わたしのねがう形

Dizzy

文字の大きさ
59 / 161
わたしのつなぎたい手

【第52話:あたらしい町にて後編】

しおりを挟む
 一通りハンターオフィスの用事が終わり、ホテルに戻った3人。
久しぶりのお宿だと、奮発して結構な高級ホテルにいい部屋を取った。
「うん!かわいい!いいねいいね!」
とはアミュアの髪を編み、アップにまとめたユア。
きめ細やかな銀糸の三つ編みがくるくると纏められている。
今日の帰りに3人で服屋で物色した、カジュアルなワンピース姿だ。
アミュアはうすい水色のケープが下地の白を透かしてくる、ふんわりしたシルエットとともに可愛らしさを残す。
最近のアミュアは口を開かなければ、ちいさなレディで通るのだ。
アップにすると小顔が協調され、美人度アップだなとユアもうっとり。
ちょこちょこ気になるのかアミュアの髪を仕上げるのは、こちらも白系統の柔らかなシルエットのドレス。大きめの丸い襟に差し色のレモンイエローが映える。
そこに、奥の化粧台からでてくるカーニャ。
「うん、とても可愛いわアミュア。ユアもばっちりね」
 ひさしぶりのしっかり化粧をした、カーニャに二人は目を見張る。
カーニャは昔からのキャラ付けもあって、大人っぽい化粧をするので大体年齢より上に見える。
まとったドレスもカットが少し大人びた桜色のグラデーション、強調される胸元に真紅のつやめくストール。
二十歳前には見えない妖艶さがあふれる。
「カーニャってほんとに美人です」
ぽーっと言うアミュア。
ユアは見惚れて言葉も少ない。
「うん…」
何度か見ていたが、カーニャの正装はカジュアル寄りでも破壊力が高かった。
姿勢も美しい。
「な、なによ。そんなにじっと見ないでよ、恥ずかしくなるわ」
ぱちぱちと長いまつ毛が揺れ、ちょっとだけ頬を赤くする。
小さなピンクのハンドバックに隠れ、顔をそむけるカーニャであった。
ツンの力は見当たらず、デレだけがそこに残ったのだ。



「ね、ねえおかしくないあたし?なんだか落ちつかないよ」
とは店に入ってからうつむき加減のユア。
「ぜんぜん、とても美人になったわよ」
とはカーニャのにやにや顔。
 部屋でからかわれた仕返しにと、ユアにバッチリメイクを入れたカーニャは満足そう。
途中から当初の目的など忘れて、丁寧に仕上げた。
赤系のアイシャドーとオレンジの口紅がきらりとグロスを照り返す。
「じっとしていたらユアもまるで美人さんみたいです」
すんっとしたアミュアは褒めているのか、貶しているのか微妙であった。

 折角の大人びた姿も、楽しい食事にながされすっかり調子を戻す3人。
少しだけ賑やかすぎたが、後ろに控えたウェイターに注意されるほどではなかった。
そういったコントロールも淑女のたしなみ、と言わんばかりにカーニャが上手く抑えるのだ。

 静かな店内にしっとりとウッドベースとピアノの音がやさしく響く。
カチカチと銀のスプーンで、残っているデザートを丁寧に救い出そうとしているのはアミュア。
透明な肌に少し赤みが差し、ランプの暖かな灯とともに健やかさを助長する。
ちらっとアミュアを見ながらも、すっと綺麗に紅茶をたしなむカーニャ。
長年仕込まれた礼儀作法は、何気ない所作にも表れている。
ユアもちゃんとしようとすれば、それなりの動きなのだが、見る人が見ればわかるものだ。
外から見ると仲の良い姉妹に見え、微笑ましい空間をテーブル一つに描いていた。
 そうしてアミュアが目をこすりだし、二人を微笑ませてくれるまでゆっくりする。
楽しい食事とおしゃべりに久しぶりの文明を添え、贅沢に時間を使った3人であった。








「二人共おきてください、もうごはんのじかんです」
 広い日当たりのいい部屋に大きめの二つのベッド。
窓に近い方に寝巻に着替えたアミュアを寝かしつけて、どっちが仮設ベッドに寝るか談議でしばらく話していた二人は、そのまま同じベッドに寝てしまったのであった。
 朝を迎え二人の距離はさらに近づいたようだ。
その二人の足元に座り両手でそれぞれをゆするアミュア。
「ぅん…」
「む、うんぐ…」
なかなか起きない二人に、アミュアはベッドに上がり、膝で間に進み押し押しをパワーアップ。
「おなかがすいています!起きてくださいふたりとも!」
「なになになに!」
「ふみゃあ~!」
ぱっと起き上がり状況確認するカーニャと、頑張って寝続けようとするユア。
ユアは明らかに起きているのにがんばる。
それを見てプクっと頬を膨らませ、アミュアがダイブ。
ぴょーんどす、というくらい飛んでいた。
「ぐっはああ」
「おきましたか!ユア」
「あははっ」
カーニャも笑顔が零れて、今日も一日が始まったのだった。


 昨夜の展望ラウンジでバイキングモーニング。
大きな窓から朝の光を取り込むレストランはまったく別の店にも見えた。
プレート常の食器に上品によそってきたカーニャの向かいで、これでもかとよそってきたユアが座る。
アミュアもそれなりに大盛になったトレーをユアの隣に置く。
ちょいちょいとフォークを操るカーニャは、にこにこと眺めている。
「今日はお化粧ないから食べやすいでしょ?ユア」
とは綺麗にメイクしているカーニャ。
「本当だよ!なんだか昨日はお腹いっぱいになっちゃって食べれなかった」
もぐもぐの合間に答えるユア。
アミュアはマイペースにフォークを運ぶ、少しカーニャに似た動きだが、スピードがより速い。
「そういえば、昨日ウエイターさんから仕入れた情報あったわ」
口いっぱいにほおばり、うなずきで返す二人。
「なんでも最近共同墓地のほうで騒ぎがあったって」
がんばって咀嚼しながら考える二人に、カーニャがにこり。
「チェックアウトしたら行ってみない?ルイム城に行く前に」
食事の終わっていたカーニャは小さなカップでエスプレッソをたしなむのだった。
ユアのダイナミックな咀嚼と、飲み込む端からほうりこまれるアミュアの早業を見ながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

これでもう、『恥ずかしくない』だろう?

月白ヤトヒコ
恋愛
俺には、婚約者がいた。 俺の家は傍系ではあるが、王族の流れを汲むもの。相手は、現王室の決めた家の娘だそうだ。一人娘だというのに、俺の家に嫁入りするという。 婚約者は一人娘なのに後継に選ばれない不出来な娘なのだと解釈した。そして、そんな不出来な娘を俺の婚約者にした王室に腹が立った。 顔を見る度に、なぜこんな女が俺の婚約者なんだ……と思いつつ、一応婚約者なのだからとそれなりの対応をしてやっていた。 学園に入学して、俺はそこで彼女と出逢った。つい最近、貴族に引き取られたばかりの元平民の令嬢。 婚約者とは全然違う無邪気な笑顔。気安い態度、優しい言葉。そんな彼女に好意を抱いたのは、俺だけではなかったようで……今は友人だが、いずれ俺の側近になる予定の二人も彼女に好意を抱いているらしい。そして、婚約者の義弟も。 ある日、婚約者が彼女に絡んで来たので少し言い合いになった。 「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」 婚約者の義弟の言葉に同意した。 「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」 それが、こんなことになるとは思わなかったんだ。俺達が、周囲からどう思われていたか…… それを思い知らされたとき、絶望した。 【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】と、 【なにを言う。『恥ずかしい』のだろう?】の続編。元婚約者視点の話。 一応前の話を読んでなくても大丈夫……に、したつもりです。 設定はふわっと。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...