命の記憶

桜庭 葉菜

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私の記憶 1

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 死神に会ってから数日が経ち、長いようで短かった夏休みは今日で最後。

 この1年間のことを本当にみんな忘れているのか、私には確認する術がなく、なんだか実感のわかない日々を過ごしていた。

 それでもこうちゃんのノートは確かに私の手元にあって、私はこうちゃんのことを全部覚えている、これだけは事実だ。

 他の人はどうであれ、私がこうちゃんのことを忘れていない、それだけで十分。

 私はこうちゃんのノートに一瞬目をやってからリビングに向かった。

 今日は桃子と夏休みの最初に行ったカフェで会う予定がある。

 11時にカフェ集合の約束。

 現在の時刻は9時。

 明日から学校だというのに少し遅く起きてしまった。

 そんな後悔が多少なりとも湧いてくる。

 だが今過ぎたことを悔やんでも仕方ない。

 この事はカフェについてから桃子にでも愚痴ろう。

 そう思いながら遅めの朝ごはんを済ませた。

 前と同じカフェに1人で向かう。

 夏休みが終わるというのに相変わらずの暑さが続いている。

 このまま冬なんて来ないんじゃないかとさえ思う。

 まぁもちろんそんなわけないのだけれど。

 1人ノリツッコミの果て、約束の時間ぴったりにカフェの前に着いた私は、すぐに涼しい店内に入った。

「いらっしゃいませー」

 店員さんの爽やかな声に迎えられながら、私は桃子を探す。

「ことねー!」

 先に気づいてくれた桃子が私の名前を呼んでいる。

「あ、桃子! おまたせー」

 前と違って今日はカウンター席だ。

 私は桃子の隣の席に荷物を置いた。

「飲み物買いに行こうか」

 桃子がそう言って席を立つ。

 どうやら私が来るまで待っていてくれたようだ。

 財布を持ち、注文待ちをしている数人の列の後ろに並ぶ。

「どれにしようかな……」

 私は紅茶が好きなのでいつもそればかり頼むのだが、今日はなんとなく違うものを飲んでみたい気分。

 そうこう迷っているうちに、桃子の方が先に注文をし、会計を済ませる。

「お次お決まりの方どうぞー」

 そう言われて自分が1番前にいたことに気づき、慌てて前に進む。

 レジの前まで来たのはいいものの、実を言うと何を頼むかまだ決まっていなかった。

 私は慌ててメニューに視線をやる。

 すると、不意に目に入ったものがあった。

「これ、ください」

 私はメニューを指さして注文をする。

「かしこまりました!」

 元気な笑顔の店員さんにより、その後スムーズに会計まで済ませた。

 それから少し待って飲み物を受け取ると、桃子が不思議そうに私の飲み物を見ていた。

「あれ、いつものアイスティーじゃないの?」

「うん、今日はね」

 そっか、と言う桃子はいつも通りの抹茶ラテを持っている。

 いつもそれを飲んでいてよく飽きないなぁと思ったが、私の紅茶好きも似たようなものだと思い、突っ込むのはやめた。

 席に着いてすぐストローに口をつける。

 乾ききっていた喉に潤いが戻ってきた。

「ふぅー……」

 飲んだ事で少し量の減ったグラスを見つめながら、私はストローを使ってくるくると氷を遊ばせる。
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