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本編
連呼されるとか聞いてません!
しおりを挟む合法的にきぃちゃんを甘やかす理由が無くなってしまった…………。
体調を崩して欲しいとは微塵も思わないが、そんなに気にかけなくても大丈夫だと言われると、少し寂しい気持ちになる。
新しいペンライトにはしゃいでいる姿を見ていると、確かに心配し過ぎだったかなとは思うものの、貧血気味なのは事実であるし、なんだか最近の季衣が空元気な気がして放っておけないと思ってしまう。
「きぃちゃん、ご飯出来たよー。」
「…………はっ、………寝てたっ。
えっ、ご飯出来たって言いました……?」
嘘、今きぃちゃん寝てたの?
ホントにこの子、警戒心どこに置いてきちゃったの……?
薬の副作用……なのか?
「うん、今出来たとこ。」
「うわっ、ごめんなさい。食べますっ。」
季衣がソファからガバッと起き上がって、テーブルに向かってくる。
「あぁあぁ、焦んなくていいよ。」
勢い余ってズッコケそうな季衣が、ちゃんと席に着いたのを確認して、自分も椅子に座る。
「ひやぁー~、美味そう過ぎる。」
やっぱり昨日からなんかテンション高くない……?
うーん、そのうち普段通りに戻るかなぁ。
季衣が心配していた違和感を感じ取りながらも、好きな人フィルターによって、どんな季衣も可愛く見える現象が起こっているため、あまり気にしない柊真であった。
「うまぁァ~、何ですかコレ。
お店の味じゃないですか。」
「大袈裟だよ。
口に合ったなら良かったけど。」
明石さんが作ったオムライスは、テレビなどでよく見るふわとろオムライスだった。
見た目ばかりでなく中身もちゃんと美味しい。
いやぁ、一家に一台明石さん欲しいな。
「なんでこんなに料理上手なんですか?」
「あー、学生の時に洋食屋さんでバイトしてたんだよ。
まぁ、ほとんど盛り付けだけなんだけど、
賄いの時にちょっと大将に教えて貰ったりとかしてさ。」
「へぇ~、バイトしてる明石さん見てみたかったな。」
「もう十年も前の話だけどね。」
じゅうねん……、そっか、七歳も離れてるもんな。
季衣にとってはついこの間のようにも思える事が、明石さんにとっては遠い昔の事なのかもしれない。
こんな話をすると年の差を感じてしまって、早くもっと大人になりたいと思ってしまう。
「きぃちゃんは?
なんかバイトしてたの?」
「私はフツーにスーパーでバイトしてましたよ。
グロッサリーっていう調味料とか、
お菓子とかの品出しする部門で。」
「えー、意外かも。
飲食とかレジとかやってると思ってた。
……あっ、お菓子の新作分かるからか。」
「えへへっ、そゆことです。」
「なるほどねぇ。」
季衣の実家の近くのスーパーはグミやスナックの品揃えが良く、季衣にとっては天国だった。
新作が出ているのを知って、休憩時間に買いに行ったりもするほど、季衣はお菓子好きである。
「そういえば、なんのお菓子が好きで
今の会社に入ろうと思ったの?」
「グミです、グミ。
うちの会社めちゃくちゃグミの種類多くて。
味も美味しいんですよねー。」
「あー、たまにきぃちゃんがくれるグミって
会社のやつだったの。
あれ美味しいね。
いいなー、俺なんか条件だけ見て就職しちゃったから、
好きな要素がちょっとでもあった方が頑張れそう。」
「今の仕事、好きじゃないんですか?」
「んー、好きじゃないというか、
営業向いてないなぁって思うし、
あんまり楽しくは無いかなぁ。
きぃちゃんは仕事楽しい?」
意外だった。
明石さんの口から会社の愚痴はあまり聞かないものだから、てっきり仕事は結構好きなのかと思っていた。
「割と楽しいですね。
二課の人達も仕事する上では良い人ばっかりやし。
まぁ私の場合、逆に興味無いと全然やる気出ないんで、
会社選ぶ時に苦戦しましたけどね。」
就職活動担当の先生に、ここはどうだと求人票を見せられる度に、ここはこれが嫌だ、これがあるところがいいと要望を伝えていると、お前は高望みし過ぎだと怒られた。
結局、大手すぎるから辞めた方がいいんじゃないかと言われた今の会社の、商品開発部を受けて、落ちて、営業事務を受けて、受かった。
「どこでもいいやって選ぶよりぜんいいよ。」
「たしかに、今考えるとあん時頑張って良かったなぁ
とは思いますね。」
「うわー、新卒の初々しいきぃちゃん
見てみたかったかも。」
「そんな三年ちょっとじゃ、なんも変わん無いですよ。
…………髪の毛長いぐらいしか。」
髪の毛を切ったのは、やっと一人前に仕事が出来るようになったと言えるくらいからで、それまでは大学時代からずっとセミロングだった。
ユナがボブになった事に引っ張られて、衝動的に切ってしまったら、楽さに気付いてしまって、伸ばせなくなった。
「え、見たい。
絶対可愛いじゃん。」
「か、かわっ、……ッ。」
いきなりお世辞でもなく、本当に素の声で可愛いなんて言われて、思いっきり動揺してしまう。
明石さん、ロングの方が好きなんかなぁ。
「かっ、可愛くないですって。
大学生って感じやし、モサいだけですよ。」
「えーっ、写真とか見せてくれないの?
大丈夫、俺可愛いしか言う自信ないから。
見る前からもう可愛いもん。
あっ、もちろん今も可愛いんだけどね?」
一ミリも逸らさず正面から明石さんに視線を向けられて、甘い言葉をかけられて、ドキドキが止まらない。
「……もうっ、なんでそんな急に、
可愛い可愛い連呼するんですかっ!」
「…………なんでだと思う?
……ごめん、嫌だった?」
「い、いやではないですけど……。」
「ふふっ、かわいいっ。」
ッ、こいつぅぅうっ。
そんな甘い眼差しを向けないでくれ。
明石さんも、きぃのこと好きなんちゃうかって、期待しちゃうから。
「からかってますよねっ。
もう、絶対写真見せないですぅっ。」
「えっ、からかってないよ。
お願いっ、見せてっ。」
「嫌ですぅ。」
「ねぇ、お願い。」
「ぃやーだぁーっ。」
「なんでよー。」
そうやって少しじゃれて、オムライスを食べ終わって、また推し活についてあーだこーだ言っていたら、昼に飲む用の薬の存在を、季衣はすっかり忘れてしまった。
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