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第5章 戦場へ
9. 秘密の道に必要なもの ― 恩人と少年
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「わしは、お前さんの父親と育ての親、つまり先代王とヘルメスと、ここで出会った。」
アベルは胸をつかれて口を開けたが、衝撃で声が出なかった。
「その頃は、もっと敵が多かった。時には、その襲撃は見境なく行われた。昔は、この辺りにも居住区がいつくかあったが、大きな城よりも、まずそれらが狙われた。この村も標的になった。しかし、わしらは避難せんかった。伝統を重んずる民族だ。村と共に滅びる、そう思ってな。ところが、ある日、なんと皇太子が自ら部隊を率いてやってきた。そして彼は、この村を守ってくれるという。それが先代のラトゥータス王だ。さすがに、皇太子の言葉は拒めんかった。それでわしらは、村を彼に預けて逃げることにした。しかし、森にはもはや安全な道などない。ただ、人間の敵だけを考えるなら、一つ無いこともなかった。鍾乳洞の地下道だ。そこを行けば、数時間でイスタリア城の裏山、山脈の麓に出られる。城へは、そこから歩いて二日でたどり着く。」
「すごい・・・そうなら、まる一日|短縮できる。どうして教えてくれなかったんですか。」
「今、わしが、人間の敵だけを考えるならと言った意味が、気にならんか。」
「あ・・・気になります。」
アベルは恥じるように肩をすくめた。人の話を聞いているようで聞いていない。
だが長老は穏やかに微笑み、それから辛そうなため息をついて言った。
「さっき、あの若い隊長にも言ったが、無理なんじゃあ。」
「どうして・・・。」
アベルはもう一度、長老の様子をうかがいながら、だが話を急かすようにきいた。
長老は、食い入るような目を向けてくる少年兵士の顔を見た。だがためらい、視線を外して目を伏せた。そうして、アベルがただ返事を待っているあいだ、また葛藤した。しかし、もうここで話は終われない、彼には話すべきだ。
長老は再びアベルの方を向くと、やっと言った。
「そこは、魔物が眠る道だからだ。」
老人と少年は、無言で見つめ合った。
魔物が眠るだって・・・?
さすがに、しばらく絶句した。だがアベルは、それで済まされてはならないという思いに背中を叩かれ、慌てて話を続けた。何か方法があるはずだ。
「でも・・・その道を行ったんでしょう?」
「行ける準備があった。それも、皇太子が用意してくれた。その道を知る賢者と、精霊使いだ。賢者というのは、つまり、そう、お前さんの育ての親ヘルメスだ。」
長老の口調は、実際とても高齢でだいたいは歳相応の話し方だったが、時々、まだ若々しい中年男性のようにもなった。
「洞窟は暗い。だが、普通の松明やランタンは持ちこめん。そこに潜む古代の魔物を目覚めさせると言われている。許されるのは、神秘なる灯だけ。」
「神秘なる・・・。」
「精霊じゃあ。まあ、聞きなさい。」
長老は軽く片手をあげ、アベルに口を挟ませずに、続けた。
「わしらもその道の存在は知っていたが、ただ恐れるものでしかなかった。ヘルメスはそもそも王室の侍医だった。そして精霊使いは、ヘルメスの知り合いだ。皇太子は、その二人の案内のもと、その道を進めという。わしらは半ば仕方なく従った。そして無事に地下道を抜けると、イスタリア城の兵士が待っていた。そうして、わしらはしばらく、イスタリア城でかくまってもらえることになった。やがて村へ帰れるようになり、わしらは戻った。すると、戦いの痕は見られるものの、村は見事に破壊を免れていた。そして、皇太子が残した部隊が出迎えてくれた。その後も、皇太子はたまに会いにきてくれた。その時、ヘルメスもお供としてそばにいた。わしらは親しくなり、たくさん話をした。イルマ山で育ったヘルメスは、もっと歳を取ったら山へ帰ると言っていた。そうして数年後、彼は王都での務めを終えて山へ帰った。皇太子の方は、やがて王となっても時々、村のことを気にして様子を見に来てくれた。その時、彼がこんなことを口にしたことがある。ヘルメスに預けた息子の成長した姿が見たいと。」
もう会えない父親の愛情だけ、漠然としていた。
アベルは目頭が熱くなり、瞬きをして涙を乾かした。
それから、実は話の途中から気になっていたことをきいてみた。
「あの、その精霊使いって、もしかしてコラルって人ですか。」と。
「ヘルメスから聞いていたか。」
「というより・・・その人の孫娘が、今、一緒にいますけど。」
老人と少年は、また顔を見合わせた。
長老の方は、面白いほど目を真ん丸にしている。
「あの娘っ子は、ただの飯炊き娘ではないのか。」
「違います。どちらかというと、僕たちの方がお世話してるくらいで。彼女も精霊使いですよ。」
長老は、まだ驚きから醒めないまま首を揺らした。
「これは運命か。わしは、お前さんが関わる全てに恩義がある。これ以上 拒めば、天から恩知らずと言われそうじゃあ。」
「はい、行ける準備ありましたね! 道は知ってるでしょう?」
アベルは笑顔で、喜んで言った。有無を言わせぬ表情と声だ。
敵わん・・・長老は苦笑した。
「では、鋭い(目つきも勘も)あの隊長と、もう一度話をしてこよう。」
アベルは胸をつかれて口を開けたが、衝撃で声が出なかった。
「その頃は、もっと敵が多かった。時には、その襲撃は見境なく行われた。昔は、この辺りにも居住区がいつくかあったが、大きな城よりも、まずそれらが狙われた。この村も標的になった。しかし、わしらは避難せんかった。伝統を重んずる民族だ。村と共に滅びる、そう思ってな。ところが、ある日、なんと皇太子が自ら部隊を率いてやってきた。そして彼は、この村を守ってくれるという。それが先代のラトゥータス王だ。さすがに、皇太子の言葉は拒めんかった。それでわしらは、村を彼に預けて逃げることにした。しかし、森にはもはや安全な道などない。ただ、人間の敵だけを考えるなら、一つ無いこともなかった。鍾乳洞の地下道だ。そこを行けば、数時間でイスタリア城の裏山、山脈の麓に出られる。城へは、そこから歩いて二日でたどり着く。」
「すごい・・・そうなら、まる一日|短縮できる。どうして教えてくれなかったんですか。」
「今、わしが、人間の敵だけを考えるならと言った意味が、気にならんか。」
「あ・・・気になります。」
アベルは恥じるように肩をすくめた。人の話を聞いているようで聞いていない。
だが長老は穏やかに微笑み、それから辛そうなため息をついて言った。
「さっき、あの若い隊長にも言ったが、無理なんじゃあ。」
「どうして・・・。」
アベルはもう一度、長老の様子をうかがいながら、だが話を急かすようにきいた。
長老は、食い入るような目を向けてくる少年兵士の顔を見た。だがためらい、視線を外して目を伏せた。そうして、アベルがただ返事を待っているあいだ、また葛藤した。しかし、もうここで話は終われない、彼には話すべきだ。
長老は再びアベルの方を向くと、やっと言った。
「そこは、魔物が眠る道だからだ。」
老人と少年は、無言で見つめ合った。
魔物が眠るだって・・・?
さすがに、しばらく絶句した。だがアベルは、それで済まされてはならないという思いに背中を叩かれ、慌てて話を続けた。何か方法があるはずだ。
「でも・・・その道を行ったんでしょう?」
「行ける準備があった。それも、皇太子が用意してくれた。その道を知る賢者と、精霊使いだ。賢者というのは、つまり、そう、お前さんの育ての親ヘルメスだ。」
長老の口調は、実際とても高齢でだいたいは歳相応の話し方だったが、時々、まだ若々しい中年男性のようにもなった。
「洞窟は暗い。だが、普通の松明やランタンは持ちこめん。そこに潜む古代の魔物を目覚めさせると言われている。許されるのは、神秘なる灯だけ。」
「神秘なる・・・。」
「精霊じゃあ。まあ、聞きなさい。」
長老は軽く片手をあげ、アベルに口を挟ませずに、続けた。
「わしらもその道の存在は知っていたが、ただ恐れるものでしかなかった。ヘルメスはそもそも王室の侍医だった。そして精霊使いは、ヘルメスの知り合いだ。皇太子は、その二人の案内のもと、その道を進めという。わしらは半ば仕方なく従った。そして無事に地下道を抜けると、イスタリア城の兵士が待っていた。そうして、わしらはしばらく、イスタリア城でかくまってもらえることになった。やがて村へ帰れるようになり、わしらは戻った。すると、戦いの痕は見られるものの、村は見事に破壊を免れていた。そして、皇太子が残した部隊が出迎えてくれた。その後も、皇太子はたまに会いにきてくれた。その時、ヘルメスもお供としてそばにいた。わしらは親しくなり、たくさん話をした。イルマ山で育ったヘルメスは、もっと歳を取ったら山へ帰ると言っていた。そうして数年後、彼は王都での務めを終えて山へ帰った。皇太子の方は、やがて王となっても時々、村のことを気にして様子を見に来てくれた。その時、彼がこんなことを口にしたことがある。ヘルメスに預けた息子の成長した姿が見たいと。」
もう会えない父親の愛情だけ、漠然としていた。
アベルは目頭が熱くなり、瞬きをして涙を乾かした。
それから、実は話の途中から気になっていたことをきいてみた。
「あの、その精霊使いって、もしかしてコラルって人ですか。」と。
「ヘルメスから聞いていたか。」
「というより・・・その人の孫娘が、今、一緒にいますけど。」
老人と少年は、また顔を見合わせた。
長老の方は、面白いほど目を真ん丸にしている。
「あの娘っ子は、ただの飯炊き娘ではないのか。」
「違います。どちらかというと、僕たちの方がお世話してるくらいで。彼女も精霊使いですよ。」
長老は、まだ驚きから醒めないまま首を揺らした。
「これは運命か。わしは、お前さんが関わる全てに恩義がある。これ以上 拒めば、天から恩知らずと言われそうじゃあ。」
「はい、行ける準備ありましたね! 道は知ってるでしょう?」
アベルは笑顔で、喜んで言った。有無を言わせぬ表情と声だ。
敵わん・・・長老は苦笑した。
「では、鋭い(目つきも勘も)あの隊長と、もう一度話をしてこよう。」
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