わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第34話:たたかいの果てに】

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 眩しい金色に包まれた二人は、気が付くとまた空中で手をつなぎ浮いていた。
「あれ?ミーナは?」
「なんだろう?前の時もこうなったよね」
二人以外の存在しない黄金の空間。
大きな何かに繋がる感覚。
まるでラウマの異空間のネガ画像のように真逆の輝く空間。
『二人共良く聞いて下さい、あまり時間がありません』
「ラウマ様!」
「ラウマさま」
二人の頭に響き渡る声は、間違いようもない懐かしい響き。
女神ラウマのものだった。
「ラウマ様!よかった無事だったんですね!心配してました」
とはにっこりのユア。
姿は見えないがラウマも笑顔になったろう気配があった。
「ラウマさま、おねがいミーナをもう一度助けてください!」
いつになく切迫したアミュア。
『大丈夫ですアミュア。私の残った僅かな力でも、命をとどめることは出来ます』
少しだけあせりの滲むラウマの声。
『ごめんなさい時間がもうないのです。』
声の向きがアミュアに向くのが判った。
『アミュア、あのノアと言う娘に円環の力を使うのです』
すうっとラウマの声が遠のく。
『セルミアに気をつけて、どうか健やかに二人共‥‥』
光が弱まっていく。
こちらを見上げているカーニャが、ミーナを抱いているのが見えた。
結構な高さにいる二人。
自由落下よりは大分穏やかに落ちているが、それなりの速度だ。
ユアがアミュアを横抱きにして、着地に備えた。
「アミュア聞き取れた?最後の方よくわからなかったよあたし」
ユアの目をじっとみながらアミュアが答える。
「だいたい意味はわかりました。幽霊を探さねばなりません?」
アミュアは夢の中であったノアを思い出していた。
自分と双子の様な黒いノアを。



「良かった‥これなら命には危険はないね」
ミーナのお腹の傷を調べたユアが言う。
シルヴァ傭兵団仕込みの救急看護術で、ミーナのお腹に残った切り傷や内出血に薬を塗り包帯を巻いていく。
「ありがとうユア…また助けられちゃった私達」
きゅっとカーニャを抱いてユアがささやく。
「当たり前だよ、ミーナだって大切な友達だもの」
ミーナの顔に付いた汚れや血痕をふいてあげていたアミュアもいう。
「ミーナはたいせつです」
表情は硬いが、芯のある答えを嬉しく思うカーニャであった。
「本当にありがとう」
カーニャの体も麻痺が抜けて、しっかり立てるようになっていた。
また無差別になおしてしまったようだ。
「いろいろ話はあるけど、一旦王都にもどってミーナを医者に見てもらおうよ」
そう言ってユアは、ぼろぼろの馬車を調べに行くのだった。



ユア達のはるか上空。
空気も薄くなる高度に、暗い空を背景に人影が浮いている。
この高さからだと、この星の形までわずかに確認できる。
地平線が丸みをおびているのだ。
セルミアが宙に浮く台座に乗って浮いていた。
足元を支えるのは身長より小さい円形の平らな板だ。
素材はラウマ空間の地面と同じもののようだ。
「あれが‥報告にあった金の光」
肩に担いでいた長大な筒を地面に降ろすセルミア。
一本の長い太い筒にところどころ装置が付き、後部には緩やかにカーブする箱型が刺さっている。
そこに巨大な弾丸が収まっていたのだ。
超長距離狙撃用に遥か過去に作られた魔道ライフルだ。
装弾数は少ないが、この位置から魔法的に照準し弾丸となる矢は自己補正しつつ目標に至る。
その速度はこの高度からなら、音の10倍以上の速度になるであろう。
ユアからスヴァイレクを守り、馬車のミーナを狙ったものだ。
誰か大怪我くらいして、あの金色の力を使わせたっかったセルミアであった。
回りくどいが、可能であればカーニャかミーナのどちらかを攫いたかったのもあった。
残念ながらユアもアミュアも想定した戦力をはるかに上回る物であった。
1射目のユアに向けた弾はほぼ狙い通りに着弾した。
2射目に馬車を撃った時は照準に大分狂いがでて、今ではもう再調整なしには当たらない状態だ。
何分太古に作られたもので、予備の部品ももうない。
再使用時は射程が大分短くなると思われる。
「まあ、ノアはまだ手元にあるし。チャンスはまだある」
無表情にそれだけ言うと、すうっと丸い地面ごと地上へと戻っていくセルミアであった。



衣服まですたぼろになり城壁の下に転がったレヴァントゥスの元に、すっと建物の影からスヴァイレクが現れる。
「驚いたな、お前をそこまで追い詰める者がいるのか?」
いてて、と身を起こしたレヴァントゥスが答える。
吹き飛んだ左足は新しく生えていた。
「アミュアちゃんだよ。あれも異常だね、この世の者とは思えなかったよ。ん?」
頭を振って上体を起こしたレヴァントゥスが驚く。
「‥‥あんたをそこまでボロボロに出来るやつがいる事こそ驚愕だよ。いくら闇魔法を禁じられてたとしても」
そばに立つスヴァイレクの衣服はボロボロで、体中から血が流れ落ちていた。
「なにしろペルクールの使徒だからな。かの魔王様すら滅ぼした者の娘だぞ」
スヴァイレクが片手を差し出す。
「あのダウスレム卿を滅ぼした娘達だしね」
捕まり起こされたレヴァントゥスが、皮肉に言った。
「何にせよお互い、生き延びれてよかったよ」
セルミアから回避に闇魔法を使うことは禁じられていた。
その憂さを晴らすように紫の光を滲ませ、闇に消えて行く2人。
後には砂塵だけが風に吹き流されていったのだった。
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