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第5章 戦場へ
1. 悪夢
しおりを挟む敵のだまし撃ちにより、もはや南の国境警備隊が弱体化し、敵の軍勢が川を渡って攻めてくると情報を得たことから、大橋の関所を守るために移動した南の国境警備隊。ラルティスは衛兵長のイシルドと共に、兵士たちをまとめていた。
一方、バラロワ王国は、捕虜たちが逃げたことで作戦を知られたと即判断し、援軍を用意されると予想して、新たな手をうってきた。
そしてある日、じゅうぶん警戒していたにもかかわらず、さらなる敵の作戦によって、その襲撃は、関所の守りが怯む瞬間を見事について行われた。関所の衛兵、そして援軍の中から、敵の比ではない血が流れ、犠牲者が出た。
結果、ウィンダー王国の司令部として存続してきた大街道の関所は、水面下で着々と戦闘準備を進めていたバラロワ王国の計略の前に敗れ、攻め落とされた。
そして、フェルドーランの森に青白い霧が漂う夜明けのこと。
イスタリア城の兵士たちを、いっきに震撼させる出来事が起こった。
一人の傷ついた戦士が、利口な馬によってほとんど奇跡的に運ばれてきたのだ。
大橋の戦場にいたラルティス総司令官だった。
体のあちこちから血を流している剥き出しの傷は、何の手当ても受けていないせいで化膿し、防具もひどく痛めつけられ、本人はぐったりして、意識が朦朧としている状態だった。
すぐに担架が用意され、兵士たちがその体を馬から下ろして、医師のもとへ運び込んだ。その時にはもう、彼は気絶していた。
敵だ! バラロワの部隊・・・!
ハリスやコールが驚いて叫んだ。声に力が入らず、腹の底から精一杯だした、かすれた声で。
ラルティスは剣を抜いた。だが手が震えて、しっかりと握りしめることができない。自分だけではない、隊員すべてがそうだ。痩せ衰え、剣がずっしりと重い。
そして現れた悪魔が、感情のない声音で言った。
指揮官はどいつだ?
それから、敵の容赦ない襲撃にあった。血しぶきが上がった。悲鳴は弱々しく、無念さを滲ませて響いた。剣を満足に振るうことができない部下たちが、次々と刺し殺されていく。森の緑が、味方の血で赤く染まった。
苦しみのこだまの中で、再び悪魔が口にする。
その若い奴も連れて行く。
抵抗したが敵わなかった。ラルティスは、ハリスとコール、それにアスティンも両手を縛られる姿を見ているしかなかった。ほかの者たちは、とどめを刺されて息絶えていく。
悲しく、残酷な静寂に包まれた・・・。
ラルティスは。腰が抜けたように膝を折った。だが、心の中では怒りを迸らせ、叫んだ。
この仇は討ねばならない・・・!
すると今度は、無理やり連れて行かれた先に、いきなり大河が現れた。
ラルティスはハッと振り向いた。大軍が地響きを立てて押し寄せてくる・・・!
そう思った時には、瞬間移動したように、もう戦争の大音響に包まれていた。
そこらじゅうで、剣戟の音が鳴り響いている。矢が頭をかすめ過ぎた。手首の縄はほどかれ、自分も再び武器を握っていた。だが、やはり思うようには扱えない。ラルティスは肩をおさえて、自分の体を見下ろした。すでに傷だらけだ。
川の方を見ると、二つのそびえ立つ塔のあいだに、橋がかかっている。
大河の関所。そこでは大勢が入り乱れて、雄叫びを上げながら戦っていた。だが、新たな敵の部隊が斬り込んできた。それらに入口を乗っ取られた大橋の西側。関所の衛兵と、戦力を削がれていたリステナン城の援兵の多くが、川沿いに追い詰められ、包囲された。
これまでか・・・!
すると、そう観念したラルティスの真横に、大きな影がすっとやってきた。一頭の筋骨たくましい灰色の馬だ。これは使いか。戦いは見張りの塔から見えただろうか。それ以外にも、知らせることがある。行かなければ。
痛みをこらえて鞍に乗り上がったラルティスは、前屈みになりほとんどしがみついた。
馬腹を蹴りつける力は無かった。代わりに、そのまま伸ばした手を馬の首に当てる。そうしながら、彼は切々と頼んだ。
イスタリア城へ連れていってくれ。
すると馬は、願いを聞き入れたかのように、力強く駆け出した。そして、なんと敵のあいだを突破して、大橋を風のように渡っていく。
だがそこへ、また現れた悪魔が追いかけてきて言った。
無駄な抵抗はよせ、お前たちは捕虜だ。
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