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わたしのつなぎたい手
【第51話:あたらしい町にて前編】
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雪月山脈を越え、ミルディス公国側に抜けてきた3人の旅人。
今日の馬車の運転はユアである。
少しづつ整備が良くなる道は、旅を捗らせてくれる。
青みが淡く霞んだ空に、うろこ雲が織りなす繊細な模様が広がっていた。
「あ!町がみえてきたよ!」
突然立ち上がり、ユアが声を上げた。
運転席の後ろにある窓を開け、ちょっと狭そうにカーニャとアミュアが上半身を出してくる。
「あたらしいまち、どこですか?」
「よかった、なんとか食料持ったわね。運転かわろうか?ユア」
山を下りてからは日を追うごとに気温も上がり、過ごしやすい気候になっていた。
「もうすぐ着いちゃうよ。運転も大丈夫、入口で一旦停めるね」
答えるユアが少しづつ道の端に馬車を寄せていく。
二人も外に体を出したまま見ていた。
3人共わくわくして、3姉妹のようにほほえましく見える。
すれ違う商人風の男から微笑と、馬車に繋がれた馬からいななきをもらうのだった。
最初に宿を取り、シャワーを浴びて馬車を預けた3人が通りを進む。
ルメリナよりも少し小さいが、それなりに商店もあり活気ある町並み。
街は色鮮やかな布や香辛料の香りに満ちて、どこか異国の空気を漂わせている。
そんな華やかな景色にも、ユアたち三人はふんわりと馴染み、その一部であるかのようだった。
三人の装いは決して目立ちすぎず、ほんの少しだけ春らしい華やかさを放っていた。
ーーユアの背負う巨大なバックパック以外は…
「みてみて!あれなんだろう?」
ユアが指さすのは衣類を扱うのか、カラフルな布を展示している出店。
「ちょっと質感がめずらしいわ、ミルディス公国の品物ってあまり見たことなかった」
答えるカーニャも珍しそうに冷やかした。
アミュアはあまり着るものに興味がないのか、反対側の小物屋がきになるようだ。
わいわいとあちこち見ながら、宿で聞いたハンターオフィスを目指すのだった。
このくらいの規模の町になると、支所扱いだったりするが必ずオフィスがある。
情報収集と旅の中集めた素材を換金しにいくのだ。
「買い物は帰りにしましょうね」
とカーニャの声で後ろ髪ひかれつつ進むのであった。
思いがけず近代的な白い建物。
ハンターオフィスはユア達が入った町の入り口と、反対側の入り口脇にあった。
こちらでも流行りだしているのか、スリックデンのようなコンクリートを塗り補強した2階建ての箱型だ。
屋根は空より濃い青に塗られている。
これも白く塗られた木製だが、中が見える小窓付きのドアを開け入っていく。
室内は広く清潔、左右の壁際には歓談席もあった。
窓も大きいので、光も十分入り白い石材のタイルに出窓の花瓶を影で描く。
「じゃあ納品と換金はあたしとアミュアで行ってくるね」
大きなバッグを背負ったユアがカーニャに言う。
アミュアもちょっと後ろから支えている。
「了解、じゃあ移動の届けと情報収集はまかせて」
それだけ告げにこっと微笑み、カーニャは受付カウンターへと向かった。
「買取は…こっちだね。いこ、アミュア」
「りょうかいです、思ってたよりたくさん素材たまってましたね」
二人で会話を続けながら、カウンターより奥の持ち込み所をめざした。
両手にバックを一つずつ持ち、大きなバックパックを背負うユア。
ユアをがんばって支えるアミュアだ。
何組かいた別のハンターが素材の量に目をむき、それを運ぶ細身のユアとアミュアにさらに驚く。
「おじさん!ここにだしていいの?」
「よろしくです」
持ち込み所の奥から顔をだした、ごつい男に話しかけたユア達。
どこにいっても、親切にしてもらえるのがこの二人の空気感だ。
いかつい男の眉もアミュアの声でついに下がるのだった。
歓談コーナーに3人が戻り集まる。
少し直線的なシンプルなテーブルセットは、コントラストも映える黒であった。
「ダウスレムの方はやっぱり情報なかった?」
すこし真面目な顔でユア。
「そうね、伝聞以上のものはなかった。逆にない事が情報になるけどね」
「??」
「??」
ふたりは首をそろえてコテンとした。
なんだかかわいいなと、にっこりしてカーニャ。
「町に情報がないってことは、ダウスレム側が情報を隠してるってことでもある」
カーニャの表情も、少しずつ真剣になる。
「隠れて動きたい理由がある。何かを隠したいっていう証明よ。」
ぱちりとウィンク。
「まったく情報が出回ってないなんて、逆におかしいわ」
ハンターオフィスは地域で一番の情報通でもあるのだ。
あらゆる情報がここに集まり、発信されている。
そこに全く情報がないなどあり得ない。
カーニャはそう論理だて説明した。
古城に関する情報はわりとすぐ集まり、3人で共有した。
「じゃあ、そのルイムなんとかって城で間違いなさそうだね」
適当なユアに訂正しながら答えるカーニャ。
「ルイム・ザニカ・ザヴィリスブルク城ね。まあ…ながいわね確かに名前。ルイムでいいか」
最後はにこっと同意してうなずいてしまうカーニャ。
ちょっと適当なカーニャが珍しく二人も笑顔だ。
白黒の静かなハンターオフィスに柔らかな3人の笑顔が咲くのだった。
今日の馬車の運転はユアである。
少しづつ整備が良くなる道は、旅を捗らせてくれる。
青みが淡く霞んだ空に、うろこ雲が織りなす繊細な模様が広がっていた。
「あ!町がみえてきたよ!」
突然立ち上がり、ユアが声を上げた。
運転席の後ろにある窓を開け、ちょっと狭そうにカーニャとアミュアが上半身を出してくる。
「あたらしいまち、どこですか?」
「よかった、なんとか食料持ったわね。運転かわろうか?ユア」
山を下りてからは日を追うごとに気温も上がり、過ごしやすい気候になっていた。
「もうすぐ着いちゃうよ。運転も大丈夫、入口で一旦停めるね」
答えるユアが少しづつ道の端に馬車を寄せていく。
二人も外に体を出したまま見ていた。
3人共わくわくして、3姉妹のようにほほえましく見える。
すれ違う商人風の男から微笑と、馬車に繋がれた馬からいななきをもらうのだった。
最初に宿を取り、シャワーを浴びて馬車を預けた3人が通りを進む。
ルメリナよりも少し小さいが、それなりに商店もあり活気ある町並み。
街は色鮮やかな布や香辛料の香りに満ちて、どこか異国の空気を漂わせている。
そんな華やかな景色にも、ユアたち三人はふんわりと馴染み、その一部であるかのようだった。
三人の装いは決して目立ちすぎず、ほんの少しだけ春らしい華やかさを放っていた。
ーーユアの背負う巨大なバックパック以外は…
「みてみて!あれなんだろう?」
ユアが指さすのは衣類を扱うのか、カラフルな布を展示している出店。
「ちょっと質感がめずらしいわ、ミルディス公国の品物ってあまり見たことなかった」
答えるカーニャも珍しそうに冷やかした。
アミュアはあまり着るものに興味がないのか、反対側の小物屋がきになるようだ。
わいわいとあちこち見ながら、宿で聞いたハンターオフィスを目指すのだった。
このくらいの規模の町になると、支所扱いだったりするが必ずオフィスがある。
情報収集と旅の中集めた素材を換金しにいくのだ。
「買い物は帰りにしましょうね」
とカーニャの声で後ろ髪ひかれつつ進むのであった。
思いがけず近代的な白い建物。
ハンターオフィスはユア達が入った町の入り口と、反対側の入り口脇にあった。
こちらでも流行りだしているのか、スリックデンのようなコンクリートを塗り補強した2階建ての箱型だ。
屋根は空より濃い青に塗られている。
これも白く塗られた木製だが、中が見える小窓付きのドアを開け入っていく。
室内は広く清潔、左右の壁際には歓談席もあった。
窓も大きいので、光も十分入り白い石材のタイルに出窓の花瓶を影で描く。
「じゃあ納品と換金はあたしとアミュアで行ってくるね」
大きなバッグを背負ったユアがカーニャに言う。
アミュアもちょっと後ろから支えている。
「了解、じゃあ移動の届けと情報収集はまかせて」
それだけ告げにこっと微笑み、カーニャは受付カウンターへと向かった。
「買取は…こっちだね。いこ、アミュア」
「りょうかいです、思ってたよりたくさん素材たまってましたね」
二人で会話を続けながら、カウンターより奥の持ち込み所をめざした。
両手にバックを一つずつ持ち、大きなバックパックを背負うユア。
ユアをがんばって支えるアミュアだ。
何組かいた別のハンターが素材の量に目をむき、それを運ぶ細身のユアとアミュアにさらに驚く。
「おじさん!ここにだしていいの?」
「よろしくです」
持ち込み所の奥から顔をだした、ごつい男に話しかけたユア達。
どこにいっても、親切にしてもらえるのがこの二人の空気感だ。
いかつい男の眉もアミュアの声でついに下がるのだった。
歓談コーナーに3人が戻り集まる。
少し直線的なシンプルなテーブルセットは、コントラストも映える黒であった。
「ダウスレムの方はやっぱり情報なかった?」
すこし真面目な顔でユア。
「そうね、伝聞以上のものはなかった。逆にない事が情報になるけどね」
「??」
「??」
ふたりは首をそろえてコテンとした。
なんだかかわいいなと、にっこりしてカーニャ。
「町に情報がないってことは、ダウスレム側が情報を隠してるってことでもある」
カーニャの表情も、少しずつ真剣になる。
「隠れて動きたい理由がある。何かを隠したいっていう証明よ。」
ぱちりとウィンク。
「まったく情報が出回ってないなんて、逆におかしいわ」
ハンターオフィスは地域で一番の情報通でもあるのだ。
あらゆる情報がここに集まり、発信されている。
そこに全く情報がないなどあり得ない。
カーニャはそう論理だて説明した。
古城に関する情報はわりとすぐ集まり、3人で共有した。
「じゃあ、そのルイムなんとかって城で間違いなさそうだね」
適当なユアに訂正しながら答えるカーニャ。
「ルイム・ザニカ・ザヴィリスブルク城ね。まあ…ながいわね確かに名前。ルイムでいいか」
最後はにこっと同意してうなずいてしまうカーニャ。
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