60 / 69
第6章 決 戦
6. 最強の騎士 エオリアス
しおりを挟む城主エオリアスは、すぐ眼下の激闘を見渡せる場所に、高い塔の上にいた。
彼はそこから、カルヴァン城の援軍が到着したのを見た。そして起こった川沿いの戦いを見守り、彼らが、潜伏していた敵の部隊を撃退してくれたのを見届けた。そして次にはここへ来て、限界を超えてなお武器を振るうウィンダー王国の兵士たちに、大きな助力を与え、希望をもたらしてくれたのを。
そうして、窮地に現れたカルヴァン城の援軍は、劣勢を見事に立て直した。決して諦めはしなかったが、絶望的に思われた戦いが勝利をつかみ取ろうとしているものに変わったのを、エオリアスは確信したのである。
その城主のもとへ駆け込んできた兵士が一人、息をきらせてこう報告した。
「敵の精鋭が間もなくここへ来ます!」と。
「構わん、迎えよう。」
エオリアスは眉一つ動かさずにそう言うと、知らせに来た兵士の背後に目を向けた。
それらの進路を阻もうとした自分の兵が、悲鳴を上げて次々と横へ倒されている。みるみる迫り来る。なるほど、かなり手練れの騎士がそろっているようだ。
「手を出すな、その者たちを通せ。」
すると、それらは瞬く間に目の前に現れた。城壁の通路を、嵐のように駆け抜けてきた敵の精鋭とやらは五人。城の塔にいて指揮をとっている大男、すなわちイスタリア城主エオリアスの姿を目に留めるや、その騎士団は一心不乱にここを目指してやってきた。
その中から、男が一人進み出てきた。いかにも、今現在、軍で高い地位にあるといった感じの強面で、見た感じエオリアスよりも若そうだった。背が高くて、体格もがっしりしている。
「お前の王は来ていないのか。」と、エオリアスは真っ直ぐに男を見て問いかけた。
「まだエウロン陛下がお出ましになる時ではない。騎士エオリアス。かつてラトゥータス王の右腕だった貴様を葬るのは、私の任務だ。」
男は堂々と、自身と誇りに満ちた声で答えた。
「ではお前が総司令官・・・ということでいいか。」
「そうだ。」
「お前は、ここまで脇目もふらずにやって来たのか。」
「なに・・・。」
その意味深な物言いに、男は顔をしかめる。
「裏門から侵入し、中庭を突き進み、建物を駆け回り、通路という通路を、障害をことごとく突破してここまで来た。城壁や窓の外へ目を向ける余裕もなく。そうではないか。」
言い当てられたようで、男は黙った。
「もう私とお前との間には何もない。さあ今、城壁の外を見下ろしてみよ。」
男は黙ったまま、何やら考えこんでいる様子で、騎士エオリアスを見つめている。
「何を警戒している。私はだまして不意をつくような愚かで醜く、卑劣なことはしない。だまし撃ちなどは・・・な。ほら、部下に私を見張らせておけばいい。」
この痛烈なあざけりの言葉にもかかわらず、緊張感が漂った。後ろの連れたちも、視線をエオリアスから外さずにいる。騎士団はみな、嫌な予感を覚えたようだ。
指揮官の男は、思い切ったようにチラと横目を向けた。それから二度見して、壁にへばりついた。無防備にも身を乗り出して下を凝視している。その焦りようを見たほかの騎士たちもまた、同じような姿勢になった。
「気づいていたか? いつの間にか、我らの色に染まりかけているだろう? かつてもう一人いた先代王の片腕が、強力な援軍を送ってくれたのだ。形勢は逆転し、今や我らの方が優勢だ。お前にはまだやることも、可能性もあるだろう。我らの王は、このような戦いを望んではいない。これは忠告だ。ただちに生き残り兵たちを全て退却させよ。」
ふらりと壁から離れた指揮官の男は、足を踏みしめて立ち、鋭い顔で目をむいた。
「だが貴様を殺せば・・・貴様を殺して、ここをもらい受ける!」
「憐れな・・・。」
男は聞く耳を全くもたず、エオリアスがため息をついた直後に、いきなり飛びかかってきた。
エオリアスは、一歩身を引いただけで軽くかわした。そして、最高指揮官同士の戦いになった。剣を交えてみると、実力の差は歴然としていた。先代王ラトゥータスの一番の騎士は、少しも衰えてなどいなかった。現役時代そのままの強さで、明らかに相手を圧倒していた。果敢に挑んだ男も、確かに自他ともに認める凄腕である。なのに、受け止めるだけで精一杯だった。
最強の騎士と名を馳せた男は、武神のように剣を振るう。そうというより、操るといった感じだ。そして、もはや情け無用とばかりに勝敗を決める一撃を見舞った。
深く腹の真ん中を突き刺されて、敵の総司令官は胸壁のへりに倒れかかった。まともに受けた攻撃には、確実に鎧を破壊できる技術と威力があった。
次の瞬間・・・!
その体は、ひっくり返るようにして姿を消した。そこは壁の低くなった部分で、あっと思う間もなく落ちていったのである。
エオリアスは首を伸ばして、まだ激戦のただ中にあった下の中庭をのぞいた。
残されたほかの騎士たちも、へりから見下ろして一様に青ざめている。
男が落ちた辺りでは、敵も味方も、驚きのあまり戦いを中断したようだった。ただ騒然としていて、その中心には、もはや生きてはいないだろう、頭からも血を流した敵の総司令官の体が横たわっている。
遺体の傍らに駆け寄ってきた誰かが、やがてのろのろと顔をあげて上を向いた。
エオリアスは、その男と目が合った気がした。
男は、茫然自失で佇むように数秒そのままだったが、それから近くにいる同胞に何か話し、何か身振りを加えたあと、首からかけている角笛を吹いた。
すると、それに応えるかのように、また遠くの塔の方角からも笛の音が。
退却の合図だ。
その証拠に、バラロワ王国から送られてきた軍勢は、山脈側の裏門や大手門へと速やかに退いていく。エオリアスの前からも、恐れおののいた目を向けてきた四人の騎士が離れていった。
そうして、イスタリア城の戦いは終わった。
その後は占拠された関所も取り返し、バラロワ王国の策は尽きて、最終的にはウィンダー王国が勝利した。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる