きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

朝チュンとか聞いてません!

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「ん……」 

何か特別大きな音がなった訳でもなく、ぱちりと目が覚めた。
妙に頭がスッキリしているのは、いつものようにアラームの音で強制的に起こされていないせいか。

身体が尿意と喉の乾きを訴えてくるので、起き上がろうと寝返りを打つと、甘く整った顔をした明石さんがすーすーと寝息を立てて眠っている。

「ひゅっ」

寝起きでこれは心臓悪いって。
あまりの視界への暴力に、思わず喉がきゅっと締まった。
あぁ、もう認める。
私、明石さんの顔めっちゃ好き。
てか、嫌いな人間おらんやろこんな顔。

とりあえずトイレだっと思い、立ち上がろうとすると脚に力が入らなくてペタん座り、とか漫画みたいな展開こそ無かったが、脚はガクガクしているし、股が少しジンジンと痛む。

あぁ、もう恥ずか死ねる。
処女のくせにあんな善がって、なんか恥ずいこといっぱい言った気がするし、そんなんもう痴女やん。
起きた明石さんにどんな顔すれば言いわけ……?
昨日の自分の失態にとんでもない羞恥を覚えながら、自分の鞄を持ってトイレを探した。

廊下に出て左側にトイレ、右側にお風呂と洗面所を見つける。
用が済んだら手を洗って、試供品のクレンジングでボロボロになったメイクを落とし、化粧水とクリームを塗る。
仕上げに日焼け止め兼下地を塗ってパウダーをはたくと、出来るだけ音を立てないように寝室に戻った。

ベッドの周りに散乱している私と明石さんの服の中から、無地の綿百%パンツとカップ付きキャミソールを引っ張りだす。
我ながら色気無さすぎるだろ。中学生か。
ブラはどうしたって?
AAカップなめんなよ。
デカくなけりゃ揺れもしない。
擦れて乳首が痛くならなければ良いだけだ。

昨日と同じ服を着ることに抵抗は無いが、パンツだし一応一回履いたものなのでおりものシートを貼ってから再度履くことにした。
キャミは適当に被って、ベッドの横に綺麗に畳まれた服がある事に気づく。
これ明石さんのやんな……。
着てもいいかなぁ。
スーツ皺になっちゃうし。
心の中でごめんなさいっと謝りながら、紺のTシャツにベージュの短パン、白いカーディガンを身につける。
あ……、これ明石さんの匂いがする……。
明石さんの匂いってなんか知らんけど安心するねんなぁ。
思わず袖の匂いをすぅーっと嗅ぐとほっとして心が満たされた。
 
このまま明石さんを起こすのもありだが、もうひと眠りしたい気分で、再びベッドに潜り込んで明石さんに背を向ける。
すると、後ろからがっしりとした腕に腰をぐっと引き寄せられた。

「ひえっ」

「俺の服着てもう一回潜り込んで来るなんて、
  きぃちゃんずいぶんえっちだね。
  朝から俺に抱かれるつもりだった?」

いつから起きていたのか、明石さんに上半身をピタッとくっつけて耳元で囁かれる。
私が耳弱いって知っててっ!こいつぅ……。

「なっ、違いますぅ。
  二度寝しようとしただけですぅ。
  疲れてるからっ。」

「俺のせいで?」

腰に回された手が下に流れて、すりぃっとおへその下を撫でる。
それだけで、昨日とんでもなくだらしがないと判明した身体が反応してしまいそうで、急いでお腹の手を退かしながら明石さんの方へ寝返りを打つ。

「んもうっ!明石さんの方がえっちやんっ!」

「あははっ、そうかもね。
  ……でも普通、昨日襲われた男の布団にわざわ
  ざ戻ってくる?
  酔ってる時ならまだしも、素面の時まで危機
  感無さすぎるのもどうかと思うよ。
  まぁ、俺からしたら美味しいだけだけど。」

「んぐぅ。
  だって明石さんの匂い安心しちゃうんやも
  ん……。」

正論パンチを食らわされて悔しいのに、心配してくれてるのが伝わってくるから、言い訳じみた事しか言えなくなる。

「それ昨日も同じ事言ってたけど、
  そんなに好きなら思っきり嗅ぐ?」

昨日も言ったん……?
匂いフェチの変態みたいになってない?
大丈夫?

明石さんが抱き着けとばかりに腕を広げて待っている。
ベッドに自分から入っておいて今更かもしれないが、流石にこれは狼にわざと食べられに行く羊では無いか。
これ以上されたら冗談抜きで脚に力が入らなくなるからご遠慮頂きたい。
お昼から美容院予約しちゃってるんだよ。
でもこれだけ迷惑かけてる人を警戒しちゃうのは、何だかとても失礼な気がして、結局オロオロしてしまった。

「抱き着いたらそのまま食べられると思った?
  そうだよ。男なんて性欲の塊で、隙ばっかり
  探してるんだから。
  最初っからそんくらい警戒してくれると助か
  るんだけど。」

「うぅっ、ごめんなさい。」

情けな過ぎる……。
七歳差とはいえ小学生のように諭されて、
自分の未熟さに泣きそうになる。

「分かってくれたなら問題ないよ。
  まぁ、今日は何もする気は無いからおいで。」

「……ん」

甘い声でおいでと言われて吸い込まれるように明石さんの腕の中に収まり、胸いっぱいに息を吸ってゆっくりと吐き出すと、これをずっと求めていたかのように安心して、身体の力がふっと抜けた。

あぁ、毎週ここで寝たい。
明石さんの近くにおるだけで、一週間分の疲れも吹き飛びそう。
ピタッと密着すると心臓の音や、呼吸する音がよく聞こえる。

「きぃちゃん、俺の事……、
  嫌いになって無い…よね……?」

珍しく弱気になった明石さんが、片手に抱いた腰をぎゅっと引き寄せるようにしながら聞いてくる。

「何でそんなこと……。
  なる訳無いじゃないですかぁ。
  昨日も私言いましたよね。」

「……じゃあ、また一緒に飲んでくれる?」

良かったぁ……。
関係が変わっちゃうんじゃないかって心配してたの私だけじゃなかったぁ……。
明石さんも私と一緒に飲みたいって思ってくれてるの嬉しい。

「当たり前ですぅ。
  私の方が明石さんと一緒に飲まれへんくなったら
  困りますっ。」

会社の人とは飲みたくないし、セカンドの話を出来る人は他にいないし、何よりあんなに楽しくて安心できる時間を失いたくない。

「ありがと。俺もあの時間が無くなったら困る。
  ……あと、昨日無理させてごめんね。
  どこも痛くない?大丈夫?」

「……っ、だっ、だいじょうぶっ。
  ちょっと脚に力入りづらいけど、
  全然元気ですっ。
  私もめっちゃ迷惑かけちゃったし……。
  こちらこそ、ごめんなさい。」

昨日と聞くだけで自らの痴態を思い出しかけて、茹でダコの様に顔を真っ赤にしながら、数々の非礼を詫びる。

「いいよ。
  可愛いきぃちゃんいっぱい見れたし。」

「忘れてくださいっ!
  あぁもう、ちょー恥ずかしい。」

明石さんの言葉でさらに赤くなった顔を隠すように、明石さんの着ているTシャツにしがみついて、宣言通り二度寝してやろうと瞼を閉じる






結局この後、明石さんの腕の中で十一時まで爆睡をかまし、起こされたと思ったら明石さんがめちゃくちゃ美味しい卵焼きと豚汁を作ってくれて、胃袋を掴まれた季衣であった。

顔が良くて、料理も出来て、多分仕事も出来るってどういうこと?













 
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