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本編
姫様待遇とか聞いてません!
しおりを挟むうわぁ……、最悪。
土曜日、朝食を食べていた時に下腹部に疼痛を感じてトイレに駆け込んでみれば予想通り、生理が始まっていた。
季衣の一日目はいつも、血の量は多くないものの痛みは一番酷い。
ぐぅぅっと痛くなって、波がある感じ。
幸いにも季衣は薬が効く体質なので、飲み忘れさえしなければどうにかなる。
ただ副作用が出やすいために眠くなりやすいのが難点だった。
「薬飲むかぁ……。」
朝食を食べた後痛み止めを飲んで、昼食後用の二錠を財布に入れた。
コンコンコン。
左のドア窓から音がして、見てみれば季衣が顔を覗かせていた。
「おはよう、きぃちゃん。
乗って乗って。」
すぐに窓を開けて声をかける。
「お願いしまーす。
迎えに来てくれて、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
季衣が助手席に座ってシートベルトをするのを眺めていたのだが。
今日のきぃちゃん可愛すぎないか?
季衣は今日、紺を基調としたチェックのシャツワンピースを身につけており、その上に白いカーディガンを羽織っている。
てかそれ俺のじゃん。
「今日ワンピースなんだね。なんか新鮮。」
「へへっ、そうなんです。いつも仕事着なんで。
……あっ、ごめんなさい。
こないだ借りた服、今日返すつもりやったんですけど
結構電車寒くて、また着ちゃって……、
もっかい洗った方がいいですか?」
先週の土曜日、着た服を洗ってから返すと季衣が言い張って、貸したままだったのだが、正直全然洗わなくていいと言うか、季衣の匂いが残っていた方が柊真的には(この先は自主規制)。
「全然そのままでいいよ。」
「よかったぁ、ありがとうございます。」
なんか髪もふわふわしてるし、まつ毛パッチリだし、なんだこれ可愛い。
「……かわいい。」
「へっ?」
あっ、口に出ちゃった。
キモがられるかなぁ、でももう誤魔化しようないよなぁ。
「今日のきぃちゃん、可愛い。」
「えっ、あっ、…………ありがとうございます……。」
照れたッ。
あっ、なんかコレヤバいな。
俺にまで伝染る。
「明石さんも、いつもカッコイイですよ?」
あーーーー~~~~っ、その顔のまま笑うのはずるいよっ!
「うん、ありがと。」
予想もしなかった爆弾を投下されて、思わず顔を手のひらで覆う。
こんなだらしない顔、好きな子に見せれるわけない。
「よし、出ようか。」
一気に甘酸っぱい空気になったのを誤魔化すように、駅のターミナルを出た。
さっきまで肌寒く思っていたのに、車内が暑くなったように感じる。
「どっか寄りたいとこある?」
「いや、私は特に……、大丈夫です。」
「おっけー、じゃあ俺んち直行ねー。」
駅から柊真の家までは車があれば遠くないものの、信号が多い。
「あっ、そのトート俺も持ってるー。」
信号が変わるのを待っている間に、季衣の手元を見るとセカンドのグッズであるトートバッグが目に入り、やはり彼女も古参だなと再確認する。
「えっ、明石さんもファーストファンミ行った勢ですか?」
「行った行ったぁー。
ショータイム見てからすぐファンクラブ入って、
感動の勢いそのまま応募したら当たっちゃってさぁ。」
「えーーっ、分かります!
もう、最終ミッション爆泣きからの即応募でしたよね。」
ファンミーティング。
ファンミやペンミと略されるそれは、ファンがアイドルと生で会えるイベントで、メンバー一人ひとりと話しながらサインを貰ったり、クイズやミニゲームを推しと一緒に会場が一体となって楽しむ抽選型のイベントである。
ファンの持参したコスチュームを身につけてくれたり、メンバー同士のイチャイチャが真近で見れたりするため激アツなのだ。
「もうさぁ、ジアが自分もまだ呼ばれてないのに、
他のメンバー呼ばれる度に
笑顔で拍手してるのがいい子過ぎて、
あれは全員泣いちゃうよ。」
ショータイムという名前のオーディション番組も、誰がデビュー出来るのか最後まで分からなくて、ドキドキしながら見守ったものだ。
「ほんとそれぇーっ。
今日も泣く自信しかないんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫、俺も泣く予定だから。」
「えっ、明石さん一回観たんですよねぇ?」
「あれは何回観ても泣くやつでしょ。」
なんて、結局いつも通りヲタクトークで盛り上がり、家までの道のりは一瞬だった。
「おじゃましまーす。」
「どうぞー、
……………………きぃちゃん、ちょっとこっち向いて?」
明石さんの家にあげてもらって、あぁやっぱり安心する匂いだァ、なんてちょっと変態じみた感想を頭の中で述べていると、明石さんの手のひらにに頬をスっと包まれた。
えっ、何、そういう流れじゃないっすよね?
ききき、キスとかではないですよね?
えっ、もしかして今日も明石さんはそういう事もする予定で……?
「体調悪い?」
「へっ?」
「さっき車降りる時ふらついてたでしょ。
大丈夫?
なんか顔色も悪いような……、違ったらごめんね。」
ななな、なんちゅう破廉恥な妄想を……っ!
明石さん心配してくれただけやのにぃっ。
自意識過剰過ぎた……。
くぅ~っ、恥ずかし過ぎて死ねる。
「あ、あの、今日、月イチの、アレになっちゃって、
薬飲んだんで、い、痛くは無いんですけど……、
ちょっと貧血気味っていうか……そのぉ……うえっ!?」
出来る男すぎる明石さんにちょっとトキメキながら、そんな明石さんに女子の事情をあけすけに話してしまう自分に恥ずかしさを感じていたら、急に足が床から離れて、全然可愛くない悲鳴を上げてしまう。
えっ、なんですかコレ、お姫様抱っこ……!?
「なになに何っ?あ、明石さん、降ろしてっ!」
「危ないからじっとしてて。」
「…………はい。」
明石さんの有無を言わさぬ勢いに負けて、大人しく抱えられるしかなくなった。
そのまま見覚え之あるソファーに連れられて、ゆっくりと降ろされる。
「ちょっと待っててね、すぐ戻るから。」
そう言って、言葉通りすぐに寝室から戻ってきた明石さんの手には薄手のブランケットがあって、どう振舞っていいのか分からない季衣に渡される。
「これ、好きに使って。
あと、ココアとミルクティーどっちが飲みたい?」
「じゃ、じゃあ、ミルクティーで。」
「りょーかーい。」
な、なんだこの姫様待遇は。
えぇ?生理ですって伝えただけなんですけど、なんか重篤な病気にかかったと思ってらっしゃる……?
いやまぁ、人によってはとんでもなく重い事もあるでしょうけど。
てかこれ以上ないくらい正解な対応ですけども。
…………どこまでデキる男なんですか明石さん。
日本中の全男子が見習うべきでは?
経験したことが無い程の紳士な対応に、ここは本当に日本かと謎の動揺をしながらペンライトの組み立てに取り掛かる。
説明書をガン見しながら、買ったばかりのペンライトと格闘していると、明石さんがマグカップを持ってきた。
「結構熱いから気を付けてね。」
とローテーブルの上に季衣の分のミルクティーを置いてくれる。
「ありがとうございます。」
「いえいえー。
あっ、新しいやつ買ったの?」
セカンドのペンライトはオリジナルと五周年記念版の二種類がある。
今まではシンプルな時計の形だったのに対し、五周年記念版はセカンドのイメージキャラクターでライオンのルーちゃんが時計を抱き抱えた形になっており、非常に可愛さが増しているのだ。
「そうなんですー。
新しいの買ったのに次のライブ当たらない
……なんてそんな事ある訳ないよな、っていう
願掛けみたいな感じです。」
あー……、なんか楽しいけど、きぃって明石さんと今までどうやって話してたっけ……?
急に自分の気持ちを自覚して、急に柄にもない緊張をしてしまうせいで、変にテンションが高いような話し方になってしまう。
確かにテンションは高いのだが、明石さんにおかしく思われていないだろうか。
「あははっ、確かに。
いいなー、俺も早く買お。
あっそうだ、オムライス普通に食べれそう?
食欲ある?」
「食べれます!
あの、薬ちゃんと効いてるんで、
ほんまに気ぃ使わんくて大丈夫ですよ。」
「そう…………?
分かった、ご飯チャチャッと作っちゃうから、
ちょっと待ってて。」
ありがたいけれど過剰な心配は不要だと伝えたら、心做しか明石さんが悲しそうな顔をした気がする。
明石さん世話好きなんかな。
それともきぃが無理してると思ってる?
なんか申し訳ないなぁ……。
ポチッ
「えっ?」
ポチッポチッ
「えっ、各メンバーごとにたてがみまで色変わんのは
流石にアツ過ぎでは!?」
なんか色々考えていたのに、ペンライトの最新技術に興奮してそれどころでは無くなってしまった季衣であった。
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