きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

①こんなに可愛いなんて聞いてない

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今日も今日とてノンストップでオタトークを
繰り広げ、気付いた時には出来上がっていた。

……俺ではなくきぃちゃんが。

彼女と話すのが楽しいのはもちろん、
酒が入ってふわふわしてきた彼女があまりに 愛おしくて、ぽつぽつと話しているのを適当に相づちをうちながら見つめていた。

白状しよう。俺はきぃちゃんが好きだ。
居酒屋であって話す度に、表情がコロコロかわるところとか、実は仕事には真面目なところとか、色んな顔を知って、どんどん好きになっていった。
もしかしたら彼女をきぃちゃんと呼び始めた時から惹かれていたのかもしれない。

しかし、彼女からは悲しきかな、飲み友もしくはヲタ友としか思われていない。
俺の事をとても信用してくれていて、会社の男には見せない素の姿を見せてくれているという自信はあるのだが、親戚のおじさんと接しているのと近い空気を感じる。

今も無防備に酔っ払って、ふにゃふにゃになって、すぅすぅと寝息をたて始めたではないか。

「お~い、きぃちゃん。
  起きて!あなた終電は!」

このままではいかんと揺すり起こしたのだが。

「んえ?いまなんじぃ?」

完全なる酔っ払いで、呂律も怪しい。
このまま外に出て歩けるのだろうかこの子は。

「十二時近いかも。
  お店ももう閉まっちゃうよ?」

「んーーーー。もうでんしゃないかもぉ。
  あはっ、やばぁ。」

やっぱりかぁ…。全然やばぁですむ問題ではないですよ季衣さん。
ちくしょう、やらかした。
俺がもっと早く気づいていれば。
時すでに遅し。
後はもう万札掴ませてタクシーに放り込むしかない。

「きぃちゃん、タクシー呼ぶけど住所言える?」

「じゅうしょ…?えーっと、えーっと。
  おおさかのぉ、いずみしのぉ、」

おい、実家の住所言い出したぞこの子。

「違う違う!今住んでる名古屋の家の住所は?」

「今のいえの住所?
  うーん、えーっと、うぅーっ」

唇をとんがらせて眉間に皺を寄せながら、うんうんと唸っているが一向に思い出せないようで、どうしたものかと今度は柊真が唸る羽目になってしまった。

これ以上店に居るわけにもいかないので、お会計をカードで済ませ外に連れ出したのだが状況は何も改善されていない。
人の財布を勝手にイジる訳にもいかないし、かといって、このままではタクシーにすら乗せられない。

「どうしよっかなぁ。
  ……きぃちゃん俺ん家くる?」

後で考えてみると、こんな事を冗談でも口走ってしまう程には俺も酔っていたのだろう。
素面の俺にこんな事言える勇気なんてない。

「とか言っちゃって。さすがに……。」

「え!!行きたぁいっ、あかしさんのおうち!」

まずい。何してくれてんだ五秒前の俺。

好きな女の子家に連れ込んで襲わずにいられる自信が一ミリでもあったのだとしたら、それはとんでもない馬鹿だ。
それとも、彼女を自分の物にしてしまいたいという願望が口に出たと言うのか。
好きの一つも言えていないくせに。

「いやいや冗談だって。流石に駄目でしょ。」

「なんでぇ?行きたい行きたい行きたいっ!」

彼女が俺のシャツの袖を掴みながら足をバタバタさせてゴネてくる。

「駄目だって!っていうかなんでそんなに俺ん  
  家に来たいわけ?なんも面白くないよ?」

「おっきいジアのポスターとかグッズいっぱい
  あるんやろ?見たい見たいっ!」

今日、飲みながら話した事を運悪く覚えていたようで、彼女がセカンドが絡むと一歩も譲らないことを知っている柊真は、自分が折れなければいけない予感がして背中に汗をかく。

「また今度にしよう。ね?
  酒飲んでない時にまた誘うからさ。」

素面の時に誘ったとして、自制できる自信もないが、こうでも言わないと彼女は引かないだろう。
彼女に嫌われて、もう一緒に飲めないなんて事だけは絶対に避けなければならない。

「いややっ、今日見るのっ!
  見るまできぃ帰らへんっ!」

一人称が変わっただと!?可愛すぎんだろ。
『きぃ』ってなんで名前の響きまで可愛んだよ。

シャツの袖を掴むだけに留まらず、今度は腕をホールドされて、もはや逃げ道は残っていない。
もう諦めよう。無理だ。
サッと帰って、サッと見せて、水飲ませて酔いを覚まさせて、タクシーを呼んで放り込む。
もうこれしかない。

「分かった。好きなだけ見ればいいよ。
  ただし見たらすぐタクシー呼ぶから。
  それでいいね?」

「うん。分かった。かえる。」

あぁ、頑張れ俺の理性。
お前の今後がかかってる。















 
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