わたしのねがう形

Dizzy

文字の大きさ
96 / 161
わたしがわたしになるまで

【第14話:やさしさしあわせ】

しおりを挟む
 アミュアの操る馬車もまた、湖が見える丘の頂上まで街道を進んでいた。
頂上はビューポイントとして人気なのか、駐車スペースにはほどほど馬車が停まっていた。
ミーナもアミュアも土地勘がないので、看板だけで判断し寄ることとした。
「みて、ミーナ。見晴らしがいいんだって」
「ふむふむ、有名ですよねアウシェラ湖。綺麗らしいです」
二人は馬車から降り、小高い展望台がある丘に登りながら会話が続く。
「ミーナはアウシェラ湖の伝説しってますか?」
ちょっと得意気な顔には理由があり、前回の雪月山脈越えでカーニャの下調べ力に感心したアミュアは、今回の旅に当たり下調べをしっかりして来ていた。
「うんうんロマンチックだよね!アウシュリネ様の伝説。私も大好きだよ」
ガーンという背景を背負っているような顔でアミュアは、衝撃を受けた。
「ん?どうしたのアミュア?」
そうして理由不明の落ち込みを見せるアミュアの背中を押しながら、階段になった道を登るミーナ。
「あの一節。『届かない愛を見ては胸を痛め』ってのが素敵です!」
とアミュアが説明しようと頑張って覚えてきたことをペラペラ話すのだった。

「すごいです!絶景です!」
ふにゃふにゃのアミュアを上まで押してきたところ、湖が見えたとたんに駆けだすアミュア。
置いて行かれたミーナも慌てて追ったのだった。
端の手すりに乗り上げるいきおいのアミュアは背伸びして景色を眺めていた。
「ほんとだ!すごい!」
ミーナもついに隣まで追いつき、湖が見えた瞬間に感動で震え上がったのだった。
ユア達より少し遅かったので、今や湖の紫は輝くほどの発色で目を打つのだった。
右手の山に沈む夕日も映り込み、波はオレンジも交え複雑な色合いで迫った。
それ以上は言葉も無く見つめる二人はどちらともなく手をつなぎじっと凄絶なショーに魅入られるのだった。
おかげでミーナのやりいたいことリストは、いくつもここで叶えられたのだった。
一番下に小さくうすく書かれていた願いもまた。
『大好きな人と手をつないで夕日を見る』


 丘の展望台から次の宿場はすぐで、暗くなる前にたどり着くアミュア達。
待ち合わせの広場にはユアとカーニャがもう来ていた。
「お、きたきた。こっちだよー!」
元気に手を振るユアとお淑やかに待つカーニャが対照的である。
今日はユアも鎧が無いので、あちこち露出して涼しげである。
いつものブーツもやめて、ちょっとお姉さんなヒールのある革サンダルである。
白いホットパンツからは今日の快晴で健康的な小麦色になった足が、惜しげもなくさらされている。
(ユアって足長いな?半ズボンのせいでそう見えるのかな?)
なんだか思った以上にスタイルのいい相方にちょっと違和感なアミュアであった。
実際はハイヒールマジック+折り返しホットパンツのバフだった。
「お待たせしましたユアさん。姉さまもお待たせです」
礼儀のできたミーナはしっかり挨拶出来るのだった。
しかりと教育の差がでるのだった。
アミュアもユアも全く気にしないのだが。
 こうして合流した4人は、通りから少しだけ離れたレイクヴューのホテルに入っていった。
この宿場では3本の指に入る宿である。

 受付カウンターにはカーニャとユアで対応し、二人は荷物番である。
玄関ホールの広いスペースを見ながら、端に設置されたソファーに座っている。
二人の手には、お昼に作った花冠セットの指輪と木工の指輪がおそろいではまっているのだった。
ひざに乗せた手を見ながら、ニコニコがとまらないミーナとアミュア。
見た目は姉妹のようだが、中身は同い年ムーブなのだった。
「おまたせー」
二人で足をプラプラさせて待っていると、ユア達が戻ってきた。
「奮発したよ!最上階だよ!」
鼻息荒く言うユアにすぐさまアミュア。
「せつやくですよ、もっと安い所にしましょう」
そういうアミュアの肩に手を置きカーニャ。
「まぁまぁ、ここは私が出したから気にしないでゆっくりして、アミュアちゃん」
まんまるになった眼でカーニャを見上げるアミュア。
「ぶ、ぶるじょわじいです」
と、どこで覚えてきたのか驚きを表現したのだった。
実際はこのクラスのホテルなら、スイートでも常宿にできる収入があるのだカーニャには。
Aクラスハンターとはそれほどのモノであった。
「馬車で散財したろうし、誘ってくれたお礼よ」
そう言ってパチリとウインクするカーニャのお姉さんスキルに、くらくらのアミュアとユアであった。



「すごいね!湖の中に建ってるみたい!」
「うっすら紫色もすごいです」
 大きな出入り可能な窓をあけ、テラスにでたユアとアミュアである。
アウシェラ湖は時間と場所で様々な表情をみせる。
もう日は山の向こうに去ってしばらくたったが、まだ空は紫と青のグラデーションであった。
西側にはポツポツと星も見えてきている。
今日はまだ早いが、この時間にでる月はさらに風情があるとして絵はがきなどで見ることが出来る。
 手すりまで行って見ている二人をテラスのテーブルセットに座るカーニャとミーナが見ている。
「ミーナ、体調は大丈夫かしら?無理はしていないかしら?」
カーニャもミーナも姉妹の間の方が、丁寧な会話になる不思議な性質があった。
「はい、姉さま。とても調子いいですよ。なんだかお腹もすいてきました」
と返しにっこりはにかむミーナ。
ぽー、かわゆす。となり頬が赤いカーニャ。
カーニャはミーナが大好きなのだった。
テラスからはユアとアミュアのきゃっきゃという声が響き渡っていた。
宿から苦情が来そうであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

これでもう、『恥ずかしくない』だろう?

月白ヤトヒコ
恋愛
俺には、婚約者がいた。 俺の家は傍系ではあるが、王族の流れを汲むもの。相手は、現王室の決めた家の娘だそうだ。一人娘だというのに、俺の家に嫁入りするという。 婚約者は一人娘なのに後継に選ばれない不出来な娘なのだと解釈した。そして、そんな不出来な娘を俺の婚約者にした王室に腹が立った。 顔を見る度に、なぜこんな女が俺の婚約者なんだ……と思いつつ、一応婚約者なのだからとそれなりの対応をしてやっていた。 学園に入学して、俺はそこで彼女と出逢った。つい最近、貴族に引き取られたばかりの元平民の令嬢。 婚約者とは全然違う無邪気な笑顔。気安い態度、優しい言葉。そんな彼女に好意を抱いたのは、俺だけではなかったようで……今は友人だが、いずれ俺の側近になる予定の二人も彼女に好意を抱いているらしい。そして、婚約者の義弟も。 ある日、婚約者が彼女に絡んで来たので少し言い合いになった。 「こんな女が、義理とは言え姉だなんて僕は恥ずかしいですよっ! いい加減にしてくださいっ!!」 婚約者の義弟の言葉に同意した。 「全くだ。こんな女が婚約者だなんて、わたしも恥ずかしい。できるものなら、今すぐに婚約破棄してやりたい程に忌々しい」 それが、こんなことになるとは思わなかったんだ。俺達が、周囲からどう思われていたか…… それを思い知らされたとき、絶望した。 【だって、『恥ずかしい』のでしょう?】と、 【なにを言う。『恥ずかしい』のだろう?】の続編。元婚約者視点の話。 一応前の話を読んでなくても大丈夫……に、したつもりです。 設定はふわっと。

処理中です...