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本編
吐かされるのは……分かってました
しおりを挟む「田所、ちょっとツラ貸しなさい。」
「………………お手柔らかにお願いします。」
分かっていた。
美沙から逃げられるわけがない事くらい。
月曜日にゲロってしまった時点で、成り行きを吐かされることは確定だ。
結局明石さんには、日曜日の夕方までお世話してもらって、家の住所を教えて送って貰った。
致せり尽くせりの週末だったのである。
出社した時は
「あら、おはよう。
長谷川が昨日のやつは机に置いといてって言ってたわよ。
今は課長と面談中。」
「りょー。
伝言ありがと。」
なんてやり取りをして、仕事が切羽詰まっていたのか知らないが、何の追求もされなかったから、このまま何にも無いのではなんて一ミリでも思った自分が馬鹿だった。
お昼休憩になって、やっと仕事が一段落したとパソコンを閉じた瞬間に、逃すまいと季衣のオフィスチェアをクルッと自身の方に回してニッコリと微笑む美沙がいた。
社食ではなく外のランチに連れ出されたのが不幸中の幸いと言うべきか。
何度か訪れた事のあるイタリアンレストランで、季衣はクリームソースのマカロニグラタンを注文し、美沙はモッツァレラチーズを使ったサラダのランチを頼んだ。
店員が去ってからの沈黙が辛い。
トドメを指すならひと思いにッ。
そんな季衣の考えを知ってか知らずか、カランッと音を鳴らして水を飲んだ美沙が口を開いた。
「で?私が聞かないと何にも言わないつもりなの?」
「ごめんなさいちゃんと言います。」
向こうから聞かれたら答えようという考えすら甘かったらしい。
あれだけ背中を押してもらっておきながら、報告しない訳にはいかないと思ってはいたが、友人に自分の恋愛話をするのはこんなにも恥ずかしい事なのかと今更ながらに実感する。
「その、……うぅ~、付き合い、ました。」
「誰と。」
「……明石さんと。」
「そう、おめでとう。」
「……ありがと。」
「んで?盛り上がって?そのままベッドにイン?」
「違うわッ!」
なんちゅー事言うんや、こんな真昼間に。
外面こそあざと可愛い女子のような見た目だが、彼氏との営みもあっぴろげに話してしまう美沙である。
季衣が一度寝た男と付き合うなんて言ったら、そこまで切り込んで来るのはもはや必然であった。
「ふぅ~ん、なぁんだ。
季衣に目を付けるぐらいだから、
とんでもないムッツリかと思ってたのに。」
「いやぁ……、ムッツリは、ムッツリかもしれへん。」
だって、多分明石さん、ぜ、絶倫やと思うし。
アダルトな世界でしか出てこないような単語を、身近な人に当てはめる日が来るとは思っていなかったため実感が湧かないが、季衣を相手に二回、なんなら季衣が寝ようとしなかったら三回欲情出来たんだろう事を考えれば、元気なんだろうなと思う。
あくまで季衣の憶測だが。
なんてったって、この間まで処女だったんですからね。
「あらぁ、何がそんなに好みだったのかしら。
…………胸が小さいのが好き?足フェチとか?
あ、それかおしり派の可能性もあるか。
あんた下半身が綺麗だから有り得るわね。」
「ちょっと、勝手な予想せんとってっ!
っていうかそんなん私が知りたいわっ。」
あーだこーだ好き勝手言ってくれる美沙に恥ずかしいからやめろとギャーギャーしてるうちに、頼んだ物が運ばれてきた。
もちろん食べ始めたからといって尋問が止む訳がなく。
「相手がムッツリだと仮定して、
一回もそんな雰囲気にならなかったの?」
「それは…………、土曜日から私が、
生理んなっちゃって。」
「あー、なるほどねぇ。
じゃあ週末はお世話してもらって、
甘やかされたんだ?」
「ン''ッ、………………そうですけど何か。」
やあぁいっ、もう開き直ったる。
もうどうとでも言ったらいい。
「告白は?あんたからしたの?」
「うん…………、でも、明石さんにも好きって、
付き合ってって言われたから、
私の勘違いではないと思う。」
美沙がこんなにも詰め寄ってくるのは好奇心もあるだろうが、一番は恋愛偏差値がゼロに等しい季衣を心配しての事だというのは季衣も分かっていた。
やるじゃない、田所にしては。
告白に関して、好きだと自分の気持ちを伝えて、相手の気持ちをきちんと言葉で確認しないとろくな事にならない。
俺は好きだとはひと言も言ってないだとか、好きだけど付き合うとは言ってないとか、浮気の言い訳にされるのがオチだ。
そこのところ季衣は、しっかりと自分の気持ちを伝えて、相手の言質も取って帰ってきたのである。
「ふふっ、頑張ったわね。
その確認、凄く大事よ。」
そう言って頭をヨシヨシと撫でてやれば、嬉しそうに頬を緩めて、
「なぁ美沙、もっと褒めて。」
と自分から頭を押し付けてくるのだ。
本当にこういう所が可愛くてたまらない。
誰にも教えてやるつもりはないが。
だが、これからは彼氏となった男が、こんな所も、美沙が知らない事も、知っていってしまうのだろう。
週末もデートに出掛けてしまうのだろう。
大事に大事に隠してきた、あんなに可愛い泣き顔も、美沙以上にその男が見る事になるのだろう。
そう思うと少し寂しくなった。
美沙にとって季衣はこの歳になると貴重な、何も隠さないで済む、唯一の友である。
「どしたん美沙。
ぼーっとして。」
「んー?いやー、
あたしと遊んでた時間もデートとか
するようになっちゃうのかなぁと思ってね。」
「や、あの、そりゃデートとかもすると思うけど、
服とか、……可愛いの、分からんから、
……一緒に買いに行って欲しい。
美沙おらんかったら困る。」
ったくどこまで人たらしなんだか。
季衣が恥じらいながら可愛い事を言う。
ここまで来たら、季衣をどんどん可愛くして、顔も見たことが無い彼氏を悩殺して、季衣をここまで可愛くしたのはあたしだとマウントを取ってやろうかしら。
「任せなさい、とっておきの下着選んであげる。」
「ちょっ、誰もそれは頼んでないっ!」
再びギャーギャー言う季衣をからかって、今だけの幸せを噛み締めた。
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