば涙も止まっていた。

「ありがとう」

 笑顔でそう言う私に安心したのか、こうちゃんの雰囲気が少し柔らかくなった。

 だがこうちゃんはその場で立ったまま。

 何か、話した方がいいのかな。

 静かな場所で2人きり。

 もらったりんごジュースを両方の手で転がしながら考える。

「連絡先、交換しませんか?」

 頭で色々考えていたはずなのに、気づけばそんなことを口に出してしまっていた。

「連絡先?」

 どうしよう、引かれていないかな……

「ほら、これで知り合いってことで!
私は人違いしてないーみたいな……あはは、そんなわけ、ないですよね……」

 言い訳がどんどん苦しくなってきて苦笑いで最後の方をごまかす。

 もっと変な人だと思われている……

 どうにも出来なくなり、りんごジュースをギュッと握った。

「くっ……なにそれっ、変なの……」

 こうちゃんが思わず笑っている。

 予想と違う反応で一瞬戸惑ったが、笑ってくれたならよかった。

 やっぱり笑顔も昔と変わっていない。

 私の知っている、大好きなこうちゃんのままだった。

「連絡先、交換しよう」

 まだ笑いが治まらないこうちゃんが、そう言いながら携帯を出した。

 私を忘れてしまったのは悲しいが、もしかしたら思い出してくれるかもしれないし、思い出せなくても、新しい思い出をまた作ればいい。

 あんなに不安いっぱいだったのに、最後はこうちゃんのおかげで前向きにいこうと思えるようになった。

 連絡先を交換すると、こうちゃんの携帯に友達から連絡が入る。

 どうやらクラスの片付けに向かう途中でたまたま私を見つけたそうで、やらなければならないことを友達に任せてきたようだった。

 そのため、そろそろ帰ってこないと担任にバレるとのことだった。

 こうちゃんにこれ以上迷惑をかけるわけには行かない。

 連絡先を交換することができたので、これからはいつでも連絡を取ることができる。

 今は早めに帰るべきだろう。

 考えをまとめた私はベンチから立ち上がる。
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