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わたしがわたしになるまで
【第13話:二人たびが二つ】
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街道を見下ろす丘の上を、黒い獣が走り抜ける。
ご機嫌の速歩で走るアビスパンサーの夜霧であった。
「ミーナ、風が強すぎたりはしませんか?」
今日の騎手はアミュアだ、腕の中の前座席にはミーナが乗っている。
「平気!すごいきもちいいわ!」
ここの所健康に過ごし、リハビリもおわったミーナはすっかり標準体重に戻していた。
肉付きもよくなり、ちょっとほっぺが丸く愛らしい。
アミュアはスリックデンまでの旅で大分騎乗スキルがレベルアップしていた。
今ではユアほどではないが、普通に夜霧を操れるまでになっている。
今日はミーナをいたわってゆっくり目に歩かせている。
丘の下には真っすぐで大きな街道。
レンガ敷きで赤茶けた色をもつ広い道が、見渡す限り続いている。
行く手には王都や、さらに行けば南の海の港までいたる大街道である。
大街道沿いはほとんどモンスターの襲撃はない。
定期的に騎士団やハンターが掃除しているのだ。
「ではすこし早くしてみますよ!」
かるく鐙をとんと夜霧にあてる。
すいっと速度があがり、吹き付ける風が倍になった。
「わーー!すごいはやいよ!」
ミーナはすっかり気取ったとこもひっこみ、子供らしい声をあげるのだった。
『見渡す限りの緑の原を、風のように走る』
それは療養中のミーナがこっそり書いた、やりたい事リストでも上位の願いが叶った瞬間でもあった。
街道の設備は優れており、レンガも定期的に維持されていた。
非常に走りやすく、馬車でもいい速度が出る。
この世界でもこれだけ主流の街道になると、交通量もそれなりにあり道は広く、上り下りが並行して走っている。
国内のルールだが左側を互いに走ることとなっている。
その街道を一台の白い自走馬車が走る。
ユア達が購入したものだ。
「ずいぶん奮発したんじゃないの?これ」
とは前方窓から顔を出しているカーニャ。
「ふふん、がんばったもんね!」
言われて嬉しそうなのはユア。
馬車の御者席のように前方に取り付いた運転席にいる。
カーニャの馬車より少し横幅があり、前にも二人乗れる仕様だ。
「しかもこの白い木材、魔道複合材ね。私の年収くらいしそう」
「そこまでじゃないよ?!きっと」
「まあ聞かないでおいてあげる!」
くすくすとなり進んでいくのだった。
スリックデンを出て3日が経っている。
最初の2日は雨で、昨日は土砂降りも時々あった。
雨の日は車内の前側の座席背もたれを外すと、前向きにも座れて操縦用のペダルも足元にあった。
車内から運転できる仕様だ。
ただし前の窓は強い雨の日に開けていると屋根が大きくないので、中まで吹き込んでしまう。
そうゆう日は一人が諦めて外に出たほうが安心だ。
一昨日と昨日はそうしてユア、アミュアが交代で運転してきたのだ。
今日は晴れたので、夜霧がかわいそうとユアが提案し、二人ずつの旅となった。
この先に大きな公営休憩所があるので、そこで合流予定なのである。
二人は今までの事、互いの近況などを雑談を交えてするので、会話が途切れることはほとんどなかった。
そうして二人旅が二つでお昼まで進むのだった。
お昼は4人で休憩所併設のレストランで食事を取り、今はオープンテラスで食後のお茶だ。
4人掛けのテーブルには二人だけ残りカーニャとユアが紅茶をたしなむ。
カランと涼やかな音でグラスをかき回すカーニャ。
透明な細いストローが回すのはアイスミルクティ、仄かな香りが広がる。
「この大街道だと休憩所や宿場が定期的にあるし、本当に旅が楽ね」
ちゅうっとストローを吸うのはユア。
最近のお気に入りであるフラワーアイスティである。
今日のお花は小ぶりの白と青が一輪ずつ。
「ほんとね、夜も休憩所だし。お風呂入るのはホテルや宿もあるもんね」
飲み終わると花の香りを楽しみながら答えたユア。
二人の向かい側には2つの空席。
さらに向こうの原っぱでシロツメクサを見つけ、アミュアがミーナの手を引き向かったのだ。
二人でスカートを広げ向かい合いコソコソと何かしている。
アミュアの花冠好きはカーニャも知るところ。
見ているとてててとミーナが駆けてくる。
大興奮である。
「みてみてねえさま!アミュアすごいのよ、いろんなの作ってもらった」
あたまから腕から首から、いたるところに花だらけになったミーナであった。
「いいわね、かわいいわよミーナ」
「うんうん、とても似合うよ!」
カーニャとユアに褒められちょっともじもじなミーナ。
さらに後ろから、かつて同じ格好になり頬を染めていたアミュアが戻る。
細い花冠が額にかかっている。
口をきかなければどこの女神様かという姿だ。
ミニスカスニーカーの女神である。
「アミュアもかわいいよ」
ユアに言われると後ろに手を組みふいっと横を向く、頬はやっぱり赤くなるのだった。
午後は交代して夜霧にユアが乗った。
今日のカーニャは武装しておらず、赤い長めのフレアスカート姿だ。
ユアの前に横すわりになり、乗っていた。
前座席(もと荷置き場)は数回の改善でかなり乗り心地よくなっている。
つかまるところが無い関係で、自然とユアの首に手を回すカーニャ。
「なんだかこうしてると騎士様に送られてる気分よ」
ちょっとだけ頬を染めるカーニャだった。
「ご安心を姫さま、騎士ユアがお供いたします」
と、ちょっと頑張って低音の決め声でユアが言うのだった。
「バカ‥」
自分で振っておいて恥ずかしさに堪え切れずユアの胸に顔を隠すカーニャ。
(無駄にいい声で言うのよねユア。いつもはかわいい声なのに)
そうして騎士ごっこしながら進むと、丘が切れて平地に向かい下る。
一気に広がる遠景には、キラキラと光る青い水面。
アウシェラ湖である。
国内最大の淡水湖であり、東西の山々が豊かな水量でささえ広々とそこにある。
くしくも午後の日差しは傾き、青空を映した湖面は神秘的な紫に見えるのであった。
この旅の第一目的地が見えたのだ。
それは暁の女神アウシュリネの眠る聖なるみずうみだ。
ご機嫌の速歩で走るアビスパンサーの夜霧であった。
「ミーナ、風が強すぎたりはしませんか?」
今日の騎手はアミュアだ、腕の中の前座席にはミーナが乗っている。
「平気!すごいきもちいいわ!」
ここの所健康に過ごし、リハビリもおわったミーナはすっかり標準体重に戻していた。
肉付きもよくなり、ちょっとほっぺが丸く愛らしい。
アミュアはスリックデンまでの旅で大分騎乗スキルがレベルアップしていた。
今ではユアほどではないが、普通に夜霧を操れるまでになっている。
今日はミーナをいたわってゆっくり目に歩かせている。
丘の下には真っすぐで大きな街道。
レンガ敷きで赤茶けた色をもつ広い道が、見渡す限り続いている。
行く手には王都や、さらに行けば南の海の港までいたる大街道である。
大街道沿いはほとんどモンスターの襲撃はない。
定期的に騎士団やハンターが掃除しているのだ。
「ではすこし早くしてみますよ!」
かるく鐙をとんと夜霧にあてる。
すいっと速度があがり、吹き付ける風が倍になった。
「わーー!すごいはやいよ!」
ミーナはすっかり気取ったとこもひっこみ、子供らしい声をあげるのだった。
『見渡す限りの緑の原を、風のように走る』
それは療養中のミーナがこっそり書いた、やりたい事リストでも上位の願いが叶った瞬間でもあった。
街道の設備は優れており、レンガも定期的に維持されていた。
非常に走りやすく、馬車でもいい速度が出る。
この世界でもこれだけ主流の街道になると、交通量もそれなりにあり道は広く、上り下りが並行して走っている。
国内のルールだが左側を互いに走ることとなっている。
その街道を一台の白い自走馬車が走る。
ユア達が購入したものだ。
「ずいぶん奮発したんじゃないの?これ」
とは前方窓から顔を出しているカーニャ。
「ふふん、がんばったもんね!」
言われて嬉しそうなのはユア。
馬車の御者席のように前方に取り付いた運転席にいる。
カーニャの馬車より少し横幅があり、前にも二人乗れる仕様だ。
「しかもこの白い木材、魔道複合材ね。私の年収くらいしそう」
「そこまでじゃないよ?!きっと」
「まあ聞かないでおいてあげる!」
くすくすとなり進んでいくのだった。
スリックデンを出て3日が経っている。
最初の2日は雨で、昨日は土砂降りも時々あった。
雨の日は車内の前側の座席背もたれを外すと、前向きにも座れて操縦用のペダルも足元にあった。
車内から運転できる仕様だ。
ただし前の窓は強い雨の日に開けていると屋根が大きくないので、中まで吹き込んでしまう。
そうゆう日は一人が諦めて外に出たほうが安心だ。
一昨日と昨日はそうしてユア、アミュアが交代で運転してきたのだ。
今日は晴れたので、夜霧がかわいそうとユアが提案し、二人ずつの旅となった。
この先に大きな公営休憩所があるので、そこで合流予定なのである。
二人は今までの事、互いの近況などを雑談を交えてするので、会話が途切れることはほとんどなかった。
そうして二人旅が二つでお昼まで進むのだった。
お昼は4人で休憩所併設のレストランで食事を取り、今はオープンテラスで食後のお茶だ。
4人掛けのテーブルには二人だけ残りカーニャとユアが紅茶をたしなむ。
カランと涼やかな音でグラスをかき回すカーニャ。
透明な細いストローが回すのはアイスミルクティ、仄かな香りが広がる。
「この大街道だと休憩所や宿場が定期的にあるし、本当に旅が楽ね」
ちゅうっとストローを吸うのはユア。
最近のお気に入りであるフラワーアイスティである。
今日のお花は小ぶりの白と青が一輪ずつ。
「ほんとね、夜も休憩所だし。お風呂入るのはホテルや宿もあるもんね」
飲み終わると花の香りを楽しみながら答えたユア。
二人の向かい側には2つの空席。
さらに向こうの原っぱでシロツメクサを見つけ、アミュアがミーナの手を引き向かったのだ。
二人でスカートを広げ向かい合いコソコソと何かしている。
アミュアの花冠好きはカーニャも知るところ。
見ているとてててとミーナが駆けてくる。
大興奮である。
「みてみてねえさま!アミュアすごいのよ、いろんなの作ってもらった」
あたまから腕から首から、いたるところに花だらけになったミーナであった。
「いいわね、かわいいわよミーナ」
「うんうん、とても似合うよ!」
カーニャとユアに褒められちょっともじもじなミーナ。
さらに後ろから、かつて同じ格好になり頬を染めていたアミュアが戻る。
細い花冠が額にかかっている。
口をきかなければどこの女神様かという姿だ。
ミニスカスニーカーの女神である。
「アミュアもかわいいよ」
ユアに言われると後ろに手を組みふいっと横を向く、頬はやっぱり赤くなるのだった。
午後は交代して夜霧にユアが乗った。
今日のカーニャは武装しておらず、赤い長めのフレアスカート姿だ。
ユアの前に横すわりになり、乗っていた。
前座席(もと荷置き場)は数回の改善でかなり乗り心地よくなっている。
つかまるところが無い関係で、自然とユアの首に手を回すカーニャ。
「なんだかこうしてると騎士様に送られてる気分よ」
ちょっとだけ頬を染めるカーニャだった。
「ご安心を姫さま、騎士ユアがお供いたします」
と、ちょっと頑張って低音の決め声でユアが言うのだった。
「バカ‥」
自分で振っておいて恥ずかしさに堪え切れずユアの胸に顔を隠すカーニャ。
(無駄にいい声で言うのよねユア。いつもはかわいい声なのに)
そうして騎士ごっこしながら進むと、丘が切れて平地に向かい下る。
一気に広がる遠景には、キラキラと光る青い水面。
アウシェラ湖である。
国内最大の淡水湖であり、東西の山々が豊かな水量でささえ広々とそこにある。
くしくも午後の日差しは傾き、青空を映した湖面は神秘的な紫に見えるのであった。
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それは暁の女神アウシュリネの眠る聖なるみずうみだ。
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