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第3章 脱 出
2. 場違いな美女
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彼女は真っ直ぐに牢屋の前へとやってきて、柵越しに捕虜たちの前に立った。
こんな時だというのに、誰もが目を奪われずにはいられない金髪の美女だ。ただ、通路の壁にかけられている松明の灯りの中では、実際の色とは違うかもしれないが、肌は透き通るように白く、髪も灰緑色の瞳の色も薄くて、消えてしまいそうな儚げな雰囲気を漂わせる女性だった。歳の頃は、二十代前半に見受けられる。
それにとても緊張して、震えているように見えた。
「あなたは・・・。」
ルファイアスがたずねた。
「あの・・・様子を見にきました。」と、彼女は答えた。
質問の答えにはなっていないが、ルファイアスはこだわらずに続けてきいた。
「指示されて?」
「いえ、自分で。」
「なぜ・・・。」
「ち、近くのお城まで・・・来たので。」
この辺りのそういった建物といえば、国境の向こうの湿地帯にある隣国の古城。舌を噛みそうな名前の、そのノルヴァンディラス城だろう。彼女がなぜ王都からそこへ来たのかは謎だが、そこは、進軍の命令を待つ敵の集結場所の一つであると考えられた。
「お一人で?」
「いえ・・・侍女と・・・それに、護衛の方。」
「姫君。」
「はっ・・・あ・・・。」
彼女は目を大きくして、息を止めた。
「今、そうと分かることを、いくつかおっしゃいました。あなたは、バラロワ王国の王女様ですね。」
「・・・はい。」
四人は不可解そうに目を見合う。
「なぜ、あなたのようなお方が、こんなところへ?」
今度は、ラルティスが問いかけた。
「私たちの国の民は、悪い人ばかりではありません。だまされて捕まってしまった、あなた方のことを気の毒に思う人もいます。」
「侍女と護衛も?」
「そうです。彼らは今、外で見張りの者たちを引き付けてくれています。」
王女は綺麗な声を震わせて、真面目に精一杯答えてくれている・・・そう見えた。これはおかしな展開だが、そのことから察するに、彼女がここへ来るには相当な勇気がいったに違いない。
なぜなら、その目的はひょっとすると・・・。
「姫・・・あなたは、父をよく思っていらっしゃらない。」
ルファイアスがズバリ言い当ててみせた。
王女は弓で撃たれたように、一歩下がった。
「それは・・・。」
「私たちを助けてくれようと?」
ハリスがここぞとばかりに続ける。
「あの・・・でも・・・。」
「ためらわないで。」と、コール。
「我らを逃がしてください。そのための協力を、どうか。」
ラルティスが必死の形相で哀願した。
彼だけではない。みな、圧倒されるほど力強い眼差しながら、すがるように見つめてくる。
たじろいでいた王女はそこで、思い出したというように、両手で持っているものに視線を落とした。それは、腕にかけた外衣で隠してあるもの。
「これを召し上がってください。」
彼女がそう言って覆いを取ると、その手には黄土色の風呂敷包みがあった。
食料だ。彼女は、それを手渡そうとした。だがしかし、そのままでは檻に引っ掛かってしまうので、包みを開いて、一つ一つ手渡してくれようとした。高価そうな長い紫のドレスの裾が、くしゃくしゃになって地面に広がった。すっと腰を落としたかと思うと、なんと両足を曲げて土の上に座ったのだ。膝の上に包みを広げるため、飢えた捕虜たちのために。その動きは、あまりにも速やかで自然だった。
その心のこもった行動に、四人ともが胸をうたれ、息をのんで見つめた。それに、ご無沙汰だった具材入りのパンや、チーズの塊があふれだした。さらには、わきに置いた手提げの中から、スマートなワインボトルが一本。きちんと中身も入っている。
捕虜たちは、みな素直に感謝して受け取った。本当にありがたいことだ。これで、力をつけられる。もし、逃がしてもらえたら・・・。
「ゆっくり召し上がって大丈夫です。きっと、誰も入ってこられませんから。」
ゆっくり口に入れないと、確かに衰弱した体には悪い。彼らはワインボトルの飲み物(中身はワインではなく、何か体に良さそうな薬っぽい味がした)を回し飲みし、食料の半端分は切り分けて、やはり平等にたいらげた。今の状態に対して、ちょうどよい量があった。
「このような荷物、不審がられませんでしたか。」
締めの飲み物をごくごくっと喉に通して、空になった瓶を返しながら、ルファイアスがきいてみた。
「ここにいる方々は、誰も私に質問などできません。」
おとなしそうな顔をして、もの凄い威厳を放つな・・・と、みな感心した。彼女は、そんなつもりもなく口にした感じだったが。
そして王女は、空き瓶と風呂敷を見えないように手提げにしまった。
「・・・また来ます。」
彼女は立ち上がって後ずさり、ゆっくりと背中を向けた。そうして、何度も牢屋の方を振り返りながら去っていった。
捕虜たちは、一瞬も目を逸らさずに見送った。その姿が消えてからも、儚げなようで全てが印象的だった、彼女の残像をしばらく見ていた。
「来るでしょうか・・・。」
コールが半信半疑に口にして、ため息をついた。
だがラルティスは確信をもって答えた。
「ああ、きっと・・・来てくれる。」
ほとんど根拠のない、彼女のあの態度と様子だけで得た直感と、信頼のもとに。
こんな時だというのに、誰もが目を奪われずにはいられない金髪の美女だ。ただ、通路の壁にかけられている松明の灯りの中では、実際の色とは違うかもしれないが、肌は透き通るように白く、髪も灰緑色の瞳の色も薄くて、消えてしまいそうな儚げな雰囲気を漂わせる女性だった。歳の頃は、二十代前半に見受けられる。
それにとても緊張して、震えているように見えた。
「あなたは・・・。」
ルファイアスがたずねた。
「あの・・・様子を見にきました。」と、彼女は答えた。
質問の答えにはなっていないが、ルファイアスはこだわらずに続けてきいた。
「指示されて?」
「いえ、自分で。」
「なぜ・・・。」
「ち、近くのお城まで・・・来たので。」
この辺りのそういった建物といえば、国境の向こうの湿地帯にある隣国の古城。舌を噛みそうな名前の、そのノルヴァンディラス城だろう。彼女がなぜ王都からそこへ来たのかは謎だが、そこは、進軍の命令を待つ敵の集結場所の一つであると考えられた。
「お一人で?」
「いえ・・・侍女と・・・それに、護衛の方。」
「姫君。」
「はっ・・・あ・・・。」
彼女は目を大きくして、息を止めた。
「今、そうと分かることを、いくつかおっしゃいました。あなたは、バラロワ王国の王女様ですね。」
「・・・はい。」
四人は不可解そうに目を見合う。
「なぜ、あなたのようなお方が、こんなところへ?」
今度は、ラルティスが問いかけた。
「私たちの国の民は、悪い人ばかりではありません。だまされて捕まってしまった、あなた方のことを気の毒に思う人もいます。」
「侍女と護衛も?」
「そうです。彼らは今、外で見張りの者たちを引き付けてくれています。」
王女は綺麗な声を震わせて、真面目に精一杯答えてくれている・・・そう見えた。これはおかしな展開だが、そのことから察するに、彼女がここへ来るには相当な勇気がいったに違いない。
なぜなら、その目的はひょっとすると・・・。
「姫・・・あなたは、父をよく思っていらっしゃらない。」
ルファイアスがズバリ言い当ててみせた。
王女は弓で撃たれたように、一歩下がった。
「それは・・・。」
「私たちを助けてくれようと?」
ハリスがここぞとばかりに続ける。
「あの・・・でも・・・。」
「ためらわないで。」と、コール。
「我らを逃がしてください。そのための協力を、どうか。」
ラルティスが必死の形相で哀願した。
彼だけではない。みな、圧倒されるほど力強い眼差しながら、すがるように見つめてくる。
たじろいでいた王女はそこで、思い出したというように、両手で持っているものに視線を落とした。それは、腕にかけた外衣で隠してあるもの。
「これを召し上がってください。」
彼女がそう言って覆いを取ると、その手には黄土色の風呂敷包みがあった。
食料だ。彼女は、それを手渡そうとした。だがしかし、そのままでは檻に引っ掛かってしまうので、包みを開いて、一つ一つ手渡してくれようとした。高価そうな長い紫のドレスの裾が、くしゃくしゃになって地面に広がった。すっと腰を落としたかと思うと、なんと両足を曲げて土の上に座ったのだ。膝の上に包みを広げるため、飢えた捕虜たちのために。その動きは、あまりにも速やかで自然だった。
その心のこもった行動に、四人ともが胸をうたれ、息をのんで見つめた。それに、ご無沙汰だった具材入りのパンや、チーズの塊があふれだした。さらには、わきに置いた手提げの中から、スマートなワインボトルが一本。きちんと中身も入っている。
捕虜たちは、みな素直に感謝して受け取った。本当にありがたいことだ。これで、力をつけられる。もし、逃がしてもらえたら・・・。
「ゆっくり召し上がって大丈夫です。きっと、誰も入ってこられませんから。」
ゆっくり口に入れないと、確かに衰弱した体には悪い。彼らはワインボトルの飲み物(中身はワインではなく、何か体に良さそうな薬っぽい味がした)を回し飲みし、食料の半端分は切り分けて、やはり平等にたいらげた。今の状態に対して、ちょうどよい量があった。
「このような荷物、不審がられませんでしたか。」
締めの飲み物をごくごくっと喉に通して、空になった瓶を返しながら、ルファイアスがきいてみた。
「ここにいる方々は、誰も私に質問などできません。」
おとなしそうな顔をして、もの凄い威厳を放つな・・・と、みな感心した。彼女は、そんなつもりもなく口にした感じだったが。
そして王女は、空き瓶と風呂敷を見えないように手提げにしまった。
「・・・また来ます。」
彼女は立ち上がって後ずさり、ゆっくりと背中を向けた。そうして、何度も牢屋の方を振り返りながら去っていった。
捕虜たちは、一瞬も目を逸らさずに見送った。その姿が消えてからも、儚げなようで全てが印象的だった、彼女の残像をしばらく見ていた。
「来るでしょうか・・・。」
コールが半信半疑に口にして、ため息をついた。
だがラルティスは確信をもって答えた。
「ああ、きっと・・・来てくれる。」
ほとんど根拠のない、彼女のあの態度と様子だけで得た直感と、信頼のもとに。
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