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わたしがわたしになるまで
【第4話:うしなう怖さ】
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広い平原のあちこちにこんもりとした森が点在している。
スリックデンから真っすぐにラウマの祠を目指していた。
アビスパンサーの夜霧がいれば、道は必要ないのだった。
「はやいやばいはやいー♪」
「はやすぎ、ユア少し、ゆっくり、にして」
夜霧の鞍はアイギスの好みなのか、とても固い革製だった。
ましてやいつもユアがアミュアを抱え乗っていた部分は、荷物置き用の平らな部分であった。
今はそこにアミュアが乗り、後ろからユアが手綱を握っている。
荷物はサイドバッグとユアの背中だ。
乗り心地改善のため、汽車の応用で毛布を折り敷いていた。
お陰で少しアミュアとユアのおしりにやさしい乗り心地となった。
鞍に座るユアは鐙もあるので若干いいのだが、アミュアの乗る荷物置きはかなり痛かった。
それでも夜霧が丁寧に走ってくれるので、けして馬より痛い訳ではないのだが。
以前と違いアミュアもとぎれとぎれ話せるようになったのが、改善を感じるユアであった。
泉の淵に夜霧が丸まっている。
泉で喉を潤し、アミュアに餌ももらって撫でられたので、ご機嫌である。
夜霧は義兄アイギスからユアが、使役の指輪ごと借りているテイムモンスターだ。
アビスパンサーという種類で、必要な時以外ユアの近くの影に潜んでいることも出来る。
ただし建物には入れないというテイム上の決まりがあるので、今はそこで待っているのだ。
祠に入ったユアがアミュアに言う。
「ねえどこら辺にあたしたちでてきたの?」
アミュアに視線を向けながらユアが続ける。
「気が付いたらアミュアに寝かされてたから、知らないんだよねあたし」
ラウマ像の前に立ち、じっと像を見ていたアミュアが答える。
「わたしもよくわからない、気づいたら足元にユアがいてここいらに立ってた」
アミュアが自分の足元を指さしながらユアを見た。
「そこから戻れるとかはないよね??」
「そういう気配はないです」
アミュアが軽く首を振った。
そうすると細い銀糸が左右に振れて、とても綺麗だなとユアは感心するのだった。
「やっぱり雪月山脈をまた越えるしかないか」
「竜のところで、お花あげたいです」
以前山越えしたときに、山頂で伝説の古竜シルヴァリアと出会い、その最後を看取ったのだった。
そのとき一度アミュアは献花していた。
アミュアはなぜか銀竜に亡き師匠をかさねて、哀惜を感じるのであった。
「そうだね」
短く答えるユアにとってもシルヴァリアは、会ったことのない亡き父との繋がりがある相手だった。
「やっぱりラウマ様は何も答えてくれないね?」
確認するようにアミュアに問うユア。
「うん、なんの気配もしないねここは」
すっと目を伏せるアミュアであった。
今のアミュアがラウマ様をどう思っているのか、ユアには判らないのであった。
その夜、雪月山脈が見えるあたりまで来たユア達は野営をしていた。
今日は大分長く走ったので疲れてしまったのか、ユアはすぐテントで寝ていた。
交代で夜番するので、夜半には起こさなければいけない。
アミュアは焚火の下火になった明かりを、じっと見つめていた。
一人になると最近とても多くの事を思い出すのだ。
かつて小さな体だった頃よりも、鮮明に色々と思い出せる。
(ししょう、わたし大きくなったんだよ)
日中にラウマ像の所で思い出してから、アミュアの心には喪失の痛みが残り続けていた。
ユアと変わらない年になったアミュアがそうして目を伏せると、その整った小顔と長いストレートの髪もあり、年齢以上に大人びて見えるのだった。
残酷だが寂しさは、少女を美しく大人にみせるのだ。
じっと炎を見るアミュアの胸には、そのときは泣けなかった悲しみが今もあるのだった。
銀竜シルヴァリアとの別れで一度、涙で流し終えた悲しみであった。
それはいまだ胸を締め付ける痛みを持ってそこにあるのだった。
(どうして?あの時はなけなかったのに)
アミュアの瞳の端には小さな雫が結ばれていた。
つっと流れ落ちるのに任せ、炎を見続けた。
(ふしぎだ、おおきくなってからの方がかんたんに涙がでる)
ちょっと自分の考えがおかしかったのか、ニコっと少し微笑みが浮かぶのであった。
ユアは戦士として育てられ、斥候としての技術も兄から引き継いでいた。
夜番なら時間がくれば目は覚めるのだ。
そっと気配をころして外に出ると、焚火の前でマントにくるまったアミュアが寝ていた。
そろそろ限界だろうなと、交代の時間よりも少し早く起きたユアであった。
大きくなってからのアミュアも、小さかった頃とあまり変わらずよく眠るのだった。
マントの上から持ってきた毛布をかぶせる。
まだ夏には遠く、夜は冷え込むのだ。
そっと抱き上げて横抱きにし座るユア。
両手の中に抱いていると、確かに重さが違うなと実感できる。
(前はこうしてすっぽり包めたのにな)
胡坐をかいた自分の足上に横抱きにしてアミュアを抱えていた。
やっぱり大きさ的に少し持て余してしまう。
ユアは静かに起こさないよう気を付けて、アミュアを抱きしめる。
心細いときはアミュアの暖かさが恋しいのだ。
ユアもまた沢山の喪失の先に立っていた。
母を友を失い、父は与えられもしなかった。
与えられていないはずの父から思いももらった。
すべて整理して心に収めているが、それは無くなったわけではない。
時にやんわりと心を締め付けるのだ。
そうしてユアとアミュアはお互いを癒し合い、ここまで来たのだった。
(おおきくなったアミュア)
ユアにとっては何ほどの重さではないが、確かな変化を両腕で受け止めていたのだった。
(ずっとそばにいてね)
それは願いであったか、祈りであったか。
ユアもまた、失うことを恐れる者となっていたのだった。
今夜は月がもう沈み、星だけが二人を包み込むように広がっているのだった。
スリックデンから真っすぐにラウマの祠を目指していた。
アビスパンサーの夜霧がいれば、道は必要ないのだった。
「はやいやばいはやいー♪」
「はやすぎ、ユア少し、ゆっくり、にして」
夜霧の鞍はアイギスの好みなのか、とても固い革製だった。
ましてやいつもユアがアミュアを抱え乗っていた部分は、荷物置き用の平らな部分であった。
今はそこにアミュアが乗り、後ろからユアが手綱を握っている。
荷物はサイドバッグとユアの背中だ。
乗り心地改善のため、汽車の応用で毛布を折り敷いていた。
お陰で少しアミュアとユアのおしりにやさしい乗り心地となった。
鞍に座るユアは鐙もあるので若干いいのだが、アミュアの乗る荷物置きはかなり痛かった。
それでも夜霧が丁寧に走ってくれるので、けして馬より痛い訳ではないのだが。
以前と違いアミュアもとぎれとぎれ話せるようになったのが、改善を感じるユアであった。
泉の淵に夜霧が丸まっている。
泉で喉を潤し、アミュアに餌ももらって撫でられたので、ご機嫌である。
夜霧は義兄アイギスからユアが、使役の指輪ごと借りているテイムモンスターだ。
アビスパンサーという種類で、必要な時以外ユアの近くの影に潜んでいることも出来る。
ただし建物には入れないというテイム上の決まりがあるので、今はそこで待っているのだ。
祠に入ったユアがアミュアに言う。
「ねえどこら辺にあたしたちでてきたの?」
アミュアに視線を向けながらユアが続ける。
「気が付いたらアミュアに寝かされてたから、知らないんだよねあたし」
ラウマ像の前に立ち、じっと像を見ていたアミュアが答える。
「わたしもよくわからない、気づいたら足元にユアがいてここいらに立ってた」
アミュアが自分の足元を指さしながらユアを見た。
「そこから戻れるとかはないよね??」
「そういう気配はないです」
アミュアが軽く首を振った。
そうすると細い銀糸が左右に振れて、とても綺麗だなとユアは感心するのだった。
「やっぱり雪月山脈をまた越えるしかないか」
「竜のところで、お花あげたいです」
以前山越えしたときに、山頂で伝説の古竜シルヴァリアと出会い、その最後を看取ったのだった。
そのとき一度アミュアは献花していた。
アミュアはなぜか銀竜に亡き師匠をかさねて、哀惜を感じるのであった。
「そうだね」
短く答えるユアにとってもシルヴァリアは、会ったことのない亡き父との繋がりがある相手だった。
「やっぱりラウマ様は何も答えてくれないね?」
確認するようにアミュアに問うユア。
「うん、なんの気配もしないねここは」
すっと目を伏せるアミュアであった。
今のアミュアがラウマ様をどう思っているのか、ユアには判らないのであった。
その夜、雪月山脈が見えるあたりまで来たユア達は野営をしていた。
今日は大分長く走ったので疲れてしまったのか、ユアはすぐテントで寝ていた。
交代で夜番するので、夜半には起こさなければいけない。
アミュアは焚火の下火になった明かりを、じっと見つめていた。
一人になると最近とても多くの事を思い出すのだ。
かつて小さな体だった頃よりも、鮮明に色々と思い出せる。
(ししょう、わたし大きくなったんだよ)
日中にラウマ像の所で思い出してから、アミュアの心には喪失の痛みが残り続けていた。
ユアと変わらない年になったアミュアがそうして目を伏せると、その整った小顔と長いストレートの髪もあり、年齢以上に大人びて見えるのだった。
残酷だが寂しさは、少女を美しく大人にみせるのだ。
じっと炎を見るアミュアの胸には、そのときは泣けなかった悲しみが今もあるのだった。
銀竜シルヴァリアとの別れで一度、涙で流し終えた悲しみであった。
それはいまだ胸を締め付ける痛みを持ってそこにあるのだった。
(どうして?あの時はなけなかったのに)
アミュアの瞳の端には小さな雫が結ばれていた。
つっと流れ落ちるのに任せ、炎を見続けた。
(ふしぎだ、おおきくなってからの方がかんたんに涙がでる)
ちょっと自分の考えがおかしかったのか、ニコっと少し微笑みが浮かぶのであった。
ユアは戦士として育てられ、斥候としての技術も兄から引き継いでいた。
夜番なら時間がくれば目は覚めるのだ。
そっと気配をころして外に出ると、焚火の前でマントにくるまったアミュアが寝ていた。
そろそろ限界だろうなと、交代の時間よりも少し早く起きたユアであった。
大きくなってからのアミュアも、小さかった頃とあまり変わらずよく眠るのだった。
マントの上から持ってきた毛布をかぶせる。
まだ夏には遠く、夜は冷え込むのだ。
そっと抱き上げて横抱きにし座るユア。
両手の中に抱いていると、確かに重さが違うなと実感できる。
(前はこうしてすっぽり包めたのにな)
胡坐をかいた自分の足上に横抱きにしてアミュアを抱えていた。
やっぱり大きさ的に少し持て余してしまう。
ユアは静かに起こさないよう気を付けて、アミュアを抱きしめる。
心細いときはアミュアの暖かさが恋しいのだ。
ユアもまた沢山の喪失の先に立っていた。
母を友を失い、父は与えられもしなかった。
与えられていないはずの父から思いももらった。
すべて整理して心に収めているが、それは無くなったわけではない。
時にやんわりと心を締め付けるのだ。
そうしてユアとアミュアはお互いを癒し合い、ここまで来たのだった。
(おおきくなったアミュア)
ユアにとっては何ほどの重さではないが、確かな変化を両腕で受け止めていたのだった。
(ずっとそばにいてね)
それは願いであったか、祈りであったか。
ユアもまた、失うことを恐れる者となっていたのだった。
今夜は月がもう沈み、星だけが二人を包み込むように広がっているのだった。
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