55 / 69
第6章 決 戦
1. 真夜中の攻防戦
しおりを挟む城壁や塔から見る限りは、城の周囲の暗い森に敵の姿はない。関所を破った部隊は、裏の岩山か周りの森のどこかにもう潜伏しているはずだが、何の動きも確認できないまま数日が過ぎた。
城にいたただの召使いや奥方は、事前に他市へ避難していた。今やイスタリア城には、戦闘員と軍医、それに保護されたラルティスしかいない。
兵士たちはみな、いつでもその瞬間に戦いに臨めるよう、常に装備している。アルヴェンも武装してそこにいた。ラルティスが休んでいる塔の部屋の、ベッドのそばに置いた椅子に腰掛けている。
「こちらの準備は。」
ラルティスが心配してきいた。
一方、ベッドに横になっているラルティスは、何の防具も身に着けていない。肋骨や肩のあたりを傷つけられて巻いてある包帯はまだ取れず、満足に戦える体ではなかった。彼は、敵が踏み込んできたその時は殺されようと、覚悟ができていた。ただ、おとなしくやられるだけのつもりはないので、ヘッドボードには愛用の剣が立て掛けられている。
「カルヴァン城からの部隊がまだ・・・。話に聞いていたリステナン城の使いとは、大街道上で上手く出会えたようです。その使者は今、この城にいます。彼が持ってきた知らせによると、エドラス総司令官は、待ち伏せ襲撃を回避するため、森の道から迂回する決断をくだしたそうです。」
二人は苦い表情で少し黙った。
敵はいつ攻撃してくるのか。その気になれば、もういつでもしかけられる戦闘準備はできているだろう。何を待って、引き伸ばしているのか。まださらに兵力を呼び寄せているのだろうか。少しでも長引かせてくれるのはありがたいが、相手の力が増幅するのはいいとは言えない。
間に合うか・・・。
「カルヴァン城の援軍が回避策をとったことに、まだ気づいていないのかもしれない。奇襲の結果報告をただ待っているだけ・・・ということもありうる。」
励ますように、ラルティスが言った。ほとんど気休めだったが、緊張が絶えないのは精神だけでなく、体をも無駄に疲れさせる。
アルヴェンは、気弱な笑みでこたえた。
「ラルティス騎士、お体の具合は。」
「おかげで、きっと少しは戦えるようになった。かなり気合いがいるが。」
そこで二人は、ドアの向こうに急ぎ足な気配を感じとった。そうかと思うと、ノックの音よりも先に声が聞こえた。
「アルヴェン様!」
ドアはいきなり開かれ、すっかり興奮している兵士が、息を乱してひざまずいた。
見張りの兵士が山脈側に敵の軍勢を確認。慌てて報告しにやってきたのだ。
それを聞いたラルティスは、とたんに険しい顔をした。また分が悪すぎる。状況は関所の戦いと同じだ。
アルヴェンも同じ思いでラルティスの目を見た。
「やるしかありません。あなたはここにいてください。護衛を呼びます。」
「必要ない。せめて自分の身は自分で守る。」
ラルティスは手を伸ばし、愛用の剣をつかんでみせた。
アルヴェンは部屋を出て、今いる塔を天辺まで駆け上がった。
冴えわたる深夜の空には、美しく輝く星々がはっきりと見られるが、山道の方は、風に流されている炎の白煙で煙っている。
イスタリア城裏の岩山に、足並みをそろえてくる敵の軍勢と、それらが手にしている数えきれない松明の灯りが、山道沿いに並んでいるのである。アルヴェンがそのことを確認した時には、イスタリア城でも迎撃準備が整っていた。裏の門扉付近や城壁にはすでに兵士たちがズラリとそろい、しっかりと守備についている。山脈側に全部隊が配備されていた。
アルヴェンも指揮官の一人。彼はただちに戦いへ向かった。
ついに始まる、攻撃が・・・!
横一列に敵の大きな弓がザっと構えられ、角笛が鳴り響いた直後、岩山から無数の矢が放たれた。たちまち、飛び道具による凄まじい応酬となった。それによって、胸壁にいる兵士の何人かは撃たれて死んだ。
一方、城門にたどり着いたまた別の部隊は、強固に閉ざされている扉を強引に突破しようとしている。
長い歴史をもつこの城塞の門は木製だ。分厚く頑丈に造られてはいても、おおかた木でできている。そこに、破城槌が何度も打ち込まれた。轟音がとどろき、大きな木片が飛び散った。破壊されてできた穴から、敵がぞくぞくと侵入してきた。門の近くで接近戦が繰り広げられ、両国どちらの戦闘員も次々と倒れた。
窓から身を乗り出して、わっと響いてくる戦いの騒音を聞いているラルティスは、祈りが届くよう強く願い続けた。どうか間に合ってくれ、レイサー・・・! と、弟の名をつぶやきながら。
アルヴェン騎士は胸壁にいて弓兵を鼓舞し、忙しく指揮を執っている。
城主エオリアス騎士は、なんと門扉のところにいて敵と戦っていた。
その中で、エオリアスと息子のアルヴェンは、同じ言葉を繰り返し叫んで味方を励まし続けた。
「この夜を生き抜けば、東からの援軍がきっと来る。今は耐えろ! そして、ただ城を守れ!」
そうして、真夜中の攻防戦は明け方まで続いた。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる