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わたしのつなぎたい手
【第9話:ある日のハンターオフィス】
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ルメリアのハンターオフィス。
歴史ある木造のオフィスに、じんわりとした沈黙が落ちていた。
「で・・・・なんかアミュア育ってないか?」
マルタスの疑問にユアもアミュアをじーっと見る。
身じろぎしつつも表情を変えないアミュア。
「そうかな?毎日みてると良くわかんないかも?育ったの?アミュア」
腕組みして思い出そうとしているアミュア。
「特には感じないのですが。このローブもゆったりしてますから。」
はっと目を見開きつぶやくアミュア。
「そういえば最近寝巻がきついような…」
「え?なになに成長期??ちょっと並んで立ってみて!」
ふんふんと鼻息荒くアミュアをとなりにくっつけるユア。それをじーっと見るマルタス。
「うん、気のせいじゃないな。ふふん、これは俺じゃなきゃ見逃してたレベルだが」
何故かちょっと自慢そうに、マルタスは目を閉じあごを少しあげる。
「前はユアの肩まで届かない身長だった。今は肩に並んでいる。」
目を開き続けるマルタス。預言者のように半眼だ。
「お前らが来てから2か月。このペースだと来年にはアミュアがユアを見下ろしているだろう」
お互いを見つめ合うユアとアミュア。なぜかそう言い切られると、そう思えてしまう。見上げる角度が変わった気がして、くるくるユアの周りを回るアミュア。ふにゃふにゃ困り果てるユア。
じっと見ながら、まじめな顔でつぶやくマルタス。
「成長期には膝とか痛くなるんだが。そうゆうのはないか?アミュア」
癖になっているのか無意識に、右手の人差し指をアゴ先につけるアミュア。
少し首を傾けながら考える。
「…とくにありませんが、人はどれくらいの速さで身長がのびるものでしょう?」
「あたしはアミュアくらいの頃一年でこれくらい伸びたよ!」
親指と人差し指で幅をだすユア。先ほどのアミュアとユアの差に等しいくらいの幅だ。
それを見ながらマルタスも続ける。
「俺も一番伸びた頃そんな感じだな。」
「では…これは普通?ってことですかね?」
すこし嬉しそうなアミュア。
「うんうん!すこやかすこやか!アミュアいっぱい食べるんだよ!」
「睡眠も大事だと聞く。しっかり休め」
「あ……」
急に両手で口をふさぎ、目を見開くアミュア。
不審がる二人に、申し訳なさそうに申告する。
「そういえば、昨日から靴が新しくなってました」
斜めになり見せるブーツはかかと部分が結構高い。
「ちょっと前のがきつかったんで買い替えたのです…」
すばやくしゃがみこんで確認するユア。
「……ふむ」
愕然と目を見張るマルタス。
「……なん…だと…」
立ち上がり人差し指と親指で幅を測ったユアが自分の胸辺りに持ってくる。
上にある人差し指はユアの肩の高さと等しかった。
「ぇぇぇ…」と悲しそうなアミュア。
「……」沈黙はマルタス。しかし表情が雄弁。
マルタスの目玉がおちないかアミュアは少し心配だった。
じわじわと汗を一滴ながすアミュア。
絶妙な間をとって、半眼になったユアがマルタスの真剣な口調とポーズをまねる。
「これはオレじゃなきゃ見逃してたレベルだが……」
「くはぁ!やめて!いじわるしないで!」
両手で顔を隠すマルタスだった。
耳が赤いのは隠せていなかった。
数日後。
カランとベルを鳴らし、スイングドアが開く。
「たっだいまー!」
「ドア静かにあけないとマルタスさんにおこられますよ」
「えぇ?静かだったよね?」
「いえ、ベルの音がつうじょうより大きかったです」
わいわい話しながらカウンターに進むユアとアミュア。
もうこのオフィスでは恒例の風景。
見かけた誰もが、ちょっと笑顔になる二人だった。
楽しそうに進む姿を横からするっと出てきた人影が遮る。
「ちょっと!あなたたち!」
腕組みで立ちふさがるのはカーニャ。
アップにまとめたウエーブブロンドが軽く揺れ、髪飾りがキラリと光を放つ。
さっとユアが腕を広げ、アミュアの前に出る。
ユアとカーニャ、二人の身長はほぼ同じで、目線は自然とそろっていた。
なめらかな無駄のない動きで、二人とも優れた体術を習得しているのが見て取れる。
カウンターでは見ていたマルタスが、こめかみに手をあてがっくりしている。
トラブルの予感しかないのであろう、だるそうに言う。
「喧嘩は外でやれよー」
ユアを指さしながら首だけ振り向いてカーニャ。
「喧嘩ではないですわ!この子達も依頼に連れてけって言うなら、実力を見せてもらわないとですわ!」
ぱっと視線をもどして、ユアをにらむカーニャ。
「…どゆこと?」
「…」
はてなはてな、となる二人にマルタスの説明。
「緊急調査依頼だ。泉の祠よりずっと奥に隠れ里がある。シルファリアという村だ」
ガタン、とユアが後ろに下がりテーブルに当たる。顔色は真っ青だ。
「ユア?どうしたの?」
アミュアが心配そうにユアに寄り添い手を取る。
「???」
「どうしたんですの?」
マルタスもカーニャも意味が解らず混乱している。
アミュアもわからないが、手を引きユアをそっと椅子に座らせた。
じっとユアをみるアミュア。
(あのときと同じだ。ユア泣いてる…心が)
祠で出会ってから数か月。
丁寧にユアを知ろうとしてきたアミュアには解った。
これは普通の反応ではないと。
「マルタスさん、少し休憩室をおかりします」
ハンターオフィス1階には様々な施設がある。
左翼には特に診察室、救護室などが集中しており、診察室には仮眠もできるベットがいくつかあった。
ユアを立たせ、背に手をまわし連れていくアミュア。
首だけでマルタスに声を向ける。
「…少しだけ二人にしてください。カーニャさんもごめんなさい」
後半をカーニャに向け、二人で休憩室へ向かった。
残された二人には微妙な空気。
すっかり毒気を抜かれたカーニャが尋ねる。
「どうゆうことですの?マルタスさん」
「……いや、俺にもわからん」
少し不穏な空気の中、カチカチカチと時計の音だけが少し耳障りに響いていた。
歴史ある木造のオフィスに、じんわりとした沈黙が落ちていた。
「で・・・・なんかアミュア育ってないか?」
マルタスの疑問にユアもアミュアをじーっと見る。
身じろぎしつつも表情を変えないアミュア。
「そうかな?毎日みてると良くわかんないかも?育ったの?アミュア」
腕組みして思い出そうとしているアミュア。
「特には感じないのですが。このローブもゆったりしてますから。」
はっと目を見開きつぶやくアミュア。
「そういえば最近寝巻がきついような…」
「え?なになに成長期??ちょっと並んで立ってみて!」
ふんふんと鼻息荒くアミュアをとなりにくっつけるユア。それをじーっと見るマルタス。
「うん、気のせいじゃないな。ふふん、これは俺じゃなきゃ見逃してたレベルだが」
何故かちょっと自慢そうに、マルタスは目を閉じあごを少しあげる。
「前はユアの肩まで届かない身長だった。今は肩に並んでいる。」
目を開き続けるマルタス。預言者のように半眼だ。
「お前らが来てから2か月。このペースだと来年にはアミュアがユアを見下ろしているだろう」
お互いを見つめ合うユアとアミュア。なぜかそう言い切られると、そう思えてしまう。見上げる角度が変わった気がして、くるくるユアの周りを回るアミュア。ふにゃふにゃ困り果てるユア。
じっと見ながら、まじめな顔でつぶやくマルタス。
「成長期には膝とか痛くなるんだが。そうゆうのはないか?アミュア」
癖になっているのか無意識に、右手の人差し指をアゴ先につけるアミュア。
少し首を傾けながら考える。
「…とくにありませんが、人はどれくらいの速さで身長がのびるものでしょう?」
「あたしはアミュアくらいの頃一年でこれくらい伸びたよ!」
親指と人差し指で幅をだすユア。先ほどのアミュアとユアの差に等しいくらいの幅だ。
それを見ながらマルタスも続ける。
「俺も一番伸びた頃そんな感じだな。」
「では…これは普通?ってことですかね?」
すこし嬉しそうなアミュア。
「うんうん!すこやかすこやか!アミュアいっぱい食べるんだよ!」
「睡眠も大事だと聞く。しっかり休め」
「あ……」
急に両手で口をふさぎ、目を見開くアミュア。
不審がる二人に、申し訳なさそうに申告する。
「そういえば、昨日から靴が新しくなってました」
斜めになり見せるブーツはかかと部分が結構高い。
「ちょっと前のがきつかったんで買い替えたのです…」
すばやくしゃがみこんで確認するユア。
「……ふむ」
愕然と目を見張るマルタス。
「……なん…だと…」
立ち上がり人差し指と親指で幅を測ったユアが自分の胸辺りに持ってくる。
上にある人差し指はユアの肩の高さと等しかった。
「ぇぇぇ…」と悲しそうなアミュア。
「……」沈黙はマルタス。しかし表情が雄弁。
マルタスの目玉がおちないかアミュアは少し心配だった。
じわじわと汗を一滴ながすアミュア。
絶妙な間をとって、半眼になったユアがマルタスの真剣な口調とポーズをまねる。
「これはオレじゃなきゃ見逃してたレベルだが……」
「くはぁ!やめて!いじわるしないで!」
両手で顔を隠すマルタスだった。
耳が赤いのは隠せていなかった。
数日後。
カランとベルを鳴らし、スイングドアが開く。
「たっだいまー!」
「ドア静かにあけないとマルタスさんにおこられますよ」
「えぇ?静かだったよね?」
「いえ、ベルの音がつうじょうより大きかったです」
わいわい話しながらカウンターに進むユアとアミュア。
もうこのオフィスでは恒例の風景。
見かけた誰もが、ちょっと笑顔になる二人だった。
楽しそうに進む姿を横からするっと出てきた人影が遮る。
「ちょっと!あなたたち!」
腕組みで立ちふさがるのはカーニャ。
アップにまとめたウエーブブロンドが軽く揺れ、髪飾りがキラリと光を放つ。
さっとユアが腕を広げ、アミュアの前に出る。
ユアとカーニャ、二人の身長はほぼ同じで、目線は自然とそろっていた。
なめらかな無駄のない動きで、二人とも優れた体術を習得しているのが見て取れる。
カウンターでは見ていたマルタスが、こめかみに手をあてがっくりしている。
トラブルの予感しかないのであろう、だるそうに言う。
「喧嘩は外でやれよー」
ユアを指さしながら首だけ振り向いてカーニャ。
「喧嘩ではないですわ!この子達も依頼に連れてけって言うなら、実力を見せてもらわないとですわ!」
ぱっと視線をもどして、ユアをにらむカーニャ。
「…どゆこと?」
「…」
はてなはてな、となる二人にマルタスの説明。
「緊急調査依頼だ。泉の祠よりずっと奥に隠れ里がある。シルファリアという村だ」
ガタン、とユアが後ろに下がりテーブルに当たる。顔色は真っ青だ。
「ユア?どうしたの?」
アミュアが心配そうにユアに寄り添い手を取る。
「???」
「どうしたんですの?」
マルタスもカーニャも意味が解らず混乱している。
アミュアもわからないが、手を引きユアをそっと椅子に座らせた。
じっとユアをみるアミュア。
(あのときと同じだ。ユア泣いてる…心が)
祠で出会ってから数か月。
丁寧にユアを知ろうとしてきたアミュアには解った。
これは普通の反応ではないと。
「マルタスさん、少し休憩室をおかりします」
ハンターオフィス1階には様々な施設がある。
左翼には特に診察室、救護室などが集中しており、診察室には仮眠もできるベットがいくつかあった。
ユアを立たせ、背に手をまわし連れていくアミュア。
首だけでマルタスに声を向ける。
「…少しだけ二人にしてください。カーニャさんもごめんなさい」
後半をカーニャに向け、二人で休憩室へ向かった。
残された二人には微妙な空気。
すっかり毒気を抜かれたカーニャが尋ねる。
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