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わたしがわたしになるまで
【第19話:なにを祈ったか】
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アウシェラ湖畔で二泊を過ごし満喫した4人は、次の目的地に向かう。
同じ街道を南下し、次は王都を目指すのだ。
王都までは4日を予定しており、どこまでも広がる豊かな農地の間を進んでいくのだった。
王都を含むこの広大な平野は、国家を潤したうえで輸出され外貨の獲得にも貢献している。
この大陸でも有数の穀倉地帯である。
まさに文明の中心地であった。
今日もまた二手に分かれることとなった。
カーニャが夜霧にのり、ユアを乗せて先行していった。
今日も天気がよいので、アミュアとミーナは並んで馬車の運転席にいた。
王都へ向かう街道は、上下とも結構な人通りだ。
基本的に前の馬車に付いていく感じで進むのだった。
馬車の推進装置も、制御装置も非常に優れており、運転者の操作はペダル一つ。
進め、停まれだけである。
左右の車輪のトルク制御で曲がることが出来、運転者が手すりに付いているレバーでも向きを指定できるが、基本的には自動認識で道を選んで進む。
こういった先端技術はスリックデンの得意分野で、世界の先端を行っている。
なので基本的に道を進むには、操作はほとんどいらない。
ぶつかりそうになれば勝手に止まる装置までついているのだ。
「ねーねーそういえば、アミュアは何をお願いしたの?アウシュリネ様に」
ミーナはアミュアの顔を見上げて聞いた。
「ええと、たしか『みんなが笑っていますように』だったはずです」
自分の祈りなのに正確に思い出せないアミュアであった。
「ミーナは何をお願いしたのですか?」
アミュアもミーナを見ながら聞き返した。
「え!‥‥ないしょです」
アミュアはじっとミーナを見てから、視線を前に戻した。
「そうですか」
とそっけなく返すアミュア。
しばらく無言で進んでいると、ミーナが不安になって聞いてしまう。
「ごめんねアミュア怒った?」
意外なことを聞いたような顔で、ミーナを見るアミュア。
「いえ?なにも怒ることなどないですよ?」
このやり取りは、普通の人であれば嫌味や悪意と取れてしまうような話なのだが、ミーナはもちろんアミュアにそんな気持ちがない事を知っている。
本当に意外だったのだろう。
「ごめんね…ちょっと恥ずかしかったの」
耳とほほを少し赤くし消え入るように言うのだった。
「アミュアとずっと一緒にいたいなってお祈りしたの」
以前のアミュアならただ「そうですか」と先ほどの繰り返しを言うところだろう。
今のアミュアはすこしだけ違うのだ。
「そうですか、ありがとうです」
進化したのであった。
にっこり笑顔付きであった。
しかもミーナには覿面効いていたりして、さらに真っ赤になるのであった。
一方先行しているカーニャとユアは、途中で見つけた小川の横で休憩中である。
小さな橋が架かっており、そこに並んで座っていた。
夜霧は影に戻っていた。
だいぶ先行したろうから、ゆっくり休憩しようとなったのだ。
「ねえ、聞いてもいいかしら?ユア」
端の上に座り、サンダルの足をぷらぷらしているユアにカーニャが聞いた。
「うん?なにかな?」
「こないだの朝アウシュリネ様に、何を祈ったの?ユアは」
「うんと‥いっぱい祈ったよ!みんなが笑ってるといいな!って」
いつものにっこりになり続ける。
「アミュアが笑っていますように、ミーナが元気で笑えるようにって」
ちょっと視線を外してから。
「もちろんカーニャも笑っていたらいいなって祈ったよ」
それから下を向いてしまい、小さく付け加えた。
「友達だもん」
ユアの頬が少し赤くなり。
カーニャは顔中が真っ赤になるのだった。
しばらくそうして黙り込んでから、ふとユアが顔をあげて言った。
「カーニャはなんて祈ったの?」
火照ったほほを何とかしようと思ったのか、片手でぱたぱたしていたカーニャは、悪戯っぽく答える。
「ないしょよ!」
ぱちっと綺麗なウインク付きであった。
「えーずるいずるい!」
騒ぐユアを置いてぱっと立ち上がり、夜霧を指輪で呼び出したのだった。
離れていても同じことをする姉妹であった。
その日は街道沿いの休憩施設に泊まることとなった。
とはいえユアとアミュアは宿は取らず馬車で寝ることに。
「馬車泊も二人でしてみないと試運転にならないもんね」
ユアはそう言ってカーニャ達に宿へ泊るよう勧めた。
ミーナも心配だからとアミュアにも言われ、カーニャ姉妹は宿を取ったのだ。
通常の野営を模してみようとなって、コンロとかを動かしてみる二人。
わいわいとなんとか食事も片づけも終わり、今は食後のお茶を並んで飲んでいた。
焚火は禁止だったので(コンロはOKだった)運転席に座って星を見ていた。
駐車場に残る人は少なく、人気はなかった。
「そういってね、カーニャは教えてくれなかったんだよ。ひどいよね!」
「そうですか、ミーナも最初はないしょだって言いました」
くすくすっと二人で笑ってから黙り込む。
アミュアがお茶を飲んでいると、ユアが話し出す。
「こうして二人でいるの久しぶりだね」
にこっとして言う。
アミュアもにこっと返して。
「そうですね、ひさしぶりに甘えてもいいんですよ?」
「な…なん…だと?」
「あ、やっぱりだめです。また今度に」
「ひどい!もてあそんだのね!!」
「いえ、ただの心変わりです」
「よけいひどいわww」
そうして、いつまでも会話は途切れず、夜は更けていったのだった。
空が暗いので星が降るような夜であった。
同じ街道を南下し、次は王都を目指すのだ。
王都までは4日を予定しており、どこまでも広がる豊かな農地の間を進んでいくのだった。
王都を含むこの広大な平野は、国家を潤したうえで輸出され外貨の獲得にも貢献している。
この大陸でも有数の穀倉地帯である。
まさに文明の中心地であった。
今日もまた二手に分かれることとなった。
カーニャが夜霧にのり、ユアを乗せて先行していった。
今日も天気がよいので、アミュアとミーナは並んで馬車の運転席にいた。
王都へ向かう街道は、上下とも結構な人通りだ。
基本的に前の馬車に付いていく感じで進むのだった。
馬車の推進装置も、制御装置も非常に優れており、運転者の操作はペダル一つ。
進め、停まれだけである。
左右の車輪のトルク制御で曲がることが出来、運転者が手すりに付いているレバーでも向きを指定できるが、基本的には自動認識で道を選んで進む。
こういった先端技術はスリックデンの得意分野で、世界の先端を行っている。
なので基本的に道を進むには、操作はほとんどいらない。
ぶつかりそうになれば勝手に止まる装置までついているのだ。
「ねーねーそういえば、アミュアは何をお願いしたの?アウシュリネ様に」
ミーナはアミュアの顔を見上げて聞いた。
「ええと、たしか『みんなが笑っていますように』だったはずです」
自分の祈りなのに正確に思い出せないアミュアであった。
「ミーナは何をお願いしたのですか?」
アミュアもミーナを見ながら聞き返した。
「え!‥‥ないしょです」
アミュアはじっとミーナを見てから、視線を前に戻した。
「そうですか」
とそっけなく返すアミュア。
しばらく無言で進んでいると、ミーナが不安になって聞いてしまう。
「ごめんねアミュア怒った?」
意外なことを聞いたような顔で、ミーナを見るアミュア。
「いえ?なにも怒ることなどないですよ?」
このやり取りは、普通の人であれば嫌味や悪意と取れてしまうような話なのだが、ミーナはもちろんアミュアにそんな気持ちがない事を知っている。
本当に意外だったのだろう。
「ごめんね…ちょっと恥ずかしかったの」
耳とほほを少し赤くし消え入るように言うのだった。
「アミュアとずっと一緒にいたいなってお祈りしたの」
以前のアミュアならただ「そうですか」と先ほどの繰り返しを言うところだろう。
今のアミュアはすこしだけ違うのだ。
「そうですか、ありがとうです」
進化したのであった。
にっこり笑顔付きであった。
しかもミーナには覿面効いていたりして、さらに真っ赤になるのであった。
一方先行しているカーニャとユアは、途中で見つけた小川の横で休憩中である。
小さな橋が架かっており、そこに並んで座っていた。
夜霧は影に戻っていた。
だいぶ先行したろうから、ゆっくり休憩しようとなったのだ。
「ねえ、聞いてもいいかしら?ユア」
端の上に座り、サンダルの足をぷらぷらしているユアにカーニャが聞いた。
「うん?なにかな?」
「こないだの朝アウシュリネ様に、何を祈ったの?ユアは」
「うんと‥いっぱい祈ったよ!みんなが笑ってるといいな!って」
いつものにっこりになり続ける。
「アミュアが笑っていますように、ミーナが元気で笑えるようにって」
ちょっと視線を外してから。
「もちろんカーニャも笑っていたらいいなって祈ったよ」
それから下を向いてしまい、小さく付け加えた。
「友達だもん」
ユアの頬が少し赤くなり。
カーニャは顔中が真っ赤になるのだった。
しばらくそうして黙り込んでから、ふとユアが顔をあげて言った。
「カーニャはなんて祈ったの?」
火照ったほほを何とかしようと思ったのか、片手でぱたぱたしていたカーニャは、悪戯っぽく答える。
「ないしょよ!」
ぱちっと綺麗なウインク付きであった。
「えーずるいずるい!」
騒ぐユアを置いてぱっと立ち上がり、夜霧を指輪で呼び出したのだった。
離れていても同じことをする姉妹であった。
その日は街道沿いの休憩施設に泊まることとなった。
とはいえユアとアミュアは宿は取らず馬車で寝ることに。
「馬車泊も二人でしてみないと試運転にならないもんね」
ユアはそう言ってカーニャ達に宿へ泊るよう勧めた。
ミーナも心配だからとアミュアにも言われ、カーニャ姉妹は宿を取ったのだ。
通常の野営を模してみようとなって、コンロとかを動かしてみる二人。
わいわいとなんとか食事も片づけも終わり、今は食後のお茶を並んで飲んでいた。
焚火は禁止だったので(コンロはOKだった)運転席に座って星を見ていた。
駐車場に残る人は少なく、人気はなかった。
「そういってね、カーニャは教えてくれなかったんだよ。ひどいよね!」
「そうですか、ミーナも最初はないしょだって言いました」
くすくすっと二人で笑ってから黙り込む。
アミュアがお茶を飲んでいると、ユアが話し出す。
「こうして二人でいるの久しぶりだね」
にこっとして言う。
アミュアもにこっと返して。
「そうですね、ひさしぶりに甘えてもいいんですよ?」
「な…なん…だと?」
「あ、やっぱりだめです。また今度に」
「ひどい!もてあそんだのね!!」
「いえ、ただの心変わりです」
「よけいひどいわww」
そうして、いつまでも会話は途切れず、夜は更けていったのだった。
空が暗いので星が降るような夜であった。
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