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プロローグ
王の指令
しおりを挟む副隊長のヴルーノは、日増しに強くなる不安と焦りをこらえて、今朝も川辺に立った。
凪いだ青い川の対岸に、濃い緑色の深い森。沈黙を守るかのように、その中で起こったことの何も伝えてはくれない。いよいよ、自分たちの方から行くべきか・・・。
目の前には、そこへ行ける長い橋がのびている。その先には、一筋の小道が遠くまで続いているように見えるが、南の国境沿いに広がるその樫の森は、ほとんど未開の地だ。
だがその中に、一つ独特な村が存在する。
まさにそこへ、第一部隊と荷物を運んでくれる五頭の馬を連れて、ラルティス総司令官は旅立っていった。
王の指令によって。
「その村へは半日(五、六時間)もあればたどり着く。問題が片づくまでに数日かかるだろうが、一週間以内には戻れるだろう。」
「はい。こちらのことはお任せください。」
頼むぞ、というような目を向けられ、うなずいた彼を見つめ返したあの時、ヴルーノは何の心配もしていなかった。
「では、行ってくる。」
「お気をつけて。」
そんな会話を交わしたのが、もうずいぶん前のことのように思われる。
重いため息をついて、ヴルーノはまた川の向こうを見つめる。
その時、不意に風が吹いた。気づけば、灰色の雲が流れてきている。強い風が何度か、少し長いあいだ吹いた。森の木々がゆらゆらと揺れる。木の葉がかさかさとざわめく。
鬱蒼とした森が、こちらの様子に気づいて両手を広げ、怪しくささやきかけながら手招いているかのようだ・・・。
そのように森を不気味に感じ始めたのは、三日ほど前からだ。あの謎めいた森の中で、あるいはその不思議な村で、いったい何が起こっているのか。彼らは今、どういう局面に立っているのだろう。
すると、あの日の総司令官の背中が思い出された。
そういえば、彼は川の向こうに広がるあの森を、異様に長いあいだ見つめていた。今だから、そのことに気づいた。
きっと、何か不吉を感じておられたに違いない。
思えば〝王の指令〟は〝疑問〟だ。言い換えれば〝王からの指令〟ということ。これはおかしい。
そう誰よりも早く気づいて、ラルティス総司令官はあの時、これから進むべき道を注意深く、よくよく眺めていたのだろう。そうに違いない、と、今は強くはっきりと感じられる。
なぜなら・・・。
あれから、一週間が過ぎ、今日で十日目。
彼らはまだ帰っては来ない・・・。
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