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第4章 旅の協力者
10. 関守 マルクス
しおりを挟む関所に戻ってくると、まだ無駄な消火活動が懸命に行われていた。意外と長持ち。結局はラキアが白状し、説明をし、精霊術によって速やかに消してみせた。誰も彼もが、その様子を狐につままれたような顔で見届けた。
それから一行は、今度は大橋のそばの、留置所とは反対の川沿いにある立派な館へと案内された。
その前に、イシルドは、ついてきた二人の部下を持ち場へと戻らせた。
フェンスが張り巡らされた広い敷地の奥にある、三階建ての茶色い建物。その中央の天辺には、暗くてよく見ることはできないが、何か大きな旗がはためいていた。一行をそこへと連れてきたイシルドは、門を通り抜けて庭を歩きながら、今向かっているその建物について彼らに話をした。
「ここは王国の中心的役割を担っている。国中から、領主や名立たる騎士、他にも偉い方々がお越しになる。そういった方々による会議が開かれることもあるし、旅の途中で宿泊を求めて立ち寄られることもある。」
「ルファイアス騎士や、ラルティス総司令官も?」
リマールは、そう思うと同時に口にしていた。
「もちろんだ。」
ここはそれで無駄に大きいわけではなく、こんなに立派に造られたんだ。英雄、統治者、軍の上官・・・様々な力のある者たちを迎え入れるだけの風格ある建物を、リマールは改めてよくよく眺めた。
「そういえば、最近、ルファイアス騎士がお見えになったばかりだ・・・ああ、なるほど、それで。」と、イシルドはアベルを見つめた。
アベルにも分かった。自分に会うための旅の途中でだ。その帰りには、ここで関守のマルクスという人に会い、事情を打ち明け、頼み事をしただろう。
館内に入ると、列柱の大ホールが目の前に広がった。絨毯が敷かれた幅の広い階段が、正面奥に見える。一行は、その階段を上がっていった。踊り場の上の壁には、大きなタペストリーが掛けられていた。
アベルは、その現実離れした画に気付いてから通り過ぎるまで、圧倒されて釘付けになった。その中では、空を飛ぶ一角獣と勇敢な騎士が、荒波が打ち寄せる岩場で戦っている。それをさらに、もう一度振り返って見た。そしてそのまま、最上階まで上がった。
やがて、重そうな茶色い扉の部屋の前に着いた。
イシルドがノックをしたが、足音で気付いていたのか扉はすぐに開けられ、一行は中へ通された。
部屋の真ん中あたりに、応接用の低いテーブルを挟んで、ふかふかのソファーが二脚、向かい合わせに置かれてあった。
そして、大河を間近に見下ろせる大きな窓の前に、口角をキリッと上げた笑顔の男性が立っていた。両手を体の前で軽く重ね合わせ、真っ直ぐに姿勢を正して待ち構えている。痩せた年配の男の人だったが、その黒い瞳からは、何か先を見通すことができる頭の良さをアベルは感じた。
また彼の方では、ルファイアス騎士によく似た青年と、アレンディル陛下と同じ髪と瞳の色をしている少年を確認すると、内心息を呑んでいた。
扉のそばにいる秘書を退室させたその男性は、自分と衛兵長、そして一行だけになると慌てたように動いて、アベルの前にいきなりひざまずいた。さらには、イシルドまで見計らっていたかのように彼の隣にきて、同じ姿勢をとったのである。
「とんだ御無礼を。」
土下座しそうなほど深く頭を下げて、男性が謝りだした。
「あの・・・困ります。まだアレも見せてないし・・・普通にしてください。」
アベルは二人を立ち上がらせた。アレとは、当然、彼らを勢いよくひざまずかせた理由を決定づけるもののこと。
「あなたが・・・マルクスさん・・・ですよね?」
「はい。そろそろお見えになるのではと、真夜中にも馬車を走らせ、こうして早急に戻って参りました。」
ああ、やっと会えた。できれば、もう半日早く帰ってきて欲しかったけど・・・。アベルは、ちょっとだけ恨み言を胸の内で零した。
「あの、じゃあ今、証拠を。」
「そうですね、決まりのようなものですから、まずは確認しなくては。お願いします。」
襟ぐりから胸に手を入れて、アベルは首にかけている金の鎖を引き上げた。
その懐から現れたものを、マルクスは何度も見て、よく知っていた。
刻み込まれた王家の紋章と、レッドダイヤモンドが威厳たっぷりにきらめく。
マルクスは、そのペンダントトップを囲うように両手を近づけた。
「まさしく。これで、いろいろと協力させていただくことができます。」
そして彼は、触れそうになったその手をゆっくりと引いていき、代わりに右手をソファーヘ向けた。
「さあ、どうぞこちらへ。」
マルクスは、キャビネットの一番広い引き出しから、布に貼られた大きな地図を取り出してきて、テーブルの上に広げた。
「これは、王国の東側、橋を越えた向こうにある軍事基地が記された地図です。つまり、強い味方がいる場所ということです。覚えておかれるとよろしいかと。」
そう言われて、レイサーやアベル、そしてリマールは、身を乗り出して地図を覗き込んだ。とはいえ、実際どう役立てればいいのか正直よく分からなかったが。
「王都周辺の道は、どこでもよく検問が行われます。ガゼルの一件でほかへも手配書が回っているでしょうし、私の名でその全てに通用する通行証を書いておきましょう。自分で言うのもなんですが、検問所に限らず、私の名は様々な場所で役に立ちます。もう足止めされることも無くなるでしょう。」
そして彼は、少し冗談混じりにこう付け加えた。
「例えば、今回のように、必要ならば多少無茶をしても許されるということです。」と。
レイサーは、「誰のせいだと思ってるんだ。」と言ってやりたいところだったが、アベルもリマールも、この人に会わなければならない理由がよく分かった。彼はとにかく、とても力のある有名人だ。ルファイアス騎士のように、昔は何か大きな手柄を立てた英雄なのかもしれない。一時は会わずに先を急いだ方がいいのかとも考えたが、結果的にこうして知り合うことができたのは幸運だった。
「ここからイスタリア城までは、我々が馬車でお送りします。」
関守マルクスは、こちらが何も言わなくても、どんどん話を進める。万全に準備し、すでに手配済みだと言わんばかりに。
しかし正直、レイサーはいくらか迷った。だが、大橋を渡ったあとフェルドーランの森へ入るまでは緩やかな丘陵地帯が続き、牧場や畑ばかりで、隠れられそうな森林の道などたいしてないのを、レイサーは知っていた。目の前の地図からもそれが分かる。ならば、疲れる坂道を早く進める方がいいと思った。先ほど襲撃できる機会があったにもかかわらず、追いかけてきたのが暗殺兵団ではなく、衛兵たちだけであったことから、まだ自分たちの方が先を行っていると考えられたからだ。
その後、一行は同じ建物内のベッドがある綺麗な部屋をそれぞれ与えられた。出発は早朝と決まったので少ししか休めなかったが、留置所で朝まで待つことに比べればずっといい。
そうして、この日一日、いろいろありひどく疲れていた旅人たちは、気持ちの良いベッドですぐに休んだ。
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