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わたしのつなぎたい手
【閑話:半分この奇跡】
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辺りを包んでいた透明な光が少しずつ収まり、リィンとした澄んだ音とともに消えた。
静寂が戻る。
「あなたは、この像の神様なの?顔がそっくり」
像の前に幾段かある古い石の階段。そこに並んで座ったユアと少女、ユアの声は少しづつ力を取り戻しつつある。痛々しい少女の表情が、ユアにもりもりと力を与える。
ユアはおねーさん気質なのだ。
『わたしはラウマ。その偶像は世界に広げたわたしの手です』
その御名を耳にして、ユアは幼いころから読み聞かせられたお気に入りの物語を思い出した。
「あなたがラウマ様なの?!すごい!!わたしラウマ様のお話大好きだったんだよ!」
『……』
ちょっと切り替わったユアのテンションに戸惑うラウマ。
そこでラウマの物語を、すっかり思い出したユアが気づく。
「ラウマ様は辛いの?どうしたらその辛さがなくなるの?」
『これは数多の民草が願った想いの痛み。なくすことなどできません』
「じゃあ…そこにラウマ様の痛みはないの?」
考えたこともなかった発想に戸惑うラウマ。
『……もちろん辛かった民達の辛さに劣らない、わたくしの痛みもあります』
「みんなの痛みが大切で、手放せないなら…あたしにラウマ様の痛みをちょうだい!」
とんでもない事をいいだすユアを、ちょっと驚いた顔をして見つめるラウマ。その眼差しには少し力が戻ったように見えた。
『わたくしには、わたくしの持つ痛みがどれほどのものか測りかねます』
「だいじょうぶ!あたし結構がまんできるから!」
『そ…そうですか、健やかでたのもしい限りですね…』
神様ですら自分のペースに巻き込む、ヒマワリのような笑顔。
ユアはすっかり自分本来の魅力を取り戻していた。皆に愛される元気な少女に。
『…すこしだけ、わたくしを支えてくれますか?とても辛いことがあったのです』
「もちろん!」
さっとラウマの白い手を両手で握るユア。不敬ではという恐れは、おねーさんモードのユアにはなかった。
「あたしが半分こするよ!辛かったのを半分こする!」
しばらくの間二人の話が続いた。ユアも自分のことをすこしづつ伝えた。
手は一度も離さなかった。
『半分こ…それならわたくし達にも救いがあるのかもしれません』
「なになに?一緒に頑張るよ!何でも言って!」
『今からわたくしの持つ力を半分だけユアに分け与えます。』
真剣な神様らしい?表情にもどしユアに告げるラウマ。その手には少しづつ力と熱が戻りだす。
「光栄です。謹んでうけたまわっちゃいます!」
真剣な顔で、丁寧な言葉の中にもユアらしさがにじむ。誰かを少しだけ微笑ませる魔法だ。
そんなユアにこの子なら、と希望をみいだすラウマ。
『お聴きなさいユア。いまから授ける力は癒しの奇跡。手をふれることで、相手の心を救う奇跡です』
すこしだけ躊躇うように、目を伏せるラウマが続ける。
『わたくしの痛みはこの奇跡と切り離せません。一度すべての半分を授けますので、その力をわたくしに使うのです』
「ふむふむ?……わかったよ!」
あ、これ解ってないやつ。そう感じ取ったラウマが念を押す。
『す…すぐに使うのですよ?わたくしに、つかうのですよ。本当に解っていますか?』
「もちろん大丈夫!二人で半分こだね!」
『この分け与えには痛みが伴います。あなたに耐えられますか?わたくしを支えてくれますか?』
「うん!」ニコニコニコニコ
『…それでは始めます。わたくしは力を失うと記憶やこころも失ってしまうかもしれません。痛みを感じたら、すぐにわたくしに奇跡を使うのですよ?そうすればわたくしの力も戻り、貴方の痛みを癒すことができます』
「半分この奇跡だね!」
一抹の不安を抱きながら、軽く目を閉じたラウマが言の葉を紡ぐ。それは神代の言の葉。人には聞き取る術はなかった。
「!いたいいたいいたいいたい!」
ユアにかつて経験したことのない痛みが流れ込む。同時に手をつないでいるラウマは、すっと小さくなっていく。光り輝き年齢を遡るように、小さな子供の容姿になるラウマ。
(だめだ!こんな小さい子にこんな痛みをあたえるなんて…)
痛みは際限無いようにユアに流れ込む。すぐに奇跡でラウマに返す約束など、ユアの保護欲の前ではふっとんでしまっていた。
(できない…あたしにはできない)
歯を食いしばりながら、脳を心をやかれる痛みにじっと耐えるユアであった。
辺りを静寂がつつみこむ。遠く鳥の鳴く声がかすかに届く。静謐な泉の祠。
その階には二人の少女が手をつないで座っている。
「なんかラウマ様ちいさくなった?あと髪が銀色に?」
「……」
こてんと頭をたおす銀髪の少女は、自分自身にむけて尋ねるように疑問符の言葉を投げだした。
「なんだか色々なことを忘れてしまった気がする?」
その澄んだ声色はラウマとは微妙にちがうとユアには感じられた。
今度はユアが黙り込む。ふるふると痛みをこらえるように、しかしその顔にはやさしさが溢れている。
「…か…かわいい」
ふしゅーっと湯気をだす幻影が見えそうなユアであった。
ちょっとだけ考えたユアは思う。
(この子が少し大きくなったら、お話してみて力を返せばいいかな?痛いのは可哀そうすぎるもんね)
じいっとすみれ色の綺麗な目を見て、手をつなぎながら声に出し問うユア。
「あなたはラウマさまなの?」
「…どうでしょう?よくおぼえていません」
「おなまえは?」
「ラウマという名には何かきょうかんしますが。わたしの名前とはかんじられません」
「えっと…じゃああたしが名前付けていいかな?」
ぱたりと後ろに倒れながら適当なことをいいだすユア。その目に像の台座が写る。さかさまから見たラウマの御名。<LAUMA>寝転がったユアには反対からも読めた<AMUAL>
(きっとやさしい神様にもバカンスが必要だ!)
「そうだ!あなたの名前はアミュア(AMUAL)。わたしのかわいい妹よ!」
「いえ、妹ではないとおもいます」
食い気味に反対するアミュアの初めての意思表示は、ユアへの不信感が滲んでいた。
やわらかな光が、手をつなぐ二人をちらちらと照らす。
あたらしい命を感じさせる、瑞々しい木漏れ日だった。
静寂が戻る。
「あなたは、この像の神様なの?顔がそっくり」
像の前に幾段かある古い石の階段。そこに並んで座ったユアと少女、ユアの声は少しづつ力を取り戻しつつある。痛々しい少女の表情が、ユアにもりもりと力を与える。
ユアはおねーさん気質なのだ。
『わたしはラウマ。その偶像は世界に広げたわたしの手です』
その御名を耳にして、ユアは幼いころから読み聞かせられたお気に入りの物語を思い出した。
「あなたがラウマ様なの?!すごい!!わたしラウマ様のお話大好きだったんだよ!」
『……』
ちょっと切り替わったユアのテンションに戸惑うラウマ。
そこでラウマの物語を、すっかり思い出したユアが気づく。
「ラウマ様は辛いの?どうしたらその辛さがなくなるの?」
『これは数多の民草が願った想いの痛み。なくすことなどできません』
「じゃあ…そこにラウマ様の痛みはないの?」
考えたこともなかった発想に戸惑うラウマ。
『……もちろん辛かった民達の辛さに劣らない、わたくしの痛みもあります』
「みんなの痛みが大切で、手放せないなら…あたしにラウマ様の痛みをちょうだい!」
とんでもない事をいいだすユアを、ちょっと驚いた顔をして見つめるラウマ。その眼差しには少し力が戻ったように見えた。
『わたくしには、わたくしの持つ痛みがどれほどのものか測りかねます』
「だいじょうぶ!あたし結構がまんできるから!」
『そ…そうですか、健やかでたのもしい限りですね…』
神様ですら自分のペースに巻き込む、ヒマワリのような笑顔。
ユアはすっかり自分本来の魅力を取り戻していた。皆に愛される元気な少女に。
『…すこしだけ、わたくしを支えてくれますか?とても辛いことがあったのです』
「もちろん!」
さっとラウマの白い手を両手で握るユア。不敬ではという恐れは、おねーさんモードのユアにはなかった。
「あたしが半分こするよ!辛かったのを半分こする!」
しばらくの間二人の話が続いた。ユアも自分のことをすこしづつ伝えた。
手は一度も離さなかった。
『半分こ…それならわたくし達にも救いがあるのかもしれません』
「なになに?一緒に頑張るよ!何でも言って!」
『今からわたくしの持つ力を半分だけユアに分け与えます。』
真剣な神様らしい?表情にもどしユアに告げるラウマ。その手には少しづつ力と熱が戻りだす。
「光栄です。謹んでうけたまわっちゃいます!」
真剣な顔で、丁寧な言葉の中にもユアらしさがにじむ。誰かを少しだけ微笑ませる魔法だ。
そんなユアにこの子なら、と希望をみいだすラウマ。
『お聴きなさいユア。いまから授ける力は癒しの奇跡。手をふれることで、相手の心を救う奇跡です』
すこしだけ躊躇うように、目を伏せるラウマが続ける。
『わたくしの痛みはこの奇跡と切り離せません。一度すべての半分を授けますので、その力をわたくしに使うのです』
「ふむふむ?……わかったよ!」
あ、これ解ってないやつ。そう感じ取ったラウマが念を押す。
『す…すぐに使うのですよ?わたくしに、つかうのですよ。本当に解っていますか?』
「もちろん大丈夫!二人で半分こだね!」
『この分け与えには痛みが伴います。あなたに耐えられますか?わたくしを支えてくれますか?』
「うん!」ニコニコニコニコ
『…それでは始めます。わたくしは力を失うと記憶やこころも失ってしまうかもしれません。痛みを感じたら、すぐにわたくしに奇跡を使うのですよ?そうすればわたくしの力も戻り、貴方の痛みを癒すことができます』
「半分この奇跡だね!」
一抹の不安を抱きながら、軽く目を閉じたラウマが言の葉を紡ぐ。それは神代の言の葉。人には聞き取る術はなかった。
「!いたいいたいいたいいたい!」
ユアにかつて経験したことのない痛みが流れ込む。同時に手をつないでいるラウマは、すっと小さくなっていく。光り輝き年齢を遡るように、小さな子供の容姿になるラウマ。
(だめだ!こんな小さい子にこんな痛みをあたえるなんて…)
痛みは際限無いようにユアに流れ込む。すぐに奇跡でラウマに返す約束など、ユアの保護欲の前ではふっとんでしまっていた。
(できない…あたしにはできない)
歯を食いしばりながら、脳を心をやかれる痛みにじっと耐えるユアであった。
辺りを静寂がつつみこむ。遠く鳥の鳴く声がかすかに届く。静謐な泉の祠。
その階には二人の少女が手をつないで座っている。
「なんかラウマ様ちいさくなった?あと髪が銀色に?」
「……」
こてんと頭をたおす銀髪の少女は、自分自身にむけて尋ねるように疑問符の言葉を投げだした。
「なんだか色々なことを忘れてしまった気がする?」
その澄んだ声色はラウマとは微妙にちがうとユアには感じられた。
今度はユアが黙り込む。ふるふると痛みをこらえるように、しかしその顔にはやさしさが溢れている。
「…か…かわいい」
ふしゅーっと湯気をだす幻影が見えそうなユアであった。
ちょっとだけ考えたユアは思う。
(この子が少し大きくなったら、お話してみて力を返せばいいかな?痛いのは可哀そうすぎるもんね)
じいっとすみれ色の綺麗な目を見て、手をつなぎながら声に出し問うユア。
「あなたはラウマさまなの?」
「…どうでしょう?よくおぼえていません」
「おなまえは?」
「ラウマという名には何かきょうかんしますが。わたしの名前とはかんじられません」
「えっと…じゃああたしが名前付けていいかな?」
ぱたりと後ろに倒れながら適当なことをいいだすユア。その目に像の台座が写る。さかさまから見たラウマの御名。<LAUMA>寝転がったユアには反対からも読めた<AMUAL>
(きっとやさしい神様にもバカンスが必要だ!)
「そうだ!あなたの名前はアミュア(AMUAL)。わたしのかわいい妹よ!」
「いえ、妹ではないとおもいます」
食い気味に反対するアミュアの初めての意思表示は、ユアへの不信感が滲んでいた。
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