イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

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第4章  対 策

6. 沼の中へ ― 呪いの指輪を探しに

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「おじいちゃん、ほんとにやるの?」
「国境警備隊に起こった悲劇を考えれば、手の打ちようのないだまし撃ちなど、二度とできんようにしておくべきだろう。大きな戦争が起きる前に。」
 コラルはしっかりと沼を・・・あやかしたちを・・・見ているまま、きっぱりとそう言った。

 それを、アベルもそばで聞いていた。いよいよ勇気を奮い起こし、再び意志を固めてうなずいた。この気持ちがまた冷めないうちに、早くやってしまいたいとさえ思った。

「でも、止めた方がいいよ・・・だって・・・いるもん。」

 うようよとうごめく何か分からない恐ろしいものが、沼の上にたくさん。あの中へ自分から入って行くなんて、ほんとに考えられない。

「ああ、わしにも見えている。」

 ラキアとコラルにだけ見えているものは、近づいてはこないが、やはり歓迎かんげいしてくれているとは言えない態度で、沼の上から一行を見ていた。来るなら来いといわんばかりに。これがアベルに見えていたら、とても足を浸けられたものではないだろう。ラキアの言葉を借りるなら、何か分からないそれらは、目や口のようなものはあるのに人の顔をしていない、動物でもない、見たこともない気味の悪いもの。コラルに言わせれば、呪詛じゅそによって作られた二つの指輪、それらに込められた負の感情から生まれたものだ。ただ今は、以前、アベルが見たような幻影は現れなかった。

 レイサーは、そのあいだも自分のひじからみついているラキアの腕を、とんとんと二度叩いた。準備をするから離れろと。そして、コラルの指示にしたがって、ほかの者たちはてきぱきと動きだした。

 しぶしぶ一人でぽつんと立ったラキアは、外套がいとうをしっかりと体に引き寄せた。

 沼から離れたところで、リマールが焚き火を起こした。これは、水に浸かって冷えたアベルを温めるため。そしてレイサーは、荷物の中から縄を二巻取り出して、一つに結びつけた。

松明たいまつを用意しますか。」
 レイサーがコラルに歩み寄ってきいた。

 コラルは少し考えたようだが、首を振った。
「いや、あえて刺激しないでおこう。」

 不安ながらも、レイサーも同意見だ。

 そしてアベルは、ラキアがいるので抵抗はあったけれども、何も考えないようにして上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、靴を脱いで肌着一丁になった。それから、命綱いのちづなとして腰に縄を結んでもらった。

「危険と判断すれば、すぐに引き上げるからな。」
 結び目を何度も確認して、レイサーが言った。

 それから、二人でコラルに目を向けた。熟達した精霊使いであるご老人に。あの時、ラキアは何も分からないながらも助けてくれた。はるかにベテランである彼がいれば、何が起きてもきっと大丈夫。だからこそ、アベルは行くことができる。

 アベルは沼の水ぎわに立って、深呼吸をした。そして、同伴者どうはんしゃたちを振り返ってみた。注目を浴びている。一様に、とても心配そうな顔だ。

 アベルは無理に微笑んで、沼に向き直り、深く息を吸い込んで片足を沼にけた。
 冷たい。だが、意表を突かれたことには、水深は腰の下ほどまでしかなかった。

「あれ・・・思ったより浅い・・・。」

 アベルは、いくらかほっとしながら、長いあしくきをつかみつかみ、慎重に前へと進んだ。どこから探そう・・・ポーンと放り投げたとしたら、真ん中あたりかな。そう思って、一歩一歩慎重に歩いた。それに、水中なら少しは見えるだろうと思っていた。指輪といえば金か銀だという気がしたから。水の中をかき回していれば、浮き上がってキラリと光るかもしれない。

 そんなアベルは、ラキアから見れば暢気のんきそのものだ。ラキアは、胸の前で両手を組んでひたすら祈っていた。アベルの周りをぐるぐる回っているモノたちが、そのまま何もしませんように!

 やがてアベルは、楕円だえんの沼の中心付近に到達とうたつした。

「やっぱり、ずっと足がつく。これなら・・・わっ!」

 突然、視界からアベルが消えた。

 沈んだ! 

「アベルッ!」
 ラキアが悲鳴を上げる。

「引き上げて!」と、リマールが叫んだ。

 レイサーは言われる前からやっていたが、手応てごたえがない。縄が切られていた。いや、切れ目はくさってちぎれたようになっている。これは有り得ない!
 レイサーは素早く上着や靴を脱いで、助けに行こうと慌てて沼に入った。
 ところが、一歩踏み出したとたんに、いきなりみ込まれた。全身すっぽりと!

 声をあげる間もなかった。その一瞬のうちに、さらに二つのことが起こった。水中で、上からも下からも引っ張られたのだ。腕と足を! 幸い腕をつかまれた方が素早く、力が強かった。

 リマールの素晴らしい反射神経と腕力のおかげで、レイサーは救われた。

 岸辺にぐいと引き上げられたレイサーは、むせながらほとんど信じられずに言った。
「底が無い。それに、何かに引っ張られた。」

 驚きのあまり、頭からいろんなことが吹っ飛んだ。思わず今の状況を忘れ、何がなんだか分からなくなった。レイサーは、心臓の音が聞こえるほど動揺どうようした。

うそ・・・だって、アベルは・・・。」
 リマールの声は震えている。

 ハッと我に返るレイサー。あせって、さっき服を脱ぐのにゆるめて外した剣帯を引っつかむと、肩にかけた。無意味であることも忘れて。

「泳いで行く!」
「死んじゃうよっ。」
 リマールが引き止める。
「おじいちゃん!」
 助けて! ラキアの甲高かんだかい声が響いた。

 コラルもすでに呪術の体勢に入っている。両手の指先は、すぐさまいんを結ぼうとしていた。

 だが、止めた。

「い、いや、待ちなさい。」

 ほかの者たちも、全員が視線を一つに唖然あぜんと見つめる。

 沼の真ん中を。

 そこから、あたかも神のようにヌッと現れた人影が見えた。

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