わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第48話:アミュアのきせき】

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うつむくラウマを見つめるアミュア。
(こんどはわたしが決めてみせないと。あの時ユアは決めてくれた)
もう一度今度は振り向いてもらえるように強く言葉を発する。
「ラウマさま、わたしもユアといつまでも一緒にいたいです」
はっとラウマが振り向く。
本来は振り向く必要などないのだ。
この空間全てがラウマなのだから。
入るのも。
出ていくのも。
声を出すのでさえ、ラウマが行っている。
この場所に入った瞬間から、既にラウマの言う帰還は済んでいるのだ。
ノアもアミュアもそれは気付かない。
ただ選んだ結果通りにラウマがしてくれているのだとは。
「ラウマさまがノアを作ったように、もう一人のわたしになることは出来ないのですか?」
『!!』
逆転の発想。
想定外の答えは、ラウマの中で起こるはずのない奇跡。
今自分が奇跡を起こしたのだとアミュアは知らない。
ノアの拒絶も、アミュアの否定も。
全てラウマの中で結果として収束し終わっている答えだった。
ただそこにラウマの驚きや、寂しさが添えられたに過ぎなかった。
アミュアの提案は違った。
純粋にアミュアの中で作られた答え。
ラウマはその奇跡に、ラウマ自身さえ気づいていない願望に震えるのだった。
『可能です。アミュアの中であれば』
分体の中に分体を作る。
その発想すらなかった答えにラウマは深い感動と感謝が沸き起こるのであった。
「???」
自分の答えすら展開し理解できないアミュア。
真実直感が言わせた、感情が言わせた答えだったのだ。
『アミュア、こちらに来て手をつないでください』
うなづき躊躇いなく手を取るアミュア。
鏡合わせのように同じ顔、同じ瞳が向かい合う。
ラウマのスッキリとした笑顔に、アミュアも笑顔になる。
じっと見つめ合った瞬間、鏡が割れるように空間そのものが崩壊する。
凄まじい世界の崩壊。
しかし一切の音を感じさせない静かな崩壊だった。



金色の光を見上げるユア。
まんまるの目に金色の光が映る。
「ふあ、こうゆうに見えてたんだ。外から見たの初めてだ」
光が満ちた直後、ユアは地上から光を見上げている自分に気付いた。
左右の手にアミュアもノアも居ない。
「え?!ほんとに居ない?」
ぱっと上をまた見る。
光は収まっていき、パッと消えた。
「あれ?あれれ?アミュア?!ノア!?」
しばらくは見上げたりキョロキョロしたりしていたが。
キリッとユアの顔が変わる。
戦闘モードだ。
身体強化をまとい、一瞬で城壁の上まで出た。
全周を8分割する索敵は傭兵流、素早く確認しうなだれる。
きりっとした顔はしゅんと崩れた。
「そんな‥‥アミュア何処に行っちゃったの?」
急に元気がなくなるユアだった。



城内の地下で石組みの輪がある。
かつてカルヴィリスに放り込まれ、ユアとアミュアが二人で戦った場所だ。
そこに立つアミュアは自分がもう手をつないでいないことに気付き、手をおろした。
はっとアミュアは目をみはる。
降ろしたのにそこにまだ手があった。
姿勢のちがう姿のアミュアとラウマが重なって存在していた。
「ラウマさま?」
「ありがとうアミュア、わたしは初めてこの世界に自分で降り立ちました」
説明の意味が解らず、ただ立ち尽くすアミュアであった。

「つまり‥‥ラウマさまはアミュアから離れられない身体になったと?」
声以外は消費が激しいとの事で、アミュアの頭の中にだけ声を伝えることとしたラウマ。
(え‥えぇ。なんか誤解を受けそうな表現ですが、そう言う事です。自主的移動はしばらく出来そうにありません)
「了解しました。そしてなぜこんな所に来てしまったのでしょう?どうやって帰ったらいいのでしょう?」
(あ‥‥)
「え?」
沈黙の重さをラウマは初めて感じるのであった。
(もしやユアの所まで遠いのでしょうか?)
「わたしはここがどこなのかたぶん知らないのです」
(どうしましょう?)
「とりあえず外に出ましょう。上に向かえばいい気がします」
もうラウマさまは当てにならないと思ったか、アミュアは質問をやめて歩き始めた。
「前に来た時は、ルメリアの近くの祠に帰ったのですが。今回はそれはできないのでしょうか?」
(あの移動は本体の力ですので‥‥今のわたくしはアミュアの中に作られたわたくしなので強い力はありません)
アミュアは重いドアの隙間を抜けて、部屋から出た。
(あ!光の円環も使えないので、気を付けて下さい)
「あの力はやはりラウマさまのお力でしたか」
(わたくしの力だけではありませんが、半分はそうです。なので今は奇跡のような回復は出来ません)
階段を上りながらアミュアは考えるのであった。
ここはおそらく雪月山脈を越えた先にあった、カーニャの馬車を回収した城だと。
「ラウマさまだいたいここがどこか分かりました」
(おぉ、見事ですアミュア)
階段を上り終わると、そこは地下牢であった。
薄暗い部屋に見向きもせず、上を目指すアミュア。
ただ、夜霧で4日くらい走った記憶がある。
それは馬車で12日。
徒歩なら1月かかるであろう距離だ。
「歩いて帰るのは難しいようです」
(‥‥そうですか。ノアはどこに行ったのでしょう?)
「それこそ分かりません」
そうして遂に一階のホールまで来たアミュア。
外からは日の光が差し込んで、キラキラとホコリが幾筋も描かれていた。
そのまま外に出たアミュアは太陽の位置と高さから、現在地が思った通りの場所だと確認した。
(なんて美しい‥‥)
ラウマは日光に照らされる城下や森の木々に感動しているようで、その嬉しい気持ちがアミュアに流れ込んでくる。
そのラウマの気持ちはアミュアの力となるのだった。
「なんだか力がわいてきます!」
アミュアは鼻息荒く告げると、ロッドを抜き詠唱を始める。
飛行魔法、それも3重詠唱だ。
アミュアの身体を白い魔力が包み込み浮き上がる。
丁寧に詠唱し発動した。
ドンッ!!
アミュアの初速は音を超える速さだった。
ショックコーンを置き去りに雪月山脈の上を越えた。
(すごいですアミュア!夕日が下に見えます!)
きっとラウマのほほは真っ赤になり、興奮しているだろう声がアミュアの頭に響いた。
キーーーン
と、相当の速度で飛翔しているアミュア。
一向に魔力が枯渇する気配がない。
無限に補給を受けているような感覚。
(アミュアみてください!あちらの山々がオレンジに輝いています!)
そうして日が沈む前にラウマの祠が見えてきた。
「ラウマさま泉の祠が見えました」
(おぉ、これほど沢山の景色は初めてでした。ありがとうアミュア)
トンッと降り立つアミュア。
「不思議です、全く魔力が減りません。ラウマさまが何かしてくれたのですか?」
(??いいえ。何もしておりませんが。とても楽しかったので、また連れて行って欲しいです!)
一旦祠に入り夜を明かそうとアミュアは進んだのだった。
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