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第6章 決 戦
7. 別れ ― そして約束
しおりを挟む戦争は終わった。
アディロンの森のだまし討ち、待ち伏せ襲撃、関所とイスタリア城での戦い・・・ウィンダー王国の戦士たちは、それらを全て耐え抜き、結果的には勝利した。ただ、敵の君主、バラロワ王国の王は、この結果に納得などいっていないだろう。しかしイスタリア城での大戦争に敗れ、関所も奪い返されたことから、王都への攻撃を断念すると見られた。
イスタリア城では、戦闘の爪痕を残さない作業が、きびきびと行われていた。敵に壊されて、下りっぱなしだった正門の跳ね橋を直す工事も、順調に進められている。
そこを通してもらったアベルとその仲間や、親しくなった者達は、長い石橋を渡り切ったところの森の岸辺にいた。この日の朝、自分の家へ帰る少女を見送るために集まったのだ。
そのラキアは、イスタリア城の兵士に、故郷のローウェン村まで送ってもらえることになっていた。ラキアは、それがとても不満そうだった。アベルやリマールが送ってくれると思い込んでいたのだ。暢気な少女は、彼らがもう、規律を守り、しっかり働く大人と変わらないのを分かっていない。
よって、アベルとリマールはすぐに王都へ。そしてレイサーも、動ける隊員たちを連れて、すぐにカルヴァン城へ戻らなければならなかった。
ただ、不幸にも、一連の謀略や過酷な戦闘の被害を最も受け、壊滅状態に陥った南の国境警備隊については、今後どうするかの話し合いがこれから行われるという。つまり、ラルティス総司令官と、その生き残った部下たちには、今はどこにも行き場がない。
そこで王から、心身ともにとても傷つき、疲れているということも考慮されて、彼らは召集がかかるまで休暇を与えられることになった。仕事 一筋だったラルティスも、その決定を素直にありがたく受け止め、おとなしく実家へ帰って、ボロボロの体より、心の重傷を癒したいと思っていた。ただ、いつもの自分を崩さず平常心でいられるだろうか・・・と、ほんの少し不安があった。
実家のカルヴァン城には、彼女がいるから。
「それにしても、どうやってあんなに早く。回り道をしてきたんだろう?」
友と向かい合って立ったアルヴェンがきいた。
「ああ、秘密の道を来た。」と、レイサーが答える。
「まさか、鍾乳洞の地下道か。ヴノ・ラソンへ行ってきたのか。」
「それが、あの名無しの村の本来の名か。」
「そうか、今は確かそうだったな。古い言葉で、〝山の守り人〟という意味があるらしい。」
「名前を無くした理由が分かった。」
〝魔物が眠る洞窟〟なるものと関連付けられるものを、とにかく表に出したくなかったのだろう。そうレイサーは考えた。そして、アルヴェンの口からすぐにそれらの言葉が出てきても、レイサーは驚かなかった。やはり、イスタリア城とその村ヴノ・ラソンとは、古い時代から何か関係があったのだ。
「しかし、よく教えてもらえたものだ。あの道は、その村人たちでも恐れて通りたがらないと聞いていたが。」
「ああ、ちょっといろいろあって。だが、決定打はやっぱり、あいつかな。」
結局、今回も助けられたな・・・と感謝しながら、レイサーはラキアを見た。なんか役に立つ、いや、いざという時には頼りになる精霊使いの少女。
そのラキアはべそをかいて、分かりやすく異常にしょんぼりしている。今まさに、アベルからお別れの言葉を聞かされているからだ。本人(アベル)だけは、友人として名残惜しまれていると思っているかもしれないが、周りにいるほかの全員気づいたろうと、レイサーは見てとった。現に、アルヴェンでさえ、「あの子は彼のことが好きなんだな。」という微笑を向けてきた。
「ありがとう・・・元気で。」
「うん・・・。」
向かい合ったまま、若い二人のあいだに無言が続いた。
リマールは、こんな悲しい感じの別れ方でいいのかな・・・と思い、何か口を挟みたかったが、我慢して見守った。
「ラキア・・・あの、さ、君のこと見送りたいんだ・・・だから、その・・・。」
「うん・・・。」
ラキアは肩越しに振り向いて、後ろで待ってくれているイスタリア城の馬車を見た。
ラキアはしぶしぶ背中を向け、のろのろと離れていった。
すると、なんだ? ラキアがうな垂れていた背筋を伸ばして振り返り、駆け戻ってくる。そうかと思うと、アベルの肩に手を置いて、背伸びをし、彼の頬にキスをした。
アベルは、驚いて目を大きくした。
リマールもあっと口を開け、レイサーが眉を動かし、ほかの者たちも、え・・・という、ちょっと意表をつかれたような顔に。失礼ながら、彼女に、そんな乙女で大胆なことをするイメージが無かったからだ。
そのラキアは、赤くなった顔を逸らして、何も言わずに離れた。
アベルの右手がとっさに動いて、そんなラキアを捕まえた。そして、ぐいと引き寄せて額にキスのお返しを。
その時、レイサーやリマール、それにラルティス総司令官やアルヴェン騎士、さらには城主のエオリアス騎士にまでしっかりと見られていたが、どんな反応をされようと、不思議なほど恥ずかしいという気持ちは無かった。ただ、ラキアの気持ちが嬉しかった。
ラキアは目を丸くして固まっている。
「また会おう。そうだ、きっと会いに行くよ。」
いつも以上に気持ちをこめて、アベルはラキアの頭を優しくなでた。
「うん!」
元気を取り戻したラキアは、明るく手を振って、大きな窓がついた四輪馬車に乗り込んだ。
ようやく動き出したイスタリア城の馬車は、ゆっくりと回りながら森の道へ。その時、ラキアが窓から身を乗り出して、また手を振った。
「あたしも!」
親しくなった者たちはみな手を振り返し、笑顔で彼女を見送った。
今は秋が終わる頃。モミの木が多いフェルドーランの森は、どこもかしこも赤や黄色といった秋色に染まることはない。その分、衣替えをしたほかの木々が、際立って見られるようになる。そしてそれらが、遠慮がちにはらはらと紅葉を落とす。下には落ち葉の吹き溜まりもある。もうすぐ冬が来る。
春になったら・・・と、アベルは心の中で誓った。
君がそうなら、僕もきっと、君のことが・・・。
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