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第2章 敵の罠
9. 嬉しい再会
しおりを挟む休憩時間に軽く昼食を済ませたアベルは、自分の馬を走らせて王宮に到着した。
話を聞いていた門番の衛兵に案内されたのは、主宮殿前の大庭園の端に建っている別館だった。以前、アベルやその旅の仲間たちの宿泊所として提供された建物である。内装は華美に飾られたりしておらず、家具の重厚感に高級さを感じるくらいで、どの部屋も広すぎるということもない。
その一室で、大きな窓の向こうを眺めながら待っていると、よく知っている若い男性がノックもせずに入ってきた。
アベルは、ソファーから弾かれたように立ち上がった。
その若者は、ニヤッと微笑んで手を差し伸べてきた。アベルは満面の笑みで、その手を強く握り返した。互いの顔には、再会の喜びがあふれている。
「頑張ってるようだな。」
と、その若者が言った。
黒髪の剣士で以前はさすらい戦士だった。そして今は、カルヴァン城の騎兵隊をまとめるレイサー隊長。
ただの見習い兵士として王都で暮らしているアベルは、ラクシア市にいるレイサーとは顔を合わせる機会がなかった。エドリック騎士から話を聞くことはできても。
「びっくりした。だって、誰からのお呼びか教えてくれなかったから。」
「ああそれは、わざとだ。びっくりさせたくてな。」
なるほど。だけどそれより、レイサーでもそんなお茶目なこと考えるんだ。なんか変わった? と、以前はぶっきらぼうだと思っていたその憧れの戦士を、アベルはしげしげと見つめた。
レイサーに手を向けて促されたアベルは、後ろのソファーにまた腰を下ろした。
「お前のあの力・・・風の声を聞けるという能力がいる。」
アベルの向かいに座ったレイサーは、膝の間に指を組んだ前屈みの姿勢で話し始めた。少し上目遣いになったその顔は、うってかわって真剣そのものだ。
「兄貴たちが、最も国境に近い南の森で捕虜になっている。」
「兄貴たちって・・・ラルティス総司令官の部隊ですよね。」
「いや、正確には、ラルティス兄貴とほかに二人の隊長。そして、恐らくルファイアス兄貴だ。」
「なぜ・・・ルファイアス騎士はもうラクシア市の領主じゃあ・・・。」
「アスティンが教えてくれた。詳しく話そう。彼もしばらくは一緒だったが、兄貴たち・・・実際、この時点ではルファイアス兄貴はまだいないが・・・一緒に捕まった者たちが逃がしてくれたと。」
アベルは、あの叔父のもと側近のことを思い出しながら、その話に耳をかたむけた。
「ラルティス兄貴の部隊は森でだまし撃ちにあい、ほかの者は殺され、彼らは捕まった。ルファイアス兄貴は、それをまだ知らないうちに、一人で探しに出かけた。恐らく同じ目に・・・」
レイサーは、アスティンからきいた話をより詳しく教えた。ことに森を彷徨ったこと、そして襲撃にあった話を。
「彼が言うには村の外れにいるらしいが、今も・・・とは限らない。作戦に合わせて移動されるかもしれない。だから、お前に同行して欲しいんだ。もし奴らが移動しても見つけられるように。遠くのものを的確に狙える腕も、様々な機会に役立つだろう。アベル、一緒に来てくれないか。」
「僕はまだ戦士として未熟だけど・・・じっとしてはいられないから・・・行きます。ただ・・・その話からすると、あやかしの沼みたいに邪魔される恐れが。風の声を聞くのは難しいかも。」
「邪魔はさせない。ラキアがな。」
「ラキア!」
深刻な話の途中だが、アベルは思わず歓声をあげた。この反応を、実は少し期待していたレイサーも笑顔になっている。
「ああ、敵の精霊使い対策として、ラキアが一緒に行ってくれる。実は、アスティンをその森の中から助けたのは、ラキアとそのじいさんなんだ。」
「でも・・・ラキアで大丈夫なんですか。」
「実は、俺もその点不安なんだが・・・なんせ、あいつ、あやかしの沼であたふたしたあげく、小さい子みたいに泣きだしたからな。」
二人は眉をひそめ、難しい顔をして、ちょっと黙った。
だがすぐ、レイサーが笑顔に戻って言った。
「ラキアに会いたいか?」
「もちろん!」
「実は、もう連れて来てる。」
やられた。ドッキリの連続だ。レイサーが、「アベルのやつを驚かせてやろう!」なんて言うところ想像できないけど、でも、とにかく、そんなことより・・・。
アベルは、出入口のドアに注目。
するとそれは、彼が目を向けたと同時に、勢いよくバーンと音をたてて開いた。
そして入室してきた美少女が、亜麻色の長い髪を後ろへふりはらい、怒って指を突きつけてきた。
「ちょっと、〝大丈夫なんですか〟とか〝不安なんだが〟って、何よ! それに小さい子みたいに泣きだしたとか、蒸し返さ・・・」
「ラキア!」
アベルは嬉しくて駆け寄り、思わず両手を広げて抱きしめていた。
ラキアは、ボッと顔が赤くなるのが分かった。でもこの様子、きっとアベルは、妹のようにしか見てくれてないのだろうと感じた。
そして、久しぶりに会った彼は、ちょっと男らしくなったように見えた。背が伸びて、逞しくなった?
ラキアが彼の変化にそう面食らっているように、アベルもまた同じ気持ちでラキアを見つめ返した。アベルが彼女に思ったことは、もっと可愛くなった・・・だけだったが。さっきの登場の仕方では、女らしくなったとは感じてもらえないのも仕方ない。
「それで、リマールは今、何をしてる?」
「軍医見習いとしての務めを。夕方には会えますよ。もしかして、リマールも誘うの?」
「ああ、そのつもりだが。」
「でも、リマールはなんで?」
「なぜって・・・お前たちはコンビだろう?」
また意外なことを言う、と、驚いているアベルに、レイサーはさらにこう付け加えた。
「それに、俺たちはチームだ。」
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