わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第60話:切り札と切り札】

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「そうかぁラウマさま、また消えちゃったのかと思ってたよ」
ほっとしたような顔でユアが言う。
「もともとわたしの中にラウマさまが移動して来ていたのです。それをあのいずみの像から力を取り出したといってました。だから体を作れたとも」
思案顔のアミュアはさらに言う。
「セルミアが誘ってきたのは、何か罠を準備しているのでしょう。ラウマさまは答えませんがこのままではまずいのかも知れません」
はて?となるユアにさらに説明。
「このままでいいならセルミアの罠が意味を持ちません。ラウマさまが危ないからこそ意味を持つ誘いでした」
ユアはじいっと考える。
「わかったかも?」
あ、解ってないなと思いさらに説明。
「ラウマさまは多分大きな魔力のような力なのだと思う。それが今わたしの中にいてすごく弱くなっています」
ユアの目をみて真剣に続ける。
「おそらくずっと前にわたしがラウマさまになってしまいそうになった、あれと一緒です。ダウスレムと戦った時の。このままではラウマさまはわたしが吸収してしまいます」
最後の言葉とアミュアの悲しそうな顔で、やっとユアも自体の重さを理解した。
「なら考えるまでもない。すぐ行こう、場所はたぶんあたしが知っている」
すっと馬車の横の影をみて呼ぶユア。
「夜霧!たすけて!」
ひゅるんと夜霧が影から出てくる。
ユアのそばまで来て体を擦り付けた。
「行こう、アミュア。急いだほうがいい気がしてきた」
「そうです、急ぎましょう」
意見が一致し、夜霧で駆け出す。
ここから古城までは夜霧ならすぐの距離だった。



 移動しながらアミュアは考え続けていた。
セルミアの罠を。
たぶんわざと見せられた魔法の気配。
(あれは相当あぶないものだった)
誘いだろうとはわかるが、あのセルミアの流してよこした魔法の気配はソリス師匠に教わった類の高等魔術だ。
(おそらく三種複合魔法だった。ししょうは使っていたけど、この世界では見たことがない)
アミュアは腰に釣った銀ロッドに手を触れる。
(ししょうおねがい、力をかして)
ユアの腕に包まれながら、夜霧で移動するアミュアは密かに決意をみなぎらせるのだった。



 城についた夜霧はごめんねといった雰囲気で鼻を擦り付け影に消えた。
夜霧はテイムのルールで城に入れないのだった。
「ユア大事な確認があります」
「なあに?」
真剣なアミュアの顔にユアも真面目に答えた。
「前にはなしていたラウマさまからもらった力。どれくらい残っていますか?」
左手を持ち上げ手のひらを見るユア。
そこに書いてある訳では無いが、感じ取れる力のプールがあった。
「まだ半分も使っていないと思う」
ぱあっとアミュアの顔が笑顔になる。
希望を見つけたのだ。
「よかった、それをわたしに分けてください。今の半分でいいです」
「えええ!!?」
アミュアの笑顔にユアは戸惑う。
「すごい痛いんだよ?わけるとき」
「知っています。もともとはわたしの中にあった痛みでしょうから」
急にしっかりした感じになるアミュア。
「はんぶんこの奇跡をもういちどするのです」
アミュアが知らないはずの知識だ。
「からだが大きくなったときに、いろいろな記憶がわたしにも引き継がれたのです」
ユアの目に理解の光。
すっと左手を差し出してくるアミュア。
ユアも並んで右手を差し出す。
手をつなぎ目を閉じ意識を向けると、ユアの右手から何かがアミュアに吸い上げられる。
ユアに痛みはなかった。
「くぅぅあああ!!」
アミュアが悲鳴を上げ、ユアはあわてて手を離そうとするのだが、アミュアは離さない。
思いがけない力でユアの手を握りしめて痛みに震えている。
顔をしかめ口が開くがもうアミュアは声も出せない。
ガクガクと痙攣するアミュアを残った手で支えるユア。
「アミュアもうやめて!これ以上むりだよ!」
手を離そうと力を入れるが、アミュアのものとは思えないほど強く手を握られていた。
がくっと力が抜けてアミュアが倒れそうになる。
抱きとめた腕の中でアミュアが目を開け話す。
「‥やり‥ました。これではんぶんこですね」
まだ痛みがあるのか震えながらアミュアはそう答えるのであった。

 ユアが自分の左手を確認すると、確かにラウマから引き継いだ力が減っていた。
「この力はわたしが魔力として使うことができます。わたしのなかのラウマさまも使えると思うので、しばらく時間が稼げたはず」
にこっと笑うアミュアはまだ無理をしているように見えた。
「じゃあ少しだけ、アミュアが楽になるまで待ってから行こう?」
にっこりとアミュアは笑む。
自分を心配してくれるユアが嬉しいのだった。
「大丈夫、これは切り札になる。セルミアはていねいに罠をはりました。わたし達のしょうもうも計算されています」
ユアの目にも光が戻る。
「ラウマ様を救えるチャンスってこと?」
「そうですちゃんすです」
すっくと立ち上がるアミュア。
ユアも手を離しアミュアを見つめる。
「行こう」
 静かなユアの宣言で城内にすすむ二人であった。
前にスケルトンと死闘を演じた広間にでたユアがピタと止まる。
アミュアも気配で察していた。
スヴァイレクの気配だ。
先程よりもさらに狂度をました殺気が吹き付けてくる。
広間奥のきざはしを挟んだ壇上。
王座と思われる椅子にかけるスヴァイレク。
心持ち小さくなっている気がするが、王座が大きいだけかも知れない。
十分に警戒したユアはクレイモアを背から抜き終わっている。
アミュアもロッドを持ち右回りで射線を確保した。
すっと立ち上がったスヴァイレクは隻眼。
アミュアにえぐられた右目は再生していなかった。
「知っているだろうが、この階下にはラウマの深淵が隠されている」
両腕を広げ芝居がかったしぐさで続ける。
「そこには端末とは比べられないほどの力が残っている。ラウマを活かすには十分であろう」
饒舌はここで殺すとの裏返し。
「禁じられていた我が魔力、存分に拝むがよい」
 スヴァイレクの気配が膨れ上がる。
いや、その姿も膨れ上がる影に覆われ、人形を失っていった。
ばさっと両側に広がる翼はコウモリのような被膜をもって黒黒と艶を持っている。
長く伸びた首は天井近くにあり無数のトゲと4本の長大な角に覆われた。
両足も太くなりその後ろには長大なヘビのような尾が流れる。
口が避けて肉食獣の牙が並んだ口腔が現れ、その奥に真紅の炎が生まれる。
そこには漆黒の竜がアギトを広げていたのだった。




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