わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第59話:ラウマの力のひみつ】

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「起きて!起きるのです!アミュア」
パシパシと頬を叩かれ、アミュアは覚醒する。
不思議と魔力切れの症状は収まっていた。
「ユアが損なわれてしまいます!早く!アミュア」
驚いたことにラウマは泣いていた。
女神様も泣くことがあるんですね、とぼんやりしたアミュアは考えていた。
 待ちきれなかったのか、アミュアの両手をラウマがそれぞれの手で引く。
シュバッっと音がするほどの勢いで黄金の光が溢れた。
光はアミュアの両手とラウマの両手を巡り、円となり輝く。
ユアも含めた大きな黄金の輪も輝いていた。
円環の奇跡だ。
ほんの数瞬だけ発動した光は、同じ速度で立ち消えた。
覚醒したアミュアが辺りを見回すが、ラウマがいない。
(よかった、間に合いました)
よわよわしい声が頭に響き、それきりラウマの気配は消えてしまった。
声はしないが自分の中にラウマがいることが解り、礼をのべるアミュア。
「ありがとうラウマさま」
はっと思い出してユアを調べるアミュア。
動かしてもそれ以上血が流れてくることはなかった。
奇跡はなされたのだった。



 どうやらラウマ様に触ると魔力が回復しているぞ、とアミュアは気付いた。
このまま戦闘が出来るほどではないが、倒れることがないくらいには魔力が残っていた。
先ほど奇跡をなす前は、もっと沢山あると感じたので、あの奇跡は魔力を使うのだなともアミュアは考察することができた。
ユアをおぶって馬車の中に寝かせたアミュアは、戻ってユアのクレイモアを回収していた。
流石に重くて持ち上がらないので、ずるずる引きずって馬車に戻った。
剣の側にはゾッとするほど大きな血溜まりが残り、危うかったことを改めて感じた。
あの音はかつての城塞都市でも聞いた音だ。
(ミーナを撃ったあの音だ)
きゅっとアミュアの眉があがる。
めずらしく本気の怒りが湧いているのだった。
アミュアは怒ったように見せることがあっても、めったに本当には怒らないのだ。
なんとか馬車のラッチにクレイモアを引っ掛けて固定した。
やり方はユアがするのを何度か見たので理解していた。
ただ剣が重すぎて、最終的にラウマの強化を一瞬使い引っ掛けた。
(この強化の力も魔法と違うけど魔力を使っている)
残り魔力が少ないので、ちょっとの変化が分かりやすく、今まで考えてこなかった色々に説明がついた。
疲れ果てたアミュアは馬車の後ろ側でペタリと座ってしまう。
思考はそのまま続けていた。
(前にユアがラウマさまから貰ったといった力。だんだん減ると言っていたのはこれだきっと)
両手を眼の前に持ち上げて見るアミュア。
(わたしは魔法としても使うから、魔力と区別が付かなかったけど)
ぽとりと手も落ちる。
持ち上げているのも辛いくらい消耗しているのだ。
(だんだん解ってきた。これは左手で吸収した影獣の力だ)
自分の中にも魔力と別の何かが総量として蓄えてあったのに気づいたのだ。
今になりそれが空になることで気づいたのだった。

 アミュアもくたくただったので、すやすや眠るユアの横に寝転がり少し休むこととした。
ユアの胸に耳をあててみて鼓動を確認していたら、安心したからか眠くなってしまった。
(いけないねちゃいそうです)
そう考えたのに次の瞬間にはすうすうとユアの上で寝てしまったのだった。
ユアの右手を両手で包み込みながら。



 アミュアが気がついたときには夜が明けていた。
普通に一晩寝てしまったようだ。
なんだかいい匂いのする柔らかいものの上で目覚めた。
パチっと目を開けると横から覗き込んだユアと目があった。
「おはようアミュア。痛いところないかな?怪我は無いようだったけど」
そういって髪を撫でるユアはアミュアを膝枕しているのだった。
そうして撫でられるのがとても気持ちよかったので、もう一度寝たいなとアミュアは思ったのだったが、ちょっと心配なことも思い出して、名残惜しく起き上がるのだった。
これくらいはいいかなと、きゅっとユアに抱きつく。
じんわり温かい熱が伝わる。
ぽんぽんと背中を叩くユアの手が頼もしい。
思ったよりも長く抱きついてしまい、ちょっと赤くなったアミュアが離れる。
「しんぱいしたよ。ユアこそ大丈夫?痛いところない?」
「うん、ちょっと力が入らないけど、痛くはないよ」
お腹を撫でながら答えるユア。
ニコっと笑い合い、一度外に出て食事にしようとなった。
ドアを開けて外に出たユアが突然止まる。
想定できなかったアミュアが背中に鼻をぶつけてしまった。
「やっとお目覚めね」
 ドクンとアミュアの鼓動が跳ね上がる。
同時におぞましい魔法の気配がする。
ユアは睨みつけているが、見覚えのない真っ黒な女性が少しだけ離れて立っていた。
その胸元に途轍もない密度の魔力がある。
「いちおう初めまして、と言っておきますね。私はセルミア。ダウスレムと同格の影獣よ」
その宣言にショックを受けるアミュア。
(無理だ、今ダウスレム級の相手に勝てるリソースがない)
アミュアは絶望とともにそう自己評価した。
「名前をしっているよセルミア。ノアからも聞いた」
え?そうだっけ?となるアミュアは実は聞いていない。
「カーニャに変なの入れたのもあんたね!」
ユアの声に怒りが滲む。
ああ思い出したアイギスさんに聞いた、とアミュアも臨戦するが魔力があまり残っていない。
ユアの肩越しにみるセルミアはにやにやと笑っている。
「一緒にいた女の子はどうしたのかしら?あの光をだして消えてしまったように見えたけど?」
キッとアミュアもセルミアを睨みつける。
(全部見ていて、今まで襲わなかった。何か別の目的があるの?)
「お前には関係ない」
そう言って短剣を引き抜くユアから黄金の波動がみなぎってくる。
短剣は金色に輝いた。
「あらあら、こわいわね。退散するけど。ラウマを救いたければ深淵の入口に来なさい」
すっとそれだけ告げると足元の影に溶けて消えるセルミア。
後には臨戦態勢の二人だけが残ったのだった。
朝もまだ早いのに夏の虫は耳鳴りがするほど元気に声を上げていた。

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