きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

交換出来るなんて聞いてない

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「はうっ!かわっ。へえ!?何その顔!
  うぅ~っ。」

金曜日の仕事終わり、居酒屋で一人飲みしていると、隣から奇声が聞こえた。
横目でチラ見すると、新卒にも見える若いOLが柊真のスマホに釘付けになっている。
いや、確かに画面の向こうのユナはとんでもなく可愛いけどな?
 
ちなみに、スマホで再生しているのはセカンドというKーPOPグループの新曲のMVで夕方に公開されたものだ。
デビュー時からのセカンド古参ファンである柊真は仕事終わりにこれを見ながら飲むと決めていたのだが、

「すみません、あの……。」

どう見ても画面を覗き見されており、正直MVに全く集中出来ないので、たまらず見知らぬOLに話し掛ける。 

「はっッ!!すみません~っ!
  キモかったですよね……。
  推しが視界の端に映ったのでついっ。
  それでっ、あのー、もしかしてお兄さんもミニット
  だったりします……?」

我に返り全力で頭を下げた彼女が、食い気味に予想通りの質問をしてくる。

ミニットとはセカンドのファンネームであり、セカンドとミニットで一分一秒を全力で楽しむ仲間という意味が込められている。
ファンネームを知っている時点で彼女もミニットだと確信した。

「そうだけど……。
  OLさんはユナペンで……合ってる?」

「はいっ!ってなんで分かったんですか!?
  あ!キーホルダーか!」

彼女のシンプルな仕事鞄にはセカンドの三女ユナのトレカが入ったカードケースキーホルダーが付いており、肩身離さず持ち歩いていることが伺える。
そういう自分もキーケースのカード入れに長女ジアのトレカを常に入れて持ち歩いているのだが。

「前回のミニアルバムの特典のトレカだよね。 
  俺もユナ引いたよ。
  まぁ、目当てのジアは出なかったんだけど。  
  はぁ…。」

そう、あれは悲しい。
柊真が購入したミニット限定盤の特典トレカはランダムで二枚同封されている。
ただセカンドは七人グループのため、目当てのメンバーが出ない事も多いのだ。
メンバー別盤を購入すれば確実に入手出来るが、衣装やポーズ、表情が全く違うものだから嘆くファンが多いのである。

柊真も例に漏れず、最推しのジアを当てることは出来なかった。
メンバー別のジア盤のトレカももちろん可愛いに決まってるのだが、自引き出来なかった虚しさが込み上げてきて、一週間は引きずった。

「え!?ユナ来たんですか!?うわぁ~っ。
  私これメンバー別盤のやつです……。」

彼女も同じだったか……。
ランダムは悪い文明。
二人して開封時の打撃を思い出し沈黙する。

「あっ。」

しばらく続いた沈黙を破った彼女の顔を見ると、何故かみるみると輝いてくる。
柊真は訳が分からず首を傾げると、

「お兄さん!私、ジア持ってます!
  ミニット限定盤の!交換しましょう!!」

なんと、お互いの推しのトレカを持っていたという奇跡が起こった。

「え?ジア?ジアオンニ?赤いドレスの?」

「ジアオンニ!赤いドレスの!」

「ぜひ交換お願いします!!」

気付いた時には口にしていて、このチャンスを逃す手は無いと本能が告げていた。
そして、この本能は別の意味でも正解だったことを後々実感するのだが、それはまた別の機会にという事で。

「こちらこそお願いします!
  良ければ連絡先交換して貰えませんか?」

「もちろん。今、実物持ってる訳じゃないし、
  出来ればもっと話したいし。はい、コレ。」

彼女の意見に賛成し、すぐにスマホの画面に自分の連絡先のQRコードを表示する。

「ありがとうございます~。追加っと。
  お名前、明石さんって言うんですね。」

「うん。明石柊真。
  えっと……、田所、きいさん?」

季節の衣と書いた彼女の名前は、コロコロと変わる彼女の表情に良く似合っているように思った。

「季衣で合ってます。
  っていうか私絶対年下なんでさん付けしなく 
  ていいですよ。」

「う~ん。じゃあ、きぃちゃんでどう?」

適当に呼んでみたが、大人になってちゃん付けは不快だったのだろうか。
心無しか彼女の顔が赤いように見える。

「嫌……だったかな?」

「いやっじゃないです。
  ちょっとびっくりしただけで。」

と言いながらも、みるみると耳を赤くする彼女が、なんだか愛おしく感じて、ちょっとだけ悪戯心が芽生えた。

「じゃあ、これからよろしくね。……
  きぃちゃん。」

彼女の耳元に口を寄せて囁くように、もう一度名前を読んでみると、

「もぅっ、からかわないでくださいっ!」

むうっと唇をとんがらせてむくれる彼女は想像以上に可愛いらしく、もっと意地悪したくなったが、流石に初対面相手では可哀想なので我慢する。

「ふふっ、ごめんごめん。交換、いつにする?」

「めっちゃがめつい奴みたいになっちゃうかもですけど、明日またこの時間ぐらいとかはダメですかね。」

「全然大丈夫。
  じゃあ、明日の今ぐらいにここって事で。
  急な用事とかあったらまた連絡して?」

「了解ですっ。」

ぴしっと敬礼をして彼女が答え、早くも次の約束が決定した。

二人のやり取りはひと段落したのだが、帰るには少し早い時間で、少し悩んでからイヤホンの片耳を差し出した。

「一緒に見る?MV。」 

「…っ。失礼します。」

また顔を赤くしながら、イヤホンを右耳に着ける彼女をみて初めて、自分が俗に言う片耳イヤホンを勧めた事に気づいたが、辞めようとはしない柊真だった。














 
 
 
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