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わたしのつなぎたい手
【第53話:ここから先に進む】
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この町には郊外に大きめの墓地がある。
町の横にある高台に、ひっそりと置かれている墓標たちが集うゆるやかな斜面。
住宅街から少し離れたこんもりとした大きな丘。
坂の下に管理用の小屋がある。
そこに掃除や草木の手入れをする専任の墓守がいる。
この規模なら公営のサービスであろう。
水色の作業服に帽子の老人が掃き掃除をしていた。
「こんにちわ!」
元気にあいさつするのはユアだ。
すぐ後ろには何時もの装備でカーニャとアミュア。
カーニャも続けて挨拶し訊ねる。
「こんにちわ、少しお話しうかがえますか?」
元気なユアにびっくりした彼も、常識的なカーニャににこりと返した。
「かまわないよ、どうしたのかな?」
年齢なりの柔らかい笑顔に、3人が集まってくる。
「ちょっと町で聞いたんですが、先日なにかトラブルがあったとか?共同墓地だとか?」
すっと核心を聞きにいくカーニャ。
二人はおとなしく両脇の花と化している。
「あぁ…あれは確かにひどい話だったよ。」
老人は坂の上を指し続ける。
「この坂を越えたとこに無縁墓地があってね、縁者のいないものや、旅のものが弔われているんだが」
視線をもどしつづける。
「3日前に泥棒が入ったようでね、入口のカギが壊され中が荒らされておったのだよ」
一息に説明してくれた老人。
3人は顔を見合わせ思案顔。
また代表してカーニャが答える。
「詳しいお話しありがとうございます。私たちはハンターオフィスの者です」
いいながらAクラスのハンター証を見せるカーニャ
そもそもハンター証の証明書としての能力は高く、大抵の国で効力が認められる。
中でもAクラス以上となれば、ほぼ英雄あつかいである。
「こ、これはこれはAクラスのハンター様でしたか、失礼を」
帽子を取り頭を下げる老人。
「いえいえ、ご協力感謝いたしますわ。少し現場が見たいのですが、よろしいでしょうか?」
帽子をかぶりなおした老人が答える。
「少々お待ちを、鍵をとってまいりますね」
小屋に入る老人を見送り、すっと二人を振り向くカーニャ。
二人はおそろいのウィンクとグッドマークで答えた。
くすっと笑って小屋に向き直すカーニャ。
ふわりと結んでいないウエーブしたブロンドが舞った。
その日の午後、墓地も調べたうえ町を出発することとなった3人は、昨日入ってきた入口から来た道を戻る。
馬車はアミュアが運転している。
相変わらず水色フードだが、だいぶ暖かくなってきたので、手袋なしで手すりにつかまっている。
車内で年長組は打合せだ。
「共同墓地の中には何もなかったね」
ユアの疑問にカーニャが答える。
「何もないのは異常なのよ?墓地なんだから死体がなきゃいけないでしょ?」
このあたりの埋葬は基本的に土葬だ。
普通は棺桶にしまい埋めるのだが、無縁仏などはそのまま共同墓地の地下にしまわれる。
湿度の高い地下で自然に返すのだ。
そこが奥まで見たがすべて空になっていた。
管理の人の話では数十体は屍があったはずという。
ふと二人は顔を見合わす。
思い当たったのだ、先の村での襲撃を。
「これってまずいかもね?」
焦るユアにカーニャも静かに答えた。
「だいぶね…」
少し山に戻ってから街道をそれ、昔はそれなりに人通りがあったろう旧道に入った。
すこし手入れがされてないせいか、あちこちに枝が落ちていたり、地面にも浅い窪みがあったりして、少し馬車が揺れるようになった。
話しに聞いている忘れられた古城、ルイム城までは馬車なら2日とのこと。
地域特有のモンスターと何度か遭遇したが、いずれも影獣ではなかった。
あまり無理をせず、分かれ道からすぐの小川沿いの原っぱで野営となった。
日中にエンカウントしたウサギのモンスターから肉が出たので、今夜はシンプルに焼いて食べようとなった。
カーニャとアミュアが付近から食べられる野草やくだものを摘んできた。
近くに小川もあったので、色々便利に準備した。
今日は魔道コンロではなく「こっちのが風情が!」などと言うユアが主導でバーベキューだ。
いつの間にか近場の森からキノコも仕入れていた。
「こないだの経験があるから、なんか食料大事にしなきゃってなるよね!」
木の枝を器用に割って作った串で肉とキノコを刺し、焚火の上にだした五徳に乗せていく。
町で仕入れていた調味料からタレも作り、いつのまにかシンプルなスープまで作られている。
ユアの技量は凄まじく、どこにも大変さが見当たらない手際で出来上がっていく。
タレのついた串から食欲をそそる香ばしい煙がただよう。
「おいしそうです」
口の端から一筋よだれのたれるアミュアが、あわててずずっと吸い込んだ。
「もうちょっとだから待ってね、スープ出来上がってるから分けてくれる?アミュア」
じっと見せておくと可哀そうなので、仕事を割り振るユア。
「アミュアちゃんこっちに大きめのカップあるから使って」
馬車の近くに折り畳みのテーブルセットを出しているカーニャがアミュアを呼んだ。
「”食料大事に”は本当ね、わたしも見通しあまかったわこないだのは。今回は馬車に詰められるだけ仕入れてきたから平気だとは思うけど。」
大きなテーブルクロスを敷きながらつづけるカーニャ。
くんくんとカーニャも匂いに気付いた。
「それにしてもいい匂いね!ユアいいお嫁さんになるわきっと」
ちょっとびっくりしてユアが照れる。
「そ、そんなことない。まだまだ、おかあさんの手際には勝てないよ」
顔色を変えず母親の事が出てくるユアに、少し安心したような眼を向けるカーニャとアミュア。
こうして探索1日目は無事に終わったのだった。
町の横にある高台に、ひっそりと置かれている墓標たちが集うゆるやかな斜面。
住宅街から少し離れたこんもりとした大きな丘。
坂の下に管理用の小屋がある。
そこに掃除や草木の手入れをする専任の墓守がいる。
この規模なら公営のサービスであろう。
水色の作業服に帽子の老人が掃き掃除をしていた。
「こんにちわ!」
元気にあいさつするのはユアだ。
すぐ後ろには何時もの装備でカーニャとアミュア。
カーニャも続けて挨拶し訊ねる。
「こんにちわ、少しお話しうかがえますか?」
元気なユアにびっくりした彼も、常識的なカーニャににこりと返した。
「かまわないよ、どうしたのかな?」
年齢なりの柔らかい笑顔に、3人が集まってくる。
「ちょっと町で聞いたんですが、先日なにかトラブルがあったとか?共同墓地だとか?」
すっと核心を聞きにいくカーニャ。
二人はおとなしく両脇の花と化している。
「あぁ…あれは確かにひどい話だったよ。」
老人は坂の上を指し続ける。
「この坂を越えたとこに無縁墓地があってね、縁者のいないものや、旅のものが弔われているんだが」
視線をもどしつづける。
「3日前に泥棒が入ったようでね、入口のカギが壊され中が荒らされておったのだよ」
一息に説明してくれた老人。
3人は顔を見合わせ思案顔。
また代表してカーニャが答える。
「詳しいお話しありがとうございます。私たちはハンターオフィスの者です」
いいながらAクラスのハンター証を見せるカーニャ
そもそもハンター証の証明書としての能力は高く、大抵の国で効力が認められる。
中でもAクラス以上となれば、ほぼ英雄あつかいである。
「こ、これはこれはAクラスのハンター様でしたか、失礼を」
帽子を取り頭を下げる老人。
「いえいえ、ご協力感謝いたしますわ。少し現場が見たいのですが、よろしいでしょうか?」
帽子をかぶりなおした老人が答える。
「少々お待ちを、鍵をとってまいりますね」
小屋に入る老人を見送り、すっと二人を振り向くカーニャ。
二人はおそろいのウィンクとグッドマークで答えた。
くすっと笑って小屋に向き直すカーニャ。
ふわりと結んでいないウエーブしたブロンドが舞った。
その日の午後、墓地も調べたうえ町を出発することとなった3人は、昨日入ってきた入口から来た道を戻る。
馬車はアミュアが運転している。
相変わらず水色フードだが、だいぶ暖かくなってきたので、手袋なしで手すりにつかまっている。
車内で年長組は打合せだ。
「共同墓地の中には何もなかったね」
ユアの疑問にカーニャが答える。
「何もないのは異常なのよ?墓地なんだから死体がなきゃいけないでしょ?」
このあたりの埋葬は基本的に土葬だ。
普通は棺桶にしまい埋めるのだが、無縁仏などはそのまま共同墓地の地下にしまわれる。
湿度の高い地下で自然に返すのだ。
そこが奥まで見たがすべて空になっていた。
管理の人の話では数十体は屍があったはずという。
ふと二人は顔を見合わす。
思い当たったのだ、先の村での襲撃を。
「これってまずいかもね?」
焦るユアにカーニャも静かに答えた。
「だいぶね…」
少し山に戻ってから街道をそれ、昔はそれなりに人通りがあったろう旧道に入った。
すこし手入れがされてないせいか、あちこちに枝が落ちていたり、地面にも浅い窪みがあったりして、少し馬車が揺れるようになった。
話しに聞いている忘れられた古城、ルイム城までは馬車なら2日とのこと。
地域特有のモンスターと何度か遭遇したが、いずれも影獣ではなかった。
あまり無理をせず、分かれ道からすぐの小川沿いの原っぱで野営となった。
日中にエンカウントしたウサギのモンスターから肉が出たので、今夜はシンプルに焼いて食べようとなった。
カーニャとアミュアが付近から食べられる野草やくだものを摘んできた。
近くに小川もあったので、色々便利に準備した。
今日は魔道コンロではなく「こっちのが風情が!」などと言うユアが主導でバーベキューだ。
いつの間にか近場の森からキノコも仕入れていた。
「こないだの経験があるから、なんか食料大事にしなきゃってなるよね!」
木の枝を器用に割って作った串で肉とキノコを刺し、焚火の上にだした五徳に乗せていく。
町で仕入れていた調味料からタレも作り、いつのまにかシンプルなスープまで作られている。
ユアの技量は凄まじく、どこにも大変さが見当たらない手際で出来上がっていく。
タレのついた串から食欲をそそる香ばしい煙がただよう。
「おいしそうです」
口の端から一筋よだれのたれるアミュアが、あわててずずっと吸い込んだ。
「もうちょっとだから待ってね、スープ出来上がってるから分けてくれる?アミュア」
じっと見せておくと可哀そうなので、仕事を割り振るユア。
「アミュアちゃんこっちに大きめのカップあるから使って」
馬車の近くに折り畳みのテーブルセットを出しているカーニャがアミュアを呼んだ。
「”食料大事に”は本当ね、わたしも見通しあまかったわこないだのは。今回は馬車に詰められるだけ仕入れてきたから平気だとは思うけど。」
大きなテーブルクロスを敷きながらつづけるカーニャ。
くんくんとカーニャも匂いに気付いた。
「それにしてもいい匂いね!ユアいいお嫁さんになるわきっと」
ちょっとびっくりしてユアが照れる。
「そ、そんなことない。まだまだ、おかあさんの手際には勝てないよ」
顔色を変えず母親の事が出てくるユアに、少し安心したような眼を向けるカーニャとアミュア。
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