イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第1章  暗 躍

3. 物騒な小男

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 王都おうとを守るために配属された兵士はみな、市壁の中にある城で生活している。城は兵士たちの宿舎であり訓練場である。上官たちによる会議の場としても使われる。

 見習い兵士のアベルや、軍医見習いのリマールもまた、その城の中に眠る部屋を与えられて暮らしていた。ただし、アベルは自分と同じような新米しんまい兵士たちと同じ大部屋。リマールの方は個室だが、ベッドと机と本棚でスペースは無くなるような、もともと寝室でないところを改装かいそうした小部屋である。夜の自由時間になると、アベルはこのリマールの部屋をおとずれて、一日の出来事を語り合うのを習慣にしていた。

 そして、満月に薄雲がかかる夜のこと。

 詰所つめしょには先輩兵士も数名ひかえているが、今、アベルは、新米兵士のヴォルトと二人だけで、門番をしていた。その門の両脇で燃えているかがり火の前に一人ずつ立って、私語をつつしみ、衛兵えいへいらしくじっと直立したまま外を見つめていた。

 市壁沿いにも、道を照らしている街灯がいとうが立っている。長い時間、そこには誰も現れず通りはひっそりとしている。なんせ、今は真夜中だ。深夜の冷たい空気が顔にしみる。

 この時間の当番は特に退屈なのに、特に油断禁物で、ずっと気を張っていなくちゃいけない。見習いや新米の二人は真面目まじめに職務にしたがっていたので、さっと視線を向けることができた。

 今、街灯が照らした人影に。

 その人は、フェルドーランの森に続いている木立の中から、突然ひょっこり出て来た感じだった。実際はそうでもないかもしれないが、遠目には、少し腰の曲がった老人といった雰囲気の小男こおとこだ。そう見えるのは、彼が少し前屈まえかがみになりながら、不自然な姿勢でやってくるから。そして、時々ふらつく。

 老人か、酒に酔ってるかのどちらかだろう。もしくは両方。そう思いながら、若い少年兵士たちは様子を見ていた。

 そのフードを目深まぶかにかぶった怪しい人物は、そのまま二人の前へとやってきて、また一瞬よろめいた。

 門番の二人はすっと動いて、その男の前に立ちはだかる。そして、事務的に決められた質問をしようとした。

 すると。

「待って・・・。」と、男の方が言ってきた。

 不意をつかれて、二人の少年兵士は思わず待った。

 その男からは、すぐには、言葉は出てこなかった。少ししてから、聞き取りにくい小さな声で、男はうつむいたまましゃべりだした。途切とぎれ途切れに、最初の言葉はこうだ。

「私は・・・あなた方の質問に・・・正直に答えることが・・・できない。」

 唖然あぜんとなったあとで、門番の二人は困った顔をした。え・・・ほんとのことが言えないの? それじゃあ、何をきいても意味がない。とりあえず、彼を調べるか。そう思い、ヴォルトは彼に一歩近づく。

 男も一歩身を引いた。手を伸ばしたヴォルトからのがれようと。そして、先に話させて欲しいというように、てのひらを向けてきた。

「すると、あなた方は・・・私を・・・調べる。そして上の者を呼び・・・多くの者が・・・私のことを知ることになる。」

 息遣いきづいも荒く、ほんとに深酔ふかよいのせいか具合ぐあいが悪そうだ。ただそうすると、酒臭くないのが不思議だった。そう思うも、まずは門番の義務を果たさなくてはならない、と二人も考え、ひとまず調子を合わせることに。その対応は、少し先輩のヴォルトが引き受けた。

 それでヴォルトは、「・・・そうですね。」と、返した。
「それはならない・・・私は・・・味方みかた。」

 アベルとヴォルトは顔を見合う。そして思った。酔っぱらいって、こんなふうにしゃべるものだったか。もっと陽気になって、あること無いことをぺらぺら口走るものだと思っていた。でも、泣く人もいるし、人生を語る人もいる。考えてみれば様々だ。

「若い兵士さんたち。どうか・・・私を・・・密かに・・・アレンディル・・・王のもとへ・・・連れていってはもらえないか。」

 この人、いよいよ突拍子とっぴょうしもないことを言いだした。自分の言葉が分かっているのか。泥酔でいすいしているようには見えないが、朝になったら記憶が無くなっているんじゃないか。

「そのわけは・・・。」
「私の報告を・・・王が・・・聞いたと知られないために・・・密かに・・・王に会わねばなりません。私は・・・王と、そして・・・この国を救える・・・重大な情報を持っている。これを伝えなければ・・・ウィンダー・・・王国は・・・何の手を打つ間もなく・・・ほろぼされる。」
「いったい、何を・・・あの、あなたは何者なんです。」
「私にあまり・・・話させないで。すでに・・・今・・・この場で口にすべきではないことを・・・少し・・・しゃべってしまった。これ以上は・・・説明・・・できない。どうか、信じて。」
「そうはいきません。王都の門をくぐろうとする者を調べるのが、わたしたちの義務。あなたのような物騒ぶっそうなことを口にする者を、特に見過ごすわけには・・・」
「王は私をよくご存知だ!」

 男はとうとう、気力の全てを振り絞ったような声を放った。そして、うっ・・・とうめいて、少し体を沈ませた。我慢がまんして立っているようだ。

 その場は数秒、シン・・・となった。

 にわかに、不安が胸をしめつけ始めた。二人とも、彼をただの酔っぱらいで片づけてはいけないような気がしてきた・・・。
 
「私がここへ来たことを・・・彼らに・・・知られてはならない・・・かんづかれてしまうから。なるべく・・・人目につかないように・・・どうか・・・王の御前へ。」

 男のさっきの声に驚いたアベルの心臓は、今もずっとドキドキしている。彼の具合が悪そうなのは、酔っているせいだ。それで、少しおかしくなってて、めちゃくちゃなことを・・・と、思いたかった。でも・・・きけば、会話が成り立つ答えが返ってくる。謎めいてはいても、受け答えはおかしくない。

 アベルは、下からのぞき込むようにして、男の顔をよく見ようとした。
 フードのかげの中で、引きほおと、震えるくちびるが見えた気がした。その頬ににじむ、一筋の血も。そして確信した。

 この人の顔も声も、やっぱり酔ってなんかない・・・! 

 一方、ヴォルトは恐る恐る話を続ける。
「彼らと・・・いうのは?」

 と、その時。
 男はまたうめき声を上げたかと思うと、がくんとひざを折った。

「待って、ヴォルト・・・この人・・・。」

 アベルは男の体を支え、彼の外套がいとうをそっと開いてみる。
 すると、右の横腹あたりに、赤黒いシミが見えた。
 そこから、矢羽が生えている・・・!

怪我けがをしてる・・・!」

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