命の記憶

桜庭 葉菜

文字の大きさ
24 / 27

私の記憶 1

しおりを挟む
 死神に会ってから数日が経ち、長いようで短かった夏休みは今日で最後。

 この1年間のことを本当にみんな忘れているのか、私には確認する術がなく、なんだか実感のわかない日々を過ごしていた。

 それでもこうちゃんのノートは確かに私の手元にあって、私はこうちゃんのことを全部覚えている、これだけは事実だ。

 他の人はどうであれ、私がこうちゃんのことを忘れていない、それだけで十分。

 私はこうちゃんのノートに一瞬目をやってからリビングに向かった。

 今日は桃子と夏休みの最初に行ったカフェで会う予定がある。

 11時にカフェ集合の約束。

 現在の時刻は9時。

 明日から学校だというのに少し遅く起きてしまった。

 そんな後悔が多少なりとも湧いてくる。

 だが今過ぎたことを悔やんでも仕方ない。

 この事はカフェについてから桃子にでも愚痴ろう。

 そう思いながら遅めの朝ごはんを済ませた。

 前と同じカフェに1人で向かう。

 夏休みが終わるというのに相変わらずの暑さが続いている。

 このまま冬なんて来ないんじゃないかとさえ思う。

 まぁもちろんそんなわけないのだけれど。

 1人ノリツッコミの果て、約束の時間ぴったりにカフェの前に着いた私は、すぐに涼しい店内に入った。

「いらっしゃいませー」

 店員さんの爽やかな声に迎えられながら、私は桃子を探す。

「ことねー!」

 先に気づいてくれた桃子が私の名前を呼んでいる。

「あ、桃子! おまたせー」

 前と違って今日はカウンター席だ。

 私は桃子の隣の席に荷物を置いた。

「飲み物買いに行こうか」

 桃子がそう言って席を立つ。

 どうやら私が来るまで待っていてくれたようだ。

 財布を持ち、注文待ちをしている数人の列の後ろに並ぶ。

「どれにしようかな……」

 私は紅茶が好きなのでいつもそればかり頼むのだが、今日はなんとなく違うものを飲んでみたい気分。

 そうこう迷っているうちに、桃子の方が先に注文をし、会計を済ませる。

「お次お決まりの方どうぞー」

 そう言われて自分が1番前にいたことに気づき、慌てて前に進む。

 レジの前まで来たのはいいものの、実を言うと何を頼むかまだ決まっていなかった。

 私は慌ててメニューに視線をやる。

 すると、不意に目に入ったものがあった。

「これ、ください」

 私はメニューを指さして注文をする。

「かしこまりました!」

 元気な笑顔の店員さんにより、その後スムーズに会計まで済ませた。

 それから少し待って飲み物を受け取ると、桃子が不思議そうに私の飲み物を見ていた。

「あれ、いつものアイスティーじゃないの?」

「うん、今日はね」

 そっか、と言う桃子はいつも通りの抹茶ラテを持っている。

 いつもそれを飲んでいてよく飽きないなぁと思ったが、私の紅茶好きも似たようなものだと思い、突っ込むのはやめた。

 席に着いてすぐストローに口をつける。

 乾ききっていた喉に潤いが戻ってきた。

「ふぅー……」

 飲んだ事で少し量の減ったグラスを見つめながら、私はストローを使ってくるくると氷を遊ばせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

好きって伝えたかったんだ。

まいるん
恋愛
ごめんなさい。 あの時伝えてれば。素直になれていたら。 未来は変わったのだろうか。 ずっと後悔してる。 もしもう一度君に会えたら。 もしもう一度君と話せたら。 高校1年生のすいは、同い年で幼なじみの蓮のことが好きだけど、告白できずにいた。想いを伝えることはできるのか。2人は結ばれるのか。 幼なじみ同士の少し不思議で切ない物語。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...