イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第1章  暗 躍

4. 撃たれた男の正体

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「これで、少なくとも、私に王を傷つけられるような力など無いことは、お分かりいただけたか。」

 男は、アベルに体重をあずけながらそう言った。アベルは今、男の左の脇の下から背中へ片腕を回して、正面しょうめんから引き起こすようにその体を支えている。

 事情はよく分からないが、狙われてるみたいだし、この人の言うことが本当なら王国の危機だ。僕なら人を介さないで兄上に会わせることができる。全くというわけにはいかないけど。

 アベルはそのまま振り向いて、肩越しにヴォルトを見た。
「矢・・・抜かないと。」
「いや、今はダメだ。いっきに失血すると思う。それに、やじりの形状によっては簡単に抜けないし、下手にさわったらひどくなるよ。」

 アベルは弓術きゅうじゅつを得意とするが、弓矢にくわしいわけではない。その点は、少し先輩のヴォルトの方がよく知っている。

「でも、とにかく、この人を手当てしないと。ヴォルト、僕に任せてくれないか。」
「どうするんだ?」
「できるだけ密かに、この人が望むことをする。」
「どうやって。」
「あてがあるんだ。とにかく、ここをお願い。何とかごまかして。」
うそだろ、交代が来たら何て言えばいいんだ。もし部隊長が見回りに来たら?」
「僕は貧血でちょっと休んでるとか言っといて。」
「どうせ、すぐにバレるよ! そしたらしかられるっ。」
「責任は全部僕がとるよ。」

 アベルは、謎の彼に肩を貸しながら歩いて、馬がいる方へ向かった。自分の馬だ。傷ついた彼を馬の背に乗り上がらせる時には、ヴォルトも手を貸した。
 アベルは手綱たづなをほどいて、彼の後ろにまたがった。そして、静かに馬を歩かせながら城を目指した。
 それをヴォルトは、落ち着かない気持ちのまま見送った。

「傷にひびく時は言ってください。馬を停めますから。」
「ありがとう・・・なんとか耐えられそうだ・・・。」
 顔にあぶら汗を滲ませながら、男は弱々しく答えた。
「あなたをまず、友人の軍医にみせます。それから知り合いに頼んで、直接、王のもとへ。」
「知り合い・・・とは。」
「王の近衛兵このえへいです。」
「エドリック騎士と・・・マクヴェイン・・・騎士。」
「エドリック騎士の方にお願いできると思います・・・あの・・・あなたは?」

 この人は今、二人の近衛兵の名を、即座そくざにはっきりと口にした。つまり、軍の関係者でなければ、内部に詳しい者だ。そういえば、彼はさっき、アレンディル王は自分のことをよく知っているとも言い放った。

「若い兵士さん・・・あなたこそ・・・誰。」

 アベルが、彼のことをただ者でないと感じているように、王の近衛兵を知り合いだと言い、ずいぶん容易たやすいことのように動いてくれる若い兵士は、彼にとってもまた謎である。

 それで、男が肩越しにしげしげと見つめていると、アベルはこう言った。
「私はあなたを信じた。あなたのことは、ひとまず王に会わせるまでは、その二人のほかには誰にも言いません。それに、ほかの誰にも見られないようにします。もし、あなたも信じて正体しょうたいを教えてくれるなら、私も名乗ることができるかもしれない。」

「私は・・・。」いくらか思案しながら、男は答えた。「私は、ベルニア国の統治者とうちしゃ・・・ムバラート様の・・・側近そっきん。いや、もと側近だ。」
 すぐにかんが働いた。
「では、あなたがもつ情報とは・・・もしかして、侵略計画。」
「まだ・・・口に出してはいけない。それで・・・あなたは。」

「私はアベルディン。」

 もと側近は、絶句ぜっくしたようだった。
「殿下・・・。」
「どうか、それも内緒で。」

 アベルは、城が建っている高台のふもとに馬をとめた。そして、崩れるように馬から下りた負傷者をうまく受け止めてやり、支えながら歩いて、しげみの陰になった場所にある、木のみきを背もたれにして座らせた。

「ここで待っていてください。」

 男は力無く、かすかにうなずいた。

 アベルは城館を見上げた。灰褐色はいかっしょくの城は、ランプやかがり火に照らされて白く、夜空にいかめしく浮かび上がっている。それは段々に築かれていて、長い坂道やいくつもの階段をまとっている。城まではすぐのように見えるが、リマールのもとへたどり着くにはまだ遠い。

「頑張ってください。できるだけ早く戻ってきますから。」

 そう声をかけて離れたアベルは、城館へと続く坂道を、馬を飛ばして上がって行った。

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