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わたしのつなぎたい手
【第8話:カーニャさん登場】
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小鳥の声がひびく。すっきりした朝の空気。
ルメリナの街には多くの人々が住む。特に辺境の流通拠点としての地勢が、様々な旅人を招き入れる。
人口も多いのでハンターも多く、昔からハンターオフィスの存在は大きいものだった。
そのハンターオフィスが寮として紹介する宿。ここは女性宿泊客専用の宿だった。
「ユア、ユア。起きてください」
細い白い腕が、ベットの上の掛布団をゆする。
そんなに強くゆするわけではないが、サラサラと動きに合わせてストレートの長い銀髪が揺れる。
いつまでも起きてこないユアを起こしに来たアミュアだ。
「んん…」
揺れ方が優しすぎたか、ユアは起きる気配がない。
ちょっとプクって頬をふくらませ、さらに頑張るアミュア。
「ユア!起きてください!もうとっくにごはんの時間ですよ!」
加減のよくわからないアミュアはあちこちむにむに押していく!
「ふにゃあ!なんだなんだ!」
さすがにNGっぽい所まで押されてユアが目覚める。
眠そうに眼をこすると、そこにはベットの上まで来て、仁王立ちのアミュア。
「おきましたか?今日は依頼報告もありますし、こまない内にオフィスいく予定です」
「くっ妹が起こしに来るイベント…もう少し堪能すればよかった…」
あくまで表情の変わらないアミュアは腕組みまでして見下ろす。
「ユアって時々へんなこといいますね。おはらいいきますか?」
なんとか支度を済ませた二人がハンターオフィスに向かう。
ユアは少し髪型が決まらず、さっきから右側をなでおろし続けている。
「もうすこし早くおきるようにしましょう」
感情の発色が悪いアミュアの声に、すでにいつもの調子を取り返しているユアが答える。
「おっけーおっけー。明日からはあたしがアミュアを起こしに行くよ!愛をもって」
「いえ、けっこうです」
「ぬぅ」
あっさりとした感触の受け答えだが、ユアは自然と笑みを広げる。
このアミュアの態度がたいてい照れ隠しなのだと最近気づいたのだ。
「で・・・・寝てましたと?こっちは心配してたんだが?」
結構本気で怒ってるようなカウンター内のマルタスの前で、めずらしくしおらしいユア・アミュア。
「ごめんなさーい、昨日はもう遅かったから…あとお腹すいてて」
「ごめんなさい」
腕組みを解いたマルタスが、重いため息とともに話し出す。
「ここは夜中まで開いている。報告は速やかに。以上!」
「りょーかーい」
「わかりました」
だんだん元に戻るユアとしょんぼりしたアミュアが対象的だった。
そこにスイングドアが勢いよくバーンと開かれる音。
青筋を立てるマルタスが怒鳴る。
「だれだ!うちのドアは繊細なんだ、静かにあけやがれ!」
勢いよく壁まで行き跳ね返るドア。その隙間をするりと入り込む人影。
「おぉお~ほっほっほ!皆様ごきげんよおお~!」
「・・」
「‥」
「‥」
眼が点になる3人。あまりの勢いで登場したのは、真っ赤なマントに真っ赤な革鎧。あちらこちらに白のフリルがはみ出した、お嬢様風ハンターだった。腰には銀の装飾過多レイピアが鎮座する。
「スリックデンのギルドから派遣されてきました!『A級』ハンターの、カーニャ・シア・ヴァルディアですわ!『A級』ですわ!」
さっとマントを払いながら、綺麗な立ち姿を披露し相変わらずの声量でつづけた。
あぁと思い至ったのかマルタスが答える。
「お前が応援か。前の街じゃどうだったか知らねえがな。ここじゃあドアは優しく開けることになってんだ。おぼえとけよ」
ユアとアミュアもこそこそと会話。
「いや…さすがにあれはひどいでしょ?」
「いえ、もんだいがいです」
ささやくように交わされた会話にも反応するカーニャ。
「ちょっとそこ!聞こえてますわよ!これだから田舎のハンターは、品性に問題がありますわっ!」
登場時の品性は問わないようで、ユア達にまで飛び火していった。
いつもの説明先輩ハンター達も勢いにのまれ、動きが遅かった。
「カ・・カーニャだと?『真紅のカーニャ』と強要するというあの有名な!」
「だが、実力は東部一ともいわれているぞ」
「ここまでの戦力が補充されるとは‥‥いよいようさん臭くなってきやがったな」
「百合の間に挟まる……真っ赤なバラ?!」
「A級ハンターとは、この町にも一人しかいないランクだぞ、すげえな」
「ハンターオフィスとしては東部よりこっちのが上だからな、力関係」
と、いつものように説明を終えるとさっていくハンター達であった。
その流れるような説明セリフをさらりと流し、つかつかカウンターによってくるカーニャ。
ユアの後ろに隠れるアミュアに目を止め、すいっと近づく。
「あら?あなたかわいらしいわね?いくつなの?」
きれいにデレるカーニャさんであった。
その前に立ちはだかるのは、さらに磨きのかかったおねーさんスキルを持つユア。
「ここは通さない!この妹はあたしのだ!」
「妹ではないです」
食い気味なアミュアの否定をものともせず、カーニャに食って掛かる。
「あんた偉いのかもしれないけどね!うちのアミュはそんなお安くないんだから!」
「アミュアです」
なんだか二人の勢いに押されてタジタジなるカーニャさんであった。
「で・・・・こいつどうすんの?」
ひとりこめかみに手を当てるマルタスであった。
ルメリナの街には多くの人々が住む。特に辺境の流通拠点としての地勢が、様々な旅人を招き入れる。
人口も多いのでハンターも多く、昔からハンターオフィスの存在は大きいものだった。
そのハンターオフィスが寮として紹介する宿。ここは女性宿泊客専用の宿だった。
「ユア、ユア。起きてください」
細い白い腕が、ベットの上の掛布団をゆする。
そんなに強くゆするわけではないが、サラサラと動きに合わせてストレートの長い銀髪が揺れる。
いつまでも起きてこないユアを起こしに来たアミュアだ。
「んん…」
揺れ方が優しすぎたか、ユアは起きる気配がない。
ちょっとプクって頬をふくらませ、さらに頑張るアミュア。
「ユア!起きてください!もうとっくにごはんの時間ですよ!」
加減のよくわからないアミュアはあちこちむにむに押していく!
「ふにゃあ!なんだなんだ!」
さすがにNGっぽい所まで押されてユアが目覚める。
眠そうに眼をこすると、そこにはベットの上まで来て、仁王立ちのアミュア。
「おきましたか?今日は依頼報告もありますし、こまない内にオフィスいく予定です」
「くっ妹が起こしに来るイベント…もう少し堪能すればよかった…」
あくまで表情の変わらないアミュアは腕組みまでして見下ろす。
「ユアって時々へんなこといいますね。おはらいいきますか?」
なんとか支度を済ませた二人がハンターオフィスに向かう。
ユアは少し髪型が決まらず、さっきから右側をなでおろし続けている。
「もうすこし早くおきるようにしましょう」
感情の発色が悪いアミュアの声に、すでにいつもの調子を取り返しているユアが答える。
「おっけーおっけー。明日からはあたしがアミュアを起こしに行くよ!愛をもって」
「いえ、けっこうです」
「ぬぅ」
あっさりとした感触の受け答えだが、ユアは自然と笑みを広げる。
このアミュアの態度がたいてい照れ隠しなのだと最近気づいたのだ。
「で・・・・寝てましたと?こっちは心配してたんだが?」
結構本気で怒ってるようなカウンター内のマルタスの前で、めずらしくしおらしいユア・アミュア。
「ごめんなさーい、昨日はもう遅かったから…あとお腹すいてて」
「ごめんなさい」
腕組みを解いたマルタスが、重いため息とともに話し出す。
「ここは夜中まで開いている。報告は速やかに。以上!」
「りょーかーい」
「わかりました」
だんだん元に戻るユアとしょんぼりしたアミュアが対象的だった。
そこにスイングドアが勢いよくバーンと開かれる音。
青筋を立てるマルタスが怒鳴る。
「だれだ!うちのドアは繊細なんだ、静かにあけやがれ!」
勢いよく壁まで行き跳ね返るドア。その隙間をするりと入り込む人影。
「おぉお~ほっほっほ!皆様ごきげんよおお~!」
「・・」
「‥」
「‥」
眼が点になる3人。あまりの勢いで登場したのは、真っ赤なマントに真っ赤な革鎧。あちらこちらに白のフリルがはみ出した、お嬢様風ハンターだった。腰には銀の装飾過多レイピアが鎮座する。
「スリックデンのギルドから派遣されてきました!『A級』ハンターの、カーニャ・シア・ヴァルディアですわ!『A級』ですわ!」
さっとマントを払いながら、綺麗な立ち姿を披露し相変わらずの声量でつづけた。
あぁと思い至ったのかマルタスが答える。
「お前が応援か。前の街じゃどうだったか知らねえがな。ここじゃあドアは優しく開けることになってんだ。おぼえとけよ」
ユアとアミュアもこそこそと会話。
「いや…さすがにあれはひどいでしょ?」
「いえ、もんだいがいです」
ささやくように交わされた会話にも反応するカーニャ。
「ちょっとそこ!聞こえてますわよ!これだから田舎のハンターは、品性に問題がありますわっ!」
登場時の品性は問わないようで、ユア達にまで飛び火していった。
いつもの説明先輩ハンター達も勢いにのまれ、動きが遅かった。
「カ・・カーニャだと?『真紅のカーニャ』と強要するというあの有名な!」
「だが、実力は東部一ともいわれているぞ」
「ここまでの戦力が補充されるとは‥‥いよいようさん臭くなってきやがったな」
「百合の間に挟まる……真っ赤なバラ?!」
「A級ハンターとは、この町にも一人しかいないランクだぞ、すげえな」
「ハンターオフィスとしては東部よりこっちのが上だからな、力関係」
と、いつものように説明を終えるとさっていくハンター達であった。
その流れるような説明セリフをさらりと流し、つかつかカウンターによってくるカーニャ。
ユアの後ろに隠れるアミュアに目を止め、すいっと近づく。
「あら?あなたかわいらしいわね?いくつなの?」
きれいにデレるカーニャさんであった。
その前に立ちはだかるのは、さらに磨きのかかったおねーさんスキルを持つユア。
「ここは通さない!この妹はあたしのだ!」
「妹ではないです」
食い気味なアミュアの否定をものともせず、カーニャに食って掛かる。
「あんた偉いのかもしれないけどね!うちのアミュはそんなお安くないんだから!」
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