命の記憶

桜庭 葉菜

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大切な記憶 3

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 公園に着いたのは待ち合わせ時間の5分前。

 中に入るともうすでにこうちゃんがベンチに座って待っていた。

 下を向いているせいでこうちゃんがどんな顔をしているのかは分からない。

 私はゆっくりこうちゃんのもとに向かった。

「お待たせ」

 そう声をかけるとこうちゃんの顔が勢い良く上がる。

 そして私の顔を見て。

「こ、とね」

 少し遠慮がちに、再会してから初めて私に向けて呼ばれたその名前。

「こうちゃん……」

 同じようにぎこちなく名前を呼んだ私に、僅かな笑みを浮かべながら。

「もしかしたら来てくれないかと思っててさ、安心した」

 ずっと下を向いていたのも、私を見た瞬間に滲んでいた不安そうな顔も、零れたほんの少しの笑みも、全部そのせいだったんだ。

 確かに私は1度行くのを迷ってしまった。

 私は自分のことばかりで、こうちゃんのことを全く考えていなかったんだ。

「あ、そんな顔しないで。来てくれてありがとう。ほら、座って」

 いつの間にか私の顔が険しくなっていたようだ。

 私は言われた通り、こうちゃんの隣に座る。

 何から、話したらいいんだろう。

 私もこうちゃんも口を開こうとしない。

 話すことを全く考えてこなかったわけじゃないが、いざ話そうと思うと口が動かない。

 近くでは子供たちが楽しそうに遊んでいる。

 なんだか昔の私たちみたい。

 無邪気に走り回る姿を見ていると懐かしい気持ちになった。

「俺たちも、あんな風に遊んでた?」

 先に口を開いたのはこうちゃんだった。

「そうだね、遊んでたよ」

「そっか……」

 それだけ話してまた黙る。

「ことね」

 名前を呼ばれたのはこれで2回目。

 1回目よりもしっかりとした声。

「この話が終わったらさ、俺の家に行って欲しいんだ」

 行って、欲しい?

 こうちゃんの言葉の選び方に違和感を覚える。

 こうちゃんの家は知っているけど、行って欲しいとはなんだろう。

 こうちゃんは一緒に行ってくれないのだろうか?

 私が返事に困っているとこうちゃんが続けて話し出した。

「勝手なお願いでごめん。何も聞かずに、行って欲しい」

 そんなことを言われたら何も言えなくなってしまう。

「わかった」

 今はそれだけ言い、頭の中に浮かんだ疑問は飲み込んだ。

「ありがとう」

 こうちゃんが微笑む。

 その優しい顔に、私の体の力が和らいだ。

 次は私が話す番かな……

 私は昔のことを思い出そうと、どこか遠くの方を見つめながら話を始めた。

「私とこうちゃんが出会ったのは小学4年生の頃でさ、こうちゃんがここで私に逆上がりを教えてくれたのが最初なんだ」

 その時から、こうちゃんは優しくてかっこよくて。

 あの日飲んだりんごジュース、ずっと忘れたことはない。

「ここに、2人で座ったんだ」

 右手でそっと、ベンチをなでる。

 昔の2人と、今の2人が重なる。

「だからね、文化祭の日、私にりんごジュース買ってくれて嬉しかったんだ」

 自然と口角が上がる。

「あとはね、そうだなぁ……」

 両手をキュッと握りしめる。
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