20 / 27
守りたいもの
しおりを挟む
「ああ。あいにく、もう無人だ。俺が襲って乗っ取った。ここは今、俺が住処にしている。それらしい女もいたが、とっくに味わって殺した。」
レインは普通に有りうる話をしたつもりだが、冷静を取り戻した男は、今度は疑わし気な目を向けてきた。
「なるほど・・・で、お前自身はなにか変わったことは無かったか。」
「変わったこと・・・?」
「ふむ・・・。」
視線を外されたかと思うと、男も黙って意識を集中する様子をみせた。
「確かに誰もいないな・・・この屋敷には。」
それから顔を上げた男は、不敵な笑みを浮かべていた。レインはゾッとした。さらに男は、そばにいる者にこう命じたのである。
「湖の方向。連れてこい。」
クソッ・・・。レインはあわてて飛び立った。自分にはそこまで感知できなかったが、湖のほとり。木々が無くなり、山の尾根から朝日がまともに射してくる場所。ラヴィはそこへ向かっているんだ。
ところがいち早く駆け付けたいレインの進路を、リーダーの男が素早く動いて妨害する。
「まあ、待て。もっと詳しく説明してやる。我らの指導者は人間に倣って統制のとれた国づくりをしようとしている。人間を管理し、生かして、我らが苦労せずとも飢えないようにする。仲良く共存しようというわけだ。」
「管理・・・。」
違う・・・こいつらの言う共存は、俺が望んでいるものとはぜんぜん違う。人間の自由を奪うつもりだ。
まったく共感できず、レインの胸には怒りだけがこみ上げた。だが非難している暇はない。レインはとにかく先を急ぎたかったが、複数人にことごとく回り込まれて、振り切ることができない。なんせ、そもそも衰弱している体だ。空中で激しく動いていればすぐに体力はもたなくなる。
地上に降りたレインは、湖へ向かって飛ぶように走った。夜の暗闇はなんとなく薄れ始めているように感じた。奴らも時間を気にしているはず。見つかれば、さっさと連れ去られてしまうだろう。
どうか、無事で ――!
がむしゃらに駆け付けたレインだったが、祈りは叶わず、湖の桟橋があるあたりに、ラヴィと吸血鬼のリーダーの姿が一緒に見えた。二人は向かい合って、何か話しているらしい。周りにはほかの吸血鬼と、子供たちもいる。子供たちは少し離れたところで固まって、怯えていた。
最悪だ、いや、まだ連れ去られていない・・・!
「ラヴィ!」
「レイン・・・。」
子供たちから引き離されたラヴィの声は弱々しく、ひどく不安そうな顔をしている。
「追いついてきたか・・・。連れて行く前に確認したいことがいろいろあってな。なのにこの女、親のことを何も知らないときた。」
その頃の記憶はないからな。だからといって、大した問題ではないだろう。状況から十中八九あたりだと確信しているはず。
どうにも下手に動けず、心の中でそうつぶやきながらレインはただ見守るしかしようがない。
「では、ラヴィ・・・と言ったか。女、正式名はラビアンだろう。」
ラヴィは驚いて目を大きくした。
「ふ、名は一致したな。それから・・・」
男はラヴィの腕をつかんで引き寄せ、ラヴィの首に鼻先を近づけた。
レインはむかっ腹がたったが、こらえた。
「は・・・やはりな。」
男はふうと吐息をつき、冷や汗をぬぐった。吸血鬼の毒牙にかかった獲物にはその匂いがつく・・・が、それがしない。
「これは良かった。しかし驚いたな・・・どうであれ、まだ手をつけずにいられるとは。」
レインは嘘を全て確かめられたのだと理解した。
「あのことを知りもせず傷つけていないとなると、さてはお前、知られたくないのか ? まあ、だいたい察していたがな。」
「黙れ!」
「・・・まあいい。おかげで任務をまっとうできそうだ。ではこの女にも分かりやすく、気を取り直してもう一度話してやろう。もと王族は我ら革命軍によって皆殺しとなったが生き残りがいる。それが、種特異性吸血鬼を作り出す変異種。おい女、お前のことだ。そういうわけで、我らの長にその血を捧げてもらう。」
「ふざけるな、勝手なことを・・・。」
つまり改めて整理すると、俺がここで過ごしているあいだに王制が覆ったというのか。にわかには信じがたいが、なによりラヴィが何だって?
とにかく・・・こいつらがラヴィを欲しがっているなら、渡してたまるか。こうなればもう、たとえ正体を知られて拒絶されても構わない・・・。
鋭い顔つきになったレインの目の色が鮮やかな赤色に変わっていく。
そうかもしれないと、うすうす勘付いてはいたものの、ラヴィは驚愕して両手で口を覆った。
病弱なせいだと思っていた透き通るような青白い顔と、銀髪に映える赤い瞳。それは怖いほど妖艶な美しさでありながら、レインは吸血鬼の兵団を反抗的な目つきでじっと見据えている。
「これ以上抵抗するなら、お前は反逆罪で極刑だ。そしてガキどももさらっていく。さっきも言ったように、新しい国造りには奴隷も食料も必要でな。」
「そうはさせない・・・。」
唸るような低い声でレインはこたえた。
レインは普通に有りうる話をしたつもりだが、冷静を取り戻した男は、今度は疑わし気な目を向けてきた。
「なるほど・・・で、お前自身はなにか変わったことは無かったか。」
「変わったこと・・・?」
「ふむ・・・。」
視線を外されたかと思うと、男も黙って意識を集中する様子をみせた。
「確かに誰もいないな・・・この屋敷には。」
それから顔を上げた男は、不敵な笑みを浮かべていた。レインはゾッとした。さらに男は、そばにいる者にこう命じたのである。
「湖の方向。連れてこい。」
クソッ・・・。レインはあわてて飛び立った。自分にはそこまで感知できなかったが、湖のほとり。木々が無くなり、山の尾根から朝日がまともに射してくる場所。ラヴィはそこへ向かっているんだ。
ところがいち早く駆け付けたいレインの進路を、リーダーの男が素早く動いて妨害する。
「まあ、待て。もっと詳しく説明してやる。我らの指導者は人間に倣って統制のとれた国づくりをしようとしている。人間を管理し、生かして、我らが苦労せずとも飢えないようにする。仲良く共存しようというわけだ。」
「管理・・・。」
違う・・・こいつらの言う共存は、俺が望んでいるものとはぜんぜん違う。人間の自由を奪うつもりだ。
まったく共感できず、レインの胸には怒りだけがこみ上げた。だが非難している暇はない。レインはとにかく先を急ぎたかったが、複数人にことごとく回り込まれて、振り切ることができない。なんせ、そもそも衰弱している体だ。空中で激しく動いていればすぐに体力はもたなくなる。
地上に降りたレインは、湖へ向かって飛ぶように走った。夜の暗闇はなんとなく薄れ始めているように感じた。奴らも時間を気にしているはず。見つかれば、さっさと連れ去られてしまうだろう。
どうか、無事で ――!
がむしゃらに駆け付けたレインだったが、祈りは叶わず、湖の桟橋があるあたりに、ラヴィと吸血鬼のリーダーの姿が一緒に見えた。二人は向かい合って、何か話しているらしい。周りにはほかの吸血鬼と、子供たちもいる。子供たちは少し離れたところで固まって、怯えていた。
最悪だ、いや、まだ連れ去られていない・・・!
「ラヴィ!」
「レイン・・・。」
子供たちから引き離されたラヴィの声は弱々しく、ひどく不安そうな顔をしている。
「追いついてきたか・・・。連れて行く前に確認したいことがいろいろあってな。なのにこの女、親のことを何も知らないときた。」
その頃の記憶はないからな。だからといって、大した問題ではないだろう。状況から十中八九あたりだと確信しているはず。
どうにも下手に動けず、心の中でそうつぶやきながらレインはただ見守るしかしようがない。
「では、ラヴィ・・・と言ったか。女、正式名はラビアンだろう。」
ラヴィは驚いて目を大きくした。
「ふ、名は一致したな。それから・・・」
男はラヴィの腕をつかんで引き寄せ、ラヴィの首に鼻先を近づけた。
レインはむかっ腹がたったが、こらえた。
「は・・・やはりな。」
男はふうと吐息をつき、冷や汗をぬぐった。吸血鬼の毒牙にかかった獲物にはその匂いがつく・・・が、それがしない。
「これは良かった。しかし驚いたな・・・どうであれ、まだ手をつけずにいられるとは。」
レインは嘘を全て確かめられたのだと理解した。
「あのことを知りもせず傷つけていないとなると、さてはお前、知られたくないのか ? まあ、だいたい察していたがな。」
「黙れ!」
「・・・まあいい。おかげで任務をまっとうできそうだ。ではこの女にも分かりやすく、気を取り直してもう一度話してやろう。もと王族は我ら革命軍によって皆殺しとなったが生き残りがいる。それが、種特異性吸血鬼を作り出す変異種。おい女、お前のことだ。そういうわけで、我らの長にその血を捧げてもらう。」
「ふざけるな、勝手なことを・・・。」
つまり改めて整理すると、俺がここで過ごしているあいだに王制が覆ったというのか。にわかには信じがたいが、なによりラヴィが何だって?
とにかく・・・こいつらがラヴィを欲しがっているなら、渡してたまるか。こうなればもう、たとえ正体を知られて拒絶されても構わない・・・。
鋭い顔つきになったレインの目の色が鮮やかな赤色に変わっていく。
そうかもしれないと、うすうす勘付いてはいたものの、ラヴィは驚愕して両手で口を覆った。
病弱なせいだと思っていた透き通るような青白い顔と、銀髪に映える赤い瞳。それは怖いほど妖艶な美しさでありながら、レインは吸血鬼の兵団を反抗的な目つきでじっと見据えている。
「これ以上抵抗するなら、お前は反逆罪で極刑だ。そしてガキどももさらっていく。さっきも言ったように、新しい国造りには奴隷も食料も必要でな。」
「そうはさせない・・・。」
唸るような低い声でレインはこたえた。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる