11 / 69
第1章 暗 躍
8. 叔父 ムバラート
しおりを挟む
ベルニア国。そこはウィンダー王国の北の国境沿いに位置する、先代王ラトゥータスの弟ムバラートが統治している州のこと。いくつかの町を包括する行政区画を、この国では州としている。
そこへは、王都からなら、ほぼ真っ直ぐに北へ向かえばたどり着く。農地が広がる平原を横切り、渓谷を通り、滝が流れ落ちる川を渡り、丘をいくつも越えて行くが、道のりはそれほど険しいものではない。
ウィンダー王国は、おおかた豊かな緑と自然に覆われている。それは昔から大切にされてきた賜物。例え戦争で焼け焦げようとも、不断の努力で生き返らせてきたからだ。
王のお供には、近衛兵であるエドリックとマクヴェイン、それに屈強の騎士団のほか、高齢のためいつもは置いて行かれる侍従のゼルフィンが同行した。もういつ、あの世からの迎えがあるか分からないので、できるだけ王族の者たちと会っておきたいと主張し、彼自身が珍しく一緒に行きたがったのである。
ムバラートは、各地を治める名立たる騎士たちと同じように、大きくて堅牢な城に住んでいる。だが、一行が招待されたのは、森の湖の片隅にある離宮だった。それでも、彼の城があるその都市には、立ち寄ることになった。
王が、「町の様子を見ておきたい。」と、言ったからだ。
その町をぐるりと取り囲む市壁は、凹凸状の上部をめぐらした高くて厚い石の壁。昔からのものだが、どうもさらに手が加えられているようだった。
そして、市壁の内側に入ると、すぐに様子がおかしいことに気づく。そう思うのは、そこでは常識であることが、よそから来た者たちには普通じゃないと感じられるから。騎士団は使いで何度か訪れたことがあり、そのことを知っている。
ほかの地域同様、そこも老若男女が暮らす生活の場であるから、当然、居住区や公共施設もある。あるのだが、一番はとにかく、様々な訓練場や工場が目立って多い。そして、子供たちのための遊び場が少ない。都市は綺麗だが、王都のように彩豊かではなかった。花壇も無く、飾り気のない石畳の街路は異常にすっきりとしていて、目を楽しませてくれるものが無いのである。
至るところにいる衛兵はみな武装して、気難しい顔つきを崩さず立っている。通りで出会う子供たちの話し声や笑顔はおとなしい。奇声をあげて元気いっぱいに駆け回る腕白小僧には、まずお目にかかれない。いつどこにいても、好きなようにしゃべってはいけないんじゃないかという気持ちにさせられる。
そんな町の子供たちだが、王の一行とすれ違えば、礼儀正しく挨拶をしてくれる。王都やほかの町でも、子供たちはうやうやしく頭を下げてくれるが、輝く好奇の目で、もっと明るい表情をみせる。
エドリックに言わせれば、ベルニア国の町の様子は、はっきり言って異様だ。ウィンダー王国の権力者たちは、ここを堕落した兵士のたまり場と陰口をたたくが、実際には、好戦的な人間をつくり出している軍事施設のような国だ、と彼は思う。
だが唯一、一行は、広場で敷かれていた市場を目にしてホッとなった。そこでは果物が色を添え、人々が話をしている。
こうして町をひと通り見て回ったアレンディルだが、冷たくて厳しい・・・という印象より、胸が締まるような寂しさを覚えた。灰色の曇り空の下では、余計にそう感じて気分が下がる。
若き王とその近衛兵は、馬を歩かせながら、時々無言で目を見合った。
一行は町をあとにした。
それから、本来の目的地へと森を進んでいる時、兵士の野営地を見かけた。そこは、森の街道から離れたずっと遠くに、木々をかすめて見えていたが、王と二人の近衛兵には、それが妙に気になった。あそこで天幕を張っているのは、果たしてベルニア国の兵士だろうかと。
やがて、それも視界から完全に消え去り、招待を受けた宮殿には、青空が見られないまま日が暮れてきた頃になって到着した。
その湖畔の宮殿は、細い尖塔と三角屋根がいくつも空へ向かって突き出している、複雑な形をしていた。正門は多角形の二つの塔の間にあるが、宮殿自体は城壁の代わりに湖水に囲まれている。
上げられていた跳ね橋が下ろされ、門が開いた。
出迎えた家来たちに馬を預けたあと、王の一行は、宮殿に入ってすぐのホールに通された。ホールの奥にのびている二つの階段は、曲りながら二階の回廊の同じ一箇所に至っている。その下に、宮殿のさらに奥へと進める入口がある。
そこから、一人の男性がゆっくりと現れた。
背丈はアレンディルと同じほどだが、彼の方が体格がよく、がっしりしている。全体的に白くなった頭髪や目尻の深い皺に老いを感じるものの、二枚目と言える紳士的な容貌で、彼の兄に負けてはいない貫禄もある。
彼の兄・・・先代の王ラトゥータス。彼は、その弟。そして、アレンディルとアベルの叔父であり、ここベルニア国の統治者であるムバラートだ。
「よく来てくれた、アレンディルよ。従者の方々もようこそ。」
彼は笑顔で握手を求め、妻と子が不在であることを詫びた。それは、わざとそう謀ったのだ、と、アレンディルやエドリックは考えた。ますます用心深くなった。
それに正直なところ、彼と向かい会うだけで、アレンディルには耐えがたかった。こんなふうに穏やかに接してこられるほど、余計に。
叔父と父は似ている。アレンディルには、それが悲しかった。叔父は善人とは言えず、人柄は全く違うから。しかし、父の顔はもう見ることができない。だからそのうち、叔父と父が重なって見えることもあるんじゃないか、と恐怖すら覚えた。アベルディンは、成長して王都へ戻ってきてから、この叔父とはまだ会ったことがない。本人はしらを切っているし、表沙汰にもなっていないが、彼は弟を暗殺しようとした張本人だ。会わせられるはずもなく、会わせたくない・・・と、アレンディルは思っていた。そして、同時に嘆いた。彼が父のようであれば、アベルディンに面影を見せてあげることができるのに・・・。
アレンディルは叔父の目に視線を定め、密かに鋭い眼差しで射抜きながら、落ち着いて微笑み返した。
「お招きいただき、ありがとうございます・・・叔父上。」
そこへは、王都からなら、ほぼ真っ直ぐに北へ向かえばたどり着く。農地が広がる平原を横切り、渓谷を通り、滝が流れ落ちる川を渡り、丘をいくつも越えて行くが、道のりはそれほど険しいものではない。
ウィンダー王国は、おおかた豊かな緑と自然に覆われている。それは昔から大切にされてきた賜物。例え戦争で焼け焦げようとも、不断の努力で生き返らせてきたからだ。
王のお供には、近衛兵であるエドリックとマクヴェイン、それに屈強の騎士団のほか、高齢のためいつもは置いて行かれる侍従のゼルフィンが同行した。もういつ、あの世からの迎えがあるか分からないので、できるだけ王族の者たちと会っておきたいと主張し、彼自身が珍しく一緒に行きたがったのである。
ムバラートは、各地を治める名立たる騎士たちと同じように、大きくて堅牢な城に住んでいる。だが、一行が招待されたのは、森の湖の片隅にある離宮だった。それでも、彼の城があるその都市には、立ち寄ることになった。
王が、「町の様子を見ておきたい。」と、言ったからだ。
その町をぐるりと取り囲む市壁は、凹凸状の上部をめぐらした高くて厚い石の壁。昔からのものだが、どうもさらに手が加えられているようだった。
そして、市壁の内側に入ると、すぐに様子がおかしいことに気づく。そう思うのは、そこでは常識であることが、よそから来た者たちには普通じゃないと感じられるから。騎士団は使いで何度か訪れたことがあり、そのことを知っている。
ほかの地域同様、そこも老若男女が暮らす生活の場であるから、当然、居住区や公共施設もある。あるのだが、一番はとにかく、様々な訓練場や工場が目立って多い。そして、子供たちのための遊び場が少ない。都市は綺麗だが、王都のように彩豊かではなかった。花壇も無く、飾り気のない石畳の街路は異常にすっきりとしていて、目を楽しませてくれるものが無いのである。
至るところにいる衛兵はみな武装して、気難しい顔つきを崩さず立っている。通りで出会う子供たちの話し声や笑顔はおとなしい。奇声をあげて元気いっぱいに駆け回る腕白小僧には、まずお目にかかれない。いつどこにいても、好きなようにしゃべってはいけないんじゃないかという気持ちにさせられる。
そんな町の子供たちだが、王の一行とすれ違えば、礼儀正しく挨拶をしてくれる。王都やほかの町でも、子供たちはうやうやしく頭を下げてくれるが、輝く好奇の目で、もっと明るい表情をみせる。
エドリックに言わせれば、ベルニア国の町の様子は、はっきり言って異様だ。ウィンダー王国の権力者たちは、ここを堕落した兵士のたまり場と陰口をたたくが、実際には、好戦的な人間をつくり出している軍事施設のような国だ、と彼は思う。
だが唯一、一行は、広場で敷かれていた市場を目にしてホッとなった。そこでは果物が色を添え、人々が話をしている。
こうして町をひと通り見て回ったアレンディルだが、冷たくて厳しい・・・という印象より、胸が締まるような寂しさを覚えた。灰色の曇り空の下では、余計にそう感じて気分が下がる。
若き王とその近衛兵は、馬を歩かせながら、時々無言で目を見合った。
一行は町をあとにした。
それから、本来の目的地へと森を進んでいる時、兵士の野営地を見かけた。そこは、森の街道から離れたずっと遠くに、木々をかすめて見えていたが、王と二人の近衛兵には、それが妙に気になった。あそこで天幕を張っているのは、果たしてベルニア国の兵士だろうかと。
やがて、それも視界から完全に消え去り、招待を受けた宮殿には、青空が見られないまま日が暮れてきた頃になって到着した。
その湖畔の宮殿は、細い尖塔と三角屋根がいくつも空へ向かって突き出している、複雑な形をしていた。正門は多角形の二つの塔の間にあるが、宮殿自体は城壁の代わりに湖水に囲まれている。
上げられていた跳ね橋が下ろされ、門が開いた。
出迎えた家来たちに馬を預けたあと、王の一行は、宮殿に入ってすぐのホールに通された。ホールの奥にのびている二つの階段は、曲りながら二階の回廊の同じ一箇所に至っている。その下に、宮殿のさらに奥へと進める入口がある。
そこから、一人の男性がゆっくりと現れた。
背丈はアレンディルと同じほどだが、彼の方が体格がよく、がっしりしている。全体的に白くなった頭髪や目尻の深い皺に老いを感じるものの、二枚目と言える紳士的な容貌で、彼の兄に負けてはいない貫禄もある。
彼の兄・・・先代の王ラトゥータス。彼は、その弟。そして、アレンディルとアベルの叔父であり、ここベルニア国の統治者であるムバラートだ。
「よく来てくれた、アレンディルよ。従者の方々もようこそ。」
彼は笑顔で握手を求め、妻と子が不在であることを詫びた。それは、わざとそう謀ったのだ、と、アレンディルやエドリックは考えた。ますます用心深くなった。
それに正直なところ、彼と向かい会うだけで、アレンディルには耐えがたかった。こんなふうに穏やかに接してこられるほど、余計に。
叔父と父は似ている。アレンディルには、それが悲しかった。叔父は善人とは言えず、人柄は全く違うから。しかし、父の顔はもう見ることができない。だからそのうち、叔父と父が重なって見えることもあるんじゃないか、と恐怖すら覚えた。アベルディンは、成長して王都へ戻ってきてから、この叔父とはまだ会ったことがない。本人はしらを切っているし、表沙汰にもなっていないが、彼は弟を暗殺しようとした張本人だ。会わせられるはずもなく、会わせたくない・・・と、アレンディルは思っていた。そして、同時に嘆いた。彼が父のようであれば、アベルディンに面影を見せてあげることができるのに・・・。
アレンディルは叔父の目に視線を定め、密かに鋭い眼差しで射抜きながら、落ち着いて微笑み返した。
「お招きいただき、ありがとうございます・・・叔父上。」
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる