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第6章 決 戦
13. 末路
しおりを挟む冬が訪れ、日中でも身に応えるほど冷える時期になった。窓の外では雪がちらつき、小さな庭に生えている高い木々には、木の葉はもう一枚も無い。
ここは、王宮の裏側にひっそりと建っている二階建ての館。塀に囲まれて、王族の世界の華やかさや堅苦しさを遮断しているように見える。きちんと管理されて綺麗な状態を保っているが、普段はまったく人気のない所だ。何代も前の君主が、夫婦で静かな隠居生活を送りたくて建てたそう。
そして今は、傷ついた王エウロンが、ここで一時的に療養生活を送っている。
暖炉の前の安楽椅子に座っているその彼は、すっかりやつれて、おとなしくなり、弱っているように見えた。傷は癒え、体はもう自由に動いていいまでに回復したが、その顔には野望に燃えていた時の面影はなく、憔悴しきってまるで別人のようだった。
その彼には常に、一人だけ付き添いがいた。それは、ウィンダー王国の王都にいる騎士が、交代で務めた。従者代わりの世話役といったところだったが、エウロンは、その騎士たちと時々言葉を交わすこともあった。労わり、優しく接して欲しいというアレンディル陛下の願いによって、最初彼らは恨みをおさえ、仕方なくそうしていたところもあった。しかしそのうち、真心で接し始めた。王エウロンは孤独に一人で、自分が支配したかった国に、捕虜としていながら世話になっている。考えてみれば惨めな話だ。そういう思いが読み取れるほど元気のない姿は、そばについた騎士がみな、思わず同情や憐れみを覚えるほどだった。
実際、エウロンはいつまでもショックから立ち直れずにいた。かつて強敵と認めた男はもういない。なのに、今度も作戦は上手くいかなかった。さらには、その息子にまで決闘で負けた。しかも戦場を知らない若い王だ。エウロンは己の運の無さを呪い、いかに自身が衰えたかを思い知った。
一方、エウロンが療養しているこの間に、ウィンダー王国では様々なことが話されていた。今こそ、バラロワ王国と分かり合わなければならないと考え、そして今度こそ上手くいくだろうと、多くの者が期待していた。
そして、体の方は順調に回復したため、約束通りに、王エウロンを彼の国へ送り届ける日も決まった。冬が深まる前にと、昨日、その連絡の使者を出したところだ。そのことは本人、つまり、エウロンにも伝えられた。
エウロンは物思いに耽っている様子で、大きな吐き出し窓の方を向いている。
薄い灰色の空、小枝まで剥き出しになった細い木々、枯れた芝生・・・。冬の自然の風景は、それだけで何となく切なく寂しい気持ちになる・・・と、付き添いの騎士は思いながら、一緒に窓の外を眺めていた。彼ら付き添う者たちは、なるべく王エウロンの視界に入らない場所にいるようにしていた。それも配慮してのことだ。それでこの時、彼は、エウロンが座っている椅子の背凭れから、少し離れた後ろに立っていた。
エウロンはその騎士に顔を向けて声をかけ、虚ろな表情で水が飲みたいと言った。
騎士はうなずき、召使いにそう伝えるため部屋を出た。
ところが戻ると、部屋に鍵がかけられていた。おかしいと思い、騎士は慌てて外から回り込んだ。
そこで彼はハッとなり、ひどくうろたえた。
窓の向こう、部屋の中で何か燃えている・・・!
窓にも鍵がかけられていたが、騎士は大声を上げて助けを呼び、剣の柄で窓を破って突入した。火のついた薪が床に転がっていて、もう一つ大きな炎が右に左に動き回っている。
その炎の塊は、やはり王エウロンだった。
彼は床に倒れ込み、苦しそうにのたうち回った。
騎士は部屋の中を見回したが、火を消すのに使えそうなものは何もない。館内にいるのは、召使いがごく数名。だが外から、近くにいた衛兵が何人か駆けつけてきた。そして事態に気づき、集まった者たちはみな急いで池から水を汲み上げ始めた。
そうしてやがて消火されたが、そのあいだにも全く動かなくなっていたエウロンは、全身ひどい火傷を負った目もあてられない姿で、すでに死んでいた。
誰もが突っ立ったまま、しばらく動くことができずにいた・・・。
そのうちやっと、騎士が気力を奮い起こしてベッドの方へ行き、シーツを手に取った。それを、亡くなった彼のつま先から頭へそっとかぶせる。
バラロワ王国の王は、最期、自ら命を絶った・・・焼身自殺。
その衝撃が、部屋に集まった者たちをいつまでも黙らせていた。
やがて、報告を聞いたアレンディル陛下が駆けつけた。
アレンディルは、頭から踵までシーツに覆われている遺体のそばに膝をつき、恐る恐るほんの少しまくり上げてその顔を見た。
彼は辛そうなため息をついて、目を伏せた。
その時、アレンディルは不意に思い出した。戦いに敗れた時、王エウロンが何かを口にしたのを。
そして今、それが分かった。
「構うな。」
きっと・・・そうだ・・・という気がした。敵に情けをかけられたまま、生きてはいけなかったのだとやっと理解した。彼なりに、せめて威厳を保ったのだ。
「野心を後世に引き継がせず、潔く降伏する。」
それが結局、バラロワ王国の君主エウロンの遺言となった。実際にそれを聞いた者全ての胸に、その言葉はしっかりと焼きつけられていたから。バラロワ王国の方でも、その時のことは、使節団としてそばにいた従者たちから伝えられていたのである。
こうしてその後、ようやく対話による平和的解決、つまり、ウィンダー王国とバラロワ王国の和平が実現した。
そして、その誓いを確固たるものとし、また象徴するかのように、間もなく、ウィンダー王国の誠実で勇敢な騎士と、バラロワ王国の見目麗しい王女が結ばれることとなった。
もちろん、政略結婚ではなく、愛し合うその二人の希望、自由意志で。
そしてこれを、両国の人々はみな、長きに渡った不和にとらわれることなく、心から喜び祝福した。
永遠に続く、平和への祈りと期待をこめて。
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