イルマの東へ Ⅱ ~ Knights of Winder Kingdom ~

月河未羽

文字の大きさ
66 / 69
第6章  決 戦

12.  決着の時

しおりを挟む

 アベルは、どんなに兄のもとへ駆け寄りたいか知れなかった。だが、まだその時ではないとわきまえて、我慢した。今は両者ともに疲れ切って動きがないが、中断しているだけでまだ決着はついていない。それに、兄は怖いほど鋭く険しいまなざしをしていた。まるで別人のようだ。いつも穏やかな表情と優しい声で話す兄。こんな顔は一度も見たことがない。

 エウロンは、無様にボロボロにされた盾をにらみつけた。もう使う気にならないような有様ありさまだ。それで、彼はその盾を自分の兵士に受け取らせた。

 それを見たアレンディルも、ひどく欠けて痛んだ盾をエドリックに預けた。

 両者、剣だけを構えて再び臨戦態勢をとった。互いに顔を見合い、様子をうかがう。

「行くぞ!」とエウロンが怒鳴って、王たちは再び闘志を燃え上がらせた。

 お互い無闇やたらに斬りつけるようなことはしない。ひっきりなしに繰り出される剣技の数々。白いやいばが空中を走り回る。鎧を少し引き裂き合った。アレンディルの腕から、エウロンの腰のあたりから、けきれずにつけられたかすり傷から鮮血がしたたる。

 危ない! という瞬間には、アベルは思わず目をそむけた。だが、慌てて振り戻した。リマールも同じだ。だが、エドリックとマクヴェインは、厳しい顔で一度も戦いから目を放さなかった。

 アレンディルは攻撃を飛び退いてかわしたあと、さらに一歩さがった。次いで、剣のつかを両手で握り締め、右のひじを後ろへ引いた水平の構えで突進した。

 そして・・・!

 苛立いらだちとあせりがあだとなったか、アレンディルの突き入れた剣が、ついにエウロンの胸の上をとらえた! 必死で戦っていたので、アレンディルは、それがどんなふうに決まるのかなど考えていなかった。

 だがそれは、見事に王エウロンの鎧を打ち砕き、鎖帷子くさりかたびらを斬り裂き、肉体を深く刺していた。それほどの威力があった。

 アレンディルは、パッと剣を手放した。わざとだ。

 エウロンがよろめく。それから、現実を受け止められない様子で、何か言いたげにアレンディルの顔を見つめながら、後ろへ倒れた。もはや声は出ない。彼自身、体が死にかけているのが分かった。勝敗を決めた若い王の剣は、自分の肩に近い部位に、真っ直ぐに突き立てられたままだ。栄光を手にし、勝ち誇る剣。これを引き抜かれたら、死はもっと早く、瞬く間にやってくるだろう。

 エウロンはやいばをつかみ、なんと自ら白刃はくじんを引き抜いた。

 アレンディルが慌てて膝をつき、両手で傷口を押さえる。もし間に合うなら、命を救いたいと思ったのだ。負ければいさぎよく野心を捨てると言った、その言葉を信じて。

 粉々になった鎖帷子は、血で赤く染まっている。救えるか。

 すると、王エウロンが少し頭を起こした。いきなり腕を動かして、アレンディルの手首につかみかかったのだ。

 アレンディルは驚いて王の顔に目をやったが、それは残る気力を振り絞った力で、それ以上は何も起こらなかった。ただその時、エウロンはまだ敵意に満ちた目つきで、何か短い言葉をしゃべった。うらみ言を口にしたのか、アレンディルはその動きをしっかりと見たが、一文字も聞き取れはしなかった。

 エウロンは苦しそうに歯を食いしばり、地面に頭をつけた。

「手当てを!」
 アレンディルが大声で言った。そして、身動きできずにいた自分の兵士たちの方へ首を向け、しかるようにもう一度。
「手当てを、早く!」

 その命令に従って、見習い軍医のリマールが救命処置をほどこした。それと同時に、両国の従者たちも駆け寄ってきた。もちろん、アベルも。

 リマールが事態を先生に知らせに行くようエドリックに頼み、瀕死ひんしのエウロンの体はすぐに処置室へ運び込まれた。



 結果、エウロンは生きながらえた。



 そうしてバラロワ王国の君主は、立場としては捕虜となったが、客人としての待遇を受け、王宮の別館で療養することとなった。

 その後、まだ潜んでいるバラロワ王国の部隊は、約束通りにことごとく撤退させた。回復したら必ず送り届けると誓って、近衛兵も残さなかった。王がやぶれた今、彼らはそれをきくしかなかった。



 王エウロンは、隣国でたった一人になった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

処理中です...