命の記憶

桜庭 葉菜

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私の記憶 2

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 カランカランと、氷とグラスのぶつかる音。

 なんだか風鈴のような優しい涼しさを感じられた。

「明日から学校だねー」

 と、桃子が口を開く。

「桃子、宿題終わった?」

「もちろん! 終わってなきゃ今ここに来られてないよ!」

 ちょっぴり膨れっ面になりながら返事をしてくる。

 中学の頃は最後の1週間で桃子の残り半分の宿題を2人で終わらせようと必死になったこともあった。

 私からすればただの懐かしい思い出だが、桃子はかなり辛かったらしい。

 あれ以来、桃子は夏休みの宿題を1週間以上前に終わらせるようになった。

 今年もその恐怖を思い出して頑張ったのだろう。

 それからはお互いの夏休みの思い出や、これからの予定など、2時間ほど喋った。

「私このあと塾あるから、もう少ししたら帰らなきゃ」

 桃子がスマホを見ながら申し訳なさそうに言う。

「来年、受験だもんね、私も頑張らなきゃ」

 ポジティブに返事をしたつもりだったのだが、桃子の顔がまるで何か悪いものを目にしたかのように、唐突に曇った。

「あ、あのさ、琴音……」

 さっきよりも明かに暗い声で話しかけてくる。

「な、なに?」

 桃子に釣られて、私まで変に緊張した返事になる。

「前に琴音の好きな人のこと話してくれたでしょ? 覚えてる?」

 桃子の口から恐る恐る発せられた言葉。

 私の好きな人。

 間違いない、こうちゃんのことだ。

「覚えてるよ」

「そのことで、琴音に言わなきゃいけないことがあるんだ」

 桃子の顔がますます曇る。

 私は桃子が何を言おうとしているのかわかってしまった。

 あれから確かめられなかったこと。

 そうか、契約を交わさなかったらここでこうちゃんの話を聞くことになったのか。

 私はこの先を、桃子の口から言わせていいのだろうか。

 こんなに辛そうな顔をしている桃子に。

「言わないで」

 桃子が口を開くより先に言った。

 本当は自分が聞きたくないだけかもしれない。

 たとえそんな私の我儘だったとしても。

「こうちゃんのこと、全部知ってるから、大丈夫」

 無理して笑ってるってバレているかもしれない。

 それでもこれが1番、私も桃子も辛い思いをしないであろうと考え、必死に笑う。

 でも、こんなにも笑っているはずなのに、桃子の顔が歪んでいく。

 どうして?

「こと、ね……?」

 名前を呼ばれてようやく気がついた。

 私は、泣いていた。

 あんなに泣いたはずなのにまだ涙が出るなんて。

「ごめん。
こうちゃんが、もういないって、知ってたの」

 死神に真実を告げられ、誰にも話さないと誓った。

「でもね、本当はずっと、信じたくなかった」

 こうちゃんがもうこの世にいないこと。

 私しかこうちゃんのことを覚えていないこと。

 真実をまた突き付けられるのが怖かった。

「ごめん、辛いこと、言わせようとして」

「私こそ、ごめん……辛いこと思い出させて」
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