37 / 69
第4章 対 策
3. 呪いの指輪伝説
しおりを挟むアベルが最初に別の話を始めたので、彼らが呼ばれた本来の目的が後回しになったが、ここでようやく、会話の主導権がコラルに移った。
コラルは前置きとして、まず、今アディロンの森に起こっていることの説明と、その原因として考えられる話を聞かせた。それには、一つ昔話を語る必要があった。
「あやかしの沼の古い伝説だ。」
コラルがそう言いだした時、アベルやリマール、それにラキアの表情が固まった。
《あやかしの沼》なるものは、フェルドーランという広大なモミの森の中にある。
以前、彼らと、あとレイサーを含む四人は、そこで身の毛もよだつ恐怖体験をしている。
「大昔には、わしらのような存在はもっと少なく、不気味がられ、時には迫害された。そして当時、フェルドーランの森の沼 付近にあった村には、二人のそのような姉妹が住んでいた。姉妹はとても仲がよく、力をいいことに使おうとしたが、村人たちには受け入れてもらえず、嫌われる結果となった。ひどいことを言われ、嫌がらせを受けるうちに、姉妹も憎悪を抱くようになった。そして、自分たちがもし殺されても仕返しができるように、恐ろしい呪詛に手を出し、呪いの指輪を二つ作ったのだ。ただし、これらは二つで一つ。負担が軽くなる代わりに、片方が効力を失えば、もう一つも力を無くすものだったらしい。そして、妹は、妖怪なるものを次々と出して人々を怖がらせ、姉は増大した自身の力に溺れて、高慢に振る舞うようになった。」
みな、黙って耳をかたむけていた。ただの野生の森を、恐ろしい人喰いの森に変貌させたものの正体が明かされるとあって。
「ところがある日、姉妹は突然、一緒に事故で亡くなった。がけ崩れに遭い、川に転落したそうだ。そして発見された時、妹の遺体の指には指輪があったが、姉は嵌めていなかった。つまり・・・。」
「姉の指輪は、川の流れに抜き取られ、もっていかれた。」
コラルがそこで言葉をきったので、目が合ったルファイアスが答えた。
「川辺に打ち上げられたそれを、敵の術使いは偶然発見し、強大な呪力を手に入れたのだろうな。」
それこそが、コラルが彼らに知らせたかったことだ。
「そんな話、初めて聞いた。」
ラキアが言った。
「お前は、そういう話は苦手だろう。」
コラルは一つ咳払いをして、さらに話を続けた。
ここにいるあいだに考えていた解決策を、さらに重要な話をまだしていない。
「そうして、妹の指輪だけが残った。処分に困った村人たちは、それをフェルドーランの森の沼に投げ込み、そのままにして村を移った・・・と、そう言い伝えられている。まるでおとぎ話だが、現にあやかしの沼なるものが実在している。」
「しかも身をもって確認済みだ。」と、レイサー。
「得体が知れんその力は、事前に封じておくべきだろうな。」
大戦争が始まる前に、ということだ。敵がまた手段を選ばない作戦にでれば、とうてい勝ち目はない。これまで、呪力を戦争に利用するなどという愚かしく邪道極まりない行為は、当然のこととして考えられてこなかったが、敵はとうとう、道理に反するその禁じ手を使ってきた。そんな戦いは、もはや戦争ではなくなる。
「方法は・・・。」
ラルティスがきく。
「一つを浄化する。安易に捨てられた方を。」
「じゃあ、あの沼から探し出すんですか?」
リマールが確認した。
「やだやだやだっ! できるわけないじゃないっ。」
ラキアは猛烈に首を振った。
「できる者がいる・・・とすれば。」
興味を引かれる言い方だ。ざわめきが途端に鎮まった。
「姉妹には、一人だけ心を許した者がいたのだ。」
「それは?」と、ルファイアス。
「王だ。」
何代も前の、当時の王様である。
「王だけは、全ての臣民を平等に愛した。つまり、正統な王家の血を引く者になら・・・。」
「その者は危害を加えられない・・・かもしれない、と?」
この見解に不安を覚えながらも、ルファイアスは重い声で、それに続く言葉を口にした。
この美しく素晴らしい国の王座についた者の中に、これまで不正で冷酷だった者など一人もいない。時には、今のように一部から誤解を受けることはあっても、王となった者はそれすらも受け入れ、臣民に寄り添い、分からせる努力をしてきた。だからこそ、このウィンダー王国では、いつの時代の君主も敬愛される人格を備えているのである。ただ、王族で見れば温和とはいえない者も出て来るものの、世継ぎでなかったのは幸いだった。
そして、その話を直接とらえるなら、現国王はアレンディルだ。
「でも、兄上にそんなこと・・・。」
ルファイアスやラルティス、それにレイサーの視線を集めているのを見て、アベルは気づいた。
あれ・・・ちょっと、待って・・・そうだよ。
僕でもいいんだ。
「あの・・・それって・・・僕のことですか。」
うん、そうなるね・・・とは言えずに、目を見合ったルファイアスとラルティスは、微妙な表情を浮かべている。
ここでレイサーが、焦ったように、また少し憤ったような声で言った。
「だが、アベルだって、あの時ひどい目に遭わされたじゃないか。むしろ、何も見えなかった俺の方が向いてるだろ。」
「いざという時に、それらをためらわせる力を持っているのは、アベルだ。お前さんは、ただ恐れ知らずなだけだろう。それで、たまたま狙われなかったのかもしれん。だが一人でそれらの巣に潜り込めば、きっとただでは済まん。」
「単に推測で、そんなヤバいところへアベルを行かせるわけにはいかない。王弟だぞ。」
と、結局はその事実を引き出してしまうレイサー。
「やります。」
レイサーは口を閉じ、驚いてアベルを見つめた。
パニックを起こすほど怖がっていたのに・・・と、彼は思っているだろう。それが分かって、アベルは少し苦笑しながら、だがきっぱりと言った。
「レイサー、大丈夫、やれるよ。今、僕は兵士、あの時とは違う。」
アベルは微笑んでみせた。その声は震えもせず、様子にも不思議なほど怯える感じはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる