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第5章 戦場へ
11. 光の精霊のもとに ― 外の世界へ
しおりを挟む今は人数も多く、何の自然の光も射し込まない危険な場所であるため、アディロンの森でやったような、全く灯り無しで進む方法をとることはできない。
ラキアは胸の前に両手を持ってきて、印を結んだ。そうしながら、十代の澄んだ声で呪文を唱える。小さな声だったが、安定して伸びやかに響き渡った。
すると。
ポッ・・・ポッ・・・
どこからともなく、いくつもの小さな光の玉が現れた。ラキアが、ほかの者には何やら謎の言葉をさらに口にすると、それらは隊列の後ろへと飛んでいった。適当な間隔を置いて、兵士達の頭上から道を照らす。
これで進めるようになった。
エドラス騎士やレイサーが息を殺して用心してみれば、何も起こらない。不気味な気配は感じられない。よし、大丈夫なようだ。
その灯りのもと中をよく見てみると、少し崩れた幅の広い岩の階段が、下へ向かってのびていた。足場に気をつけて、慎重に下りていく。と、そこに、神秘の灯りの中では白く輝く鍾乳石が、そこかしこから垂れ下がっている幻想的な世界が広がった。思わず恐ろしさを忘れて、うっとりと見惚れてしまう光景。眠っているのは魔物ではなく神ではなかろうかと、アベルはそんなふうにも考えた。
アベルは、まだ少しおびえるラキアに頭を寄せ、耳元でそっと励ましながら、ぴったり寄り添って歩いた。
時々、不気味に耳をすり抜ける声のようなものが聞こえた。洞窟の造りによって、自然にたつ音なのだとしても、おかげで緊張が耐えない時間が続いた。
いびつな谷が通っていて、底には地下水が溜まっている。その谷沿いに、人が二、三人横に並んで歩けるほどの道があった。アベルは狭いとは感じなかったが、背の高い馬たちは怖がっているようだ。おびえたいななきを上げられるたびに、ドキッとした。
道は時々分かれたが、案内人が先導してくれる進路は、西へ北へと曲がりながら伸びているようだった。
後ろに続いている兵士たちは一言もしゃべらず、黙々とついてくる。長い時間、そんな調子で歩き続けた。
ある時、昔の人が置いたらしい、小さな祠を通りかかった。
ラキアを休ませるために、そこで少し休憩をとることになった。光がいったん去ると、一瞬にして真っ暗闇に包まれた。目が慣れてくると、そばにあるものなら少しはぼんやり見えるようになったが、この暗がりの中、もし本当に魔物がいて目覚めたら・・・と思うと、正直、精神的には全く休めたものではなかった。
アベルは、せめてラキアは、少しでも疲れがとれるように安心させてあげたいと思い、そのあいだ両腕を回して体を包み込んであげた。
ラキアは素直にされるままで、震えもせず落ち着けているようだった。アベルはほっとしながら頭をなでてやり、「きっと、あと少しだから。」と、優しい声をかけた。
彼の腕の中で、ラキアは小さくうなずいた。
しかし周りからは息苦しそうな呼吸が聞こえる。休憩中にも、みな緊張している。そんな中で、馬たちが蹄で地面を打つ音や、鼻を鳴らす音があがる。暴れださないよう、それを懸命になだめる持ち主たちの動きが、暗闇で感じられる。
やがて、アベルとラキアのそばからレイサーのややさき声がかけられ、再出発した。それを隊列の前の方から兵士たちが立ちあがることで、静かに後ろへ伝えた。
そのうち道は登り坂になった。最初の勾配はゆるかったが、ある所で少しきつくなり、そこから緩急を繰り返した。この恐らく二、三十分は、やや急な状態が続いている。地上に近づいている・・・と、アベルは感じた。
それで顔を上げていると、なにか轟く音が聞こえて、前方に白いものが見えた。ラキアが召喚した精霊たちよりも明るい。
光だ!
外の、自然の光!
しかし、強烈に目にしみるような陽光ではなかった。ベールを通して見ている感じ。
滝だ。なんと出口は、下へ向かって流れ落ちる大量の水で塞がれていた。ここは、滝の裏側だ。
出るには滝に打たれろというのか? と、レイサーは考えた。本音を言えばいい気はしないが仕方ない。
すると、すぐ手前から、横に伸びている道があるのに気づいた。
やはり、案内人はその通路に入っていった。岩壁に挟まれているなだらかな下り坂だ。外からは見えないだろう。そして、そこを下りきったところは、密に生えているモミなどの樹木と、好きなように育った植物で、荒れているように見える場所だった。振り返れば、山脈から駆け下る滝と、その麓に川があるのは分かるが、やはり洞窟は上手く隠れている。しかし、この坂道は、そばまで来れば見つけられる。それについてはどうなのかとレイサーが疑問に思っていると、人を寄せ付けない理由が間もなく分かった。
張り巡らされた高いフェンスと、鉄の門にたどり着いたのである。
この場所を所有している者がいる。
門には何かの蔓がびっしりとへばり付き、下藪から伸びてきた小枝が絡まっている。
驚いたことには、この門の鍵を案内人は持っていた。
そして、その指導者の男性はこう言った。
「ここはイスタリア城主の所有地。洞窟の存在を分からなくするために、わざと野生のままにしているそうです。」
レイサーは推測した。名無しの村とイスタリア城とは、恐らく、戦争の時代それ以前から関係がある。魔物が眠るという洞窟の存在によって。
とにかく、カルヴァン城の兵士たち、それに本来は従順な軍馬もみな、無事に外の世界へ戻ってくることができた。魔物が潜んでいるとして、誰も食われることなく。
成功だ。
それを実感して、指揮官たちは安堵の表情を見合った。中には、こめかみに冷や汗が滲んだままの者もいる。アベルはリマールと笑顔を交わしたあと、何よりラキアをたくさん褒めてあげた。もちろん、頭を何度もなでてやりながら。
エドラス騎士が地図を広げた。そして、現在位置と、イスタリア城までのルートを確認する。それについて、村人たちはさらに助言してくれた。
「本当に、ありがとうございました。」
心をこめてエドラス騎士は感謝をのべ、深く頭を下げた。
ほぼ同時に、レイサーもそれに倣った。
アベルやリマール、それに、全ての兵士が続いて同じ姿勢をとった。
「イスタリア城は、私たちにとっても貴重な存在。恩がある尊い場所。あなた方に協力できて良かった。神のご加護がありますよう。」
指導者の男性が、今は笑顔でその言葉を贈った。
こうして、役目を果たした名無しの村の案内人たちは、カルヴァン城の兵士たちに見送られて、地下の鍾乳洞ではなく、外の森の道を帰って行った。
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