イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第4章  対 策

2. 迎撃準備

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 アベルとリマールは、この関所せきしょで、アスティンのほかにもう一人 なつかしい人と会った。衛兵長のイシルドだ。あのイルマ山から王都までの過酷かこくな旅の中でここへ来た時、彼はいろいろと宿泊のお世話をしてくれたり、イスタリア城まで送ってくれた。

 しかし、以前のように愛想よく接してくれた彼だったが、その笑顔には気苦労きぐろうと疲れが感じられた。今、関所の衛兵えいへいたちは、間もなく始まろうとしている戦争に備えた訓練をしている。彼は、二度とそうならないで欲しいと祈っていただろうに。

 それから一行は、アスティンと一緒にここに残っていたコラルとも会った。その時、アベルもリマールも、やっと会えたという気がした。そもそもこのご老人とは、ヘルメスの指示によって、あの旅の中ですでに出会えているはずだった。だが留守だったのだ。今は、それを幸運だったと二人は思う。だって、孫のラキア、可愛らしくて楽しい彼女と知り合えて一緒に旅ができたのは、そのおかげだから。

 そして夜には、そのコラルに呼ばれて、関守せきもりマルクスが用意してくれた応接室に集合した。この広い館内には応接室のほか、会議室なども多く何種類も用意がある。人数やその顔ぶれ、また議題によってただちに適切な場所を提供できるように。

 一行が通されたのは、十二人以下に対応した、中でも小さな応接室。真ん中に置いてある四角いテーブルを、三人掛けのソファーが取り囲む。部屋のすみに、本棚とキャビネットが隣合わせに並んでいるが、接客の場らしく、夕映えの大河の絵や観葉植物で飾られていた。

 本格的な会議で話し合う前に、一行は、関守マルクスから迎撃げいげき準備についての考えを聞いていた。要は、敵に狙われている西のこの大街道だいかいどうの関所と、橋を越えた東側にある、同じく標的ひょうてきとなっているイスタリア城に、どこからどれだけの援軍を送り込むかということだった。

「レイサーの部隊も行くんでしょう?」
 まだ何かほかにも言いたいことがありそうな顔で、アベルがきいた。

 カルヴァン城から兵を出すことは、ほぼ確定している。戦地までの距離や軍事力からみて妥当だとうで、その城主ルファイアスがもうここにいるのだ。しかもカルヴァン城の兵士は、代々その指導者が素晴らしく、かなり心強い存在である。つまり、レイサーたち兄弟の父ラドルフも、当然、名騎士だ。息子たちと同じように、武勇に優れているとして有名だった。

「ああ、兄貴に自分から申し出た。幼馴染おさななじみの城だしな。」
「アルヴェン騎士。」と、アベル。

 彼は、イスタリア城主エオリアス騎士の長男で、跡取あととりである。少年時代は、レイサーとも一緒に騎士になる訓練を受けていたと、以前会った時にアベルは聞いていた。親しみをこめてレイサーを友だと言った、少しするどくて端整たんせいな彼の顔が目に浮かんだ。

「あの、僕も連れて行ってください。」
 アベルは身を乗り出した。
「僕も。」
 アベルの力になりたい! と、リマールは思った。
「じゃあ、あたしも!」
 アベルと一緒にいたい! と、ラキアは思った。

「じゃあって、お前な。アベルはともかく、お前たちじゃあ戦力にならないだろ。」
 レイサーはあきれて背をそらし、腕を組んだ。

「僕は軍医(見習い)だ。戦力を回復させられる。」
「あたしは精霊使いだよ・・・なんかできるよ。」
「術を使って焼き殺すとか、できても無しだぞ。だいたい、お前に殺人なんてできないだろう。俺だって、お前を戦場に立たせるとか有り得ないし。」

「しかし、道中では大いに役立つんじゃないか。彼らみんな。」
 ルファイアスが穏やかに口を挟んだ。なんでもない言葉にも威厳いげんにじむ。軽いやりとりも、いっきに落ち着かせる声だ。

 レイサーは、腕を組んでいるそのまま考えた。
 ほかが未熟なのが気になるが、アベルの驚異的な弓の腕は、城を守る戦いではかなり頼もしい。それに加えて、風の声(アベルが言うには)から何らかの情報を得ることができる。リマールは、病気や怪我に対して適切な処置がとれるし、ラキアは・・・困った時にはなんか役に立つかもしれない・・・か。確かに、前回の経験から、この少女にしかできないこともある。

「だがアベル、戦士として行くというなら、もう敵を殺すつもりで・・・だぞ。」
「僕も、覚悟を決めて兵士の道を選びました。大切なものを守れる力をつけたくて。だから、大丈夫。やれます。」 
 アベルは、しっかりと首を縦に振って答えた。

 その目に、レイサーも固い決意を見て取った。アベルの素性すじょうを考えるとまだためらいは残るが、うなずかないわけにはいかないと思わされた。兵士になると決めた彼の前に、もはや王弟であることを引き出すべきではないと。
 レイサーは、わかった・・・というように、一つうなずき返した。

陛下へいかには、私から伝えておこう。反対はするまい。」
 ラルティスが言った。

 彼は、ここでの会議のあと、やはり王都へは行く予定を立てていた。何が起こったとしても、どんな理由があろうと、彼には全ての責任と報告義務がある。 

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