わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【閑話:健やかなノアの日々】

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ノアは森の虫たちの王となっていた。
覇王である。
虫のキングである。
バランスブレイカーでもあった。

いつもの泉にノアが裸で寝ている。
水浴びしたので、乾かしているのだ。
そこに数匹のアリ型モンスターが、食料をはっぱのお皿にのせ運んでくる。
いつの間にか準備されていた捧げもの用岩には、他にもたくさんの果物や、小動物の死骸がささげられていた。
あちこちの群れにノアが喧嘩を売るので、少しあたまのいいモンスターのグループは早々にノアに従ったのだった。
アリたちが頭を下げさって行く。
ノアは気配で察していたが、見向きもしなかった。
この森には昆虫型のモンスターが多く、種類ごとのなわばり争いも盛んだった。
その仲裁ではなく、双方に喧嘩を売りコテンパンにして歩くので誰もノアに逆らわなくなったのだ。
逃げ出すと面白がって追いかけられ、弄ばれるので逆らわないのが正解となった。
ノアは気配に敏感なのだが、モンスターに関しては興味が無いようで気にしないようだ。

日光でかわいたのか、むくりとノアが起きる。
ごそごそ黒ローブを頭からかぶり、座りなおした。
ローブはノアが大きくなったので、あちこちぴっちりとなり手足も大分出てしまっていた。
生地も傷んできており、胸元などのあちらこちら破けている。
(今日はなにして遊ぼうかな?もう森の中はだいたいいったかな?)
砂場にあった蟻塚の女王も、河原を支配するトンボの王もたおした。
もりの奥深くに縄張りをもっていた蜂の女王など巣ごとけちらした。
そうしているうちにノアの戦闘スキルはどんどん進化していた。

そのとき森の奥からするりと影獣が現れる。
灰色と黒のしましまが鮮やかなトラ型影獣であった。
トラはノアのすわる岩のしたまでくるとお座りして待っていた。
気付いたノアはぴょんと嬉しそうに降りてきた。
影獣に触るのは3回目だが、とても気に入っていた。
目の前までくると、おすわりした頭がノアの顔と同じ高さにあった。
かなり大きいトラであった。
左手を伸ばし頭をなでる。
(オオカミともクマとも感触がちがうな。毛が短くてつやつやだ)
なでなでしていると頭を下げ目を細めるトラ。
ノアの左手は紫の光を帯び、それはユアやアミュアが使うラウマの力に似ている光だった。
ただし色が違う。
ノアの左手には濃い紫のひかりが宿っている。
少しづつトラの黒い炎が弱まり、その分ノアに力が移る。
むくむくと13才くらいの体躯だったノアが大人の体になる。
黒ローブはゆったりしたものだったのに、いまでははち切れそうな様子。
少しノアが動いたら実際あちこち破けた。
生地もいたんでいたのであろう。
結果、うまいこと必要なところを隠したノア大人バージョンが完成した。
トラはすっかり無くなってしまった。
ノアは少しだけちくりと寂しさを感じた。
(影獣は撫でるの気持ちいいけど、すぐに居なくなっちゃうな)
撫でられた影獣が少し嬉しそうにするので、なおさらノアは寂しさを感じるのだった。



夜に寝るときも、ノアは泉の岩の上にいる。
今日は体が大きくなったので、もぞもぞ寝返りをうつと落ちそうになり慌てて体に力を入れつかまった。
びりびりびり
あちこち弱っていたローブは、ついにばらばらになってしまい腕や腰にだけ布が残った。
ペタンと座ってこしこししていると、わずかな残りもちぎれてしまい、ついに裸になってしまった。
実はノアはこのローブが気に入っていたので、布をあつめて抱きしめて寝ることにした。
(明日からどうしよう。もうきるものがないや)
ノアには大人になった実感がなかった。
背が伸びたかな?程度の認識であった。
なにかに映して自分の姿を見ることもしないのだ。
そうして、夜はまだすこし寒いのでぼろぼろの布を抱いて寝たのだった。



翌日は曇りで、朝のうちかなり冷え込んだ。
ノアは寒くて目が覚めたのだが、エネルギーが充填されたばかりなので、風邪をひいたりはしなかった。
そして目をこすりながらむくりと起きると、足元にたたまれた新しいローブがあった。
色は黒で、しっかりした布地であった。
(あれれ?なんでここに服が?)
こてんこてんと首を動かして考えていたが、まあいいかとなった。
頭からローブをすっぽりかぶった。
それは体のあちこちのでっぱりにもちゃんと合い、きごこちが良かった。
(これはいいもの)
何故そこにあったかはもう忘れてしまい、元気に駆けだすノアであった。



すこし離れた木の影に一人の男がいる。
スヴァイレクであった。
セルミアの命令どおりに影獣を与えた所、想定より大きくなり服が破けてしまった。
この成長したノアはかなり健やかで、そのまま裸で連れて行くとセルミアになにか言われそうだと怖くなり、夜のうちにこっそり買ってきたローブを置いたのだった。
(大丈夫だとは思うが、なにか誤解があってもおかしくない年齢になってしまったからな)
(うん、これはしかたがないことだ。セルミアさまに報告するまでもあるまい)
(たいして高い買い物ではなかったし。セルミアさまには内緒にしておこう)
(そうこれは仕方がなかったのだ。セルミア様には言うまい)

なぜか心の中で多弁になるスヴァイレクであった。

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