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本編
ついて来るとか聞いてません!
しおりを挟む「おはようございまーす」
「おはよーって、季衣髪切ってるじゃん!
なに、失恋でもした?」
いつも通り九時に出勤すると、佐藤美沙が私の隣の席に座っていた。
長いピンクブラウンの髪を緩く巻いて、適度に甘いフェミニンなブラウスとスカートを着たザ・女子という見た目の親友でもある同期である。
顔は意外にスッキリしているが、無駄がなく整っているので、お察しの通り非常にモテる。
美沙と話す時は素でいられるし、性格も好ましく思っているのだが、何でも恋愛絡みにしたがる癖があり、季衣も度々困らされている。
「そんなに驚く事?前もこの長さやったやん。
伸びたから切っただけ。」
土曜日は明石さんに駅まで送って貰い、急いで家に帰った後、シャワーを浴びて、着替えて、予約していた美容院の時間に間に合う事が出来た。
明石さん様々である。
前は少し長めのボブを小さめの団子にまとめていたのが、襟足を刈り上げたミニボブになり、シャンプーがとても楽になった。
「ふーん、つまんないのー。
ていうかあんた金曜日なんで来なかったの?
あたし、ずっと待ってたんだけど。」
「えっ?美沙こそ行かれへんって言ってたやん。
美沙がおるんやったら私も行くつもりやったのに。」
金曜日、つまり用事があると言って断った会社の飲み会後に約束していた同期飲みである。
そして、私が過去最高に失態を犯した日でもある。
「季衣お前、佐藤がおらん飲み会なんでつまらんって
言いたいんか?」
急に低い声がすると思い、振り返ると同期であり私のバディでもある営業二課の長谷川隼人が、私の肩に左腕を載せて顔を覗き込んでくる。
クソッ、顔がいいっ。
事あるごとにウザ絡みしてきて、季衣としては鬱陶しいことこの上ないのだが、他部署から女子が見に来る程のイケメンで、営業成績は会社でもトップクラスで、バディとしての仕事はやり易いと来たもんだから、余計に腹立たしいのである。
周りからすると、仕事中のやり取りが阿吽の呼吸で、まるで夫婦のように見えるらしく、長谷川夫妻とからかわれる。
最近は長谷川もその流れに悪ノリするため、エスカレートしていて、それが飲み会に行かない理由のひとつだった。
「長谷川っ、びっくりしたぁ……。
別にそういう訳じゃないけどぉ。
てか腕重い。下ろして。」
別に同期と飲むのは嫌いじゃないが、美沙がいないとなった時、明石さんと飲む方に天秤が傾いてしまう。
「朝から冷たいなぁ。俺とお前の仲だろ?」
「長谷川とバディ以外の関係なんてないけど?」
長谷川は何を目的にこんな茶番をしているのだろう。
適当そうに見えて計算高いのは知っている。
いつもの様に冷たくあしらうと、長谷川は不機嫌そうに眉を寄せた。
いや、事実しか言ってへんやん。
「お前、金曜日何してたんだよ。
用事とかどうせ嘘だろ。」
「いやぁ……、言わなあかん?」
言えない。
毎週のように七歳年上の男の人と飲んで、今週は家までついて行って一夜過ごしました
なんて言えない。言える訳ない。
お願いやからこれ以上詮索せんとってぇ。
「何その顔。
……分かった男でしょ!男なんでしょ!」
へあ?何で顔見ただけで分かんねん。
「はぁ?俺というものがいながら他の男と飲んでたのか?
お前彼氏いなかったんじゃなかったのかよ。」
いやいや、逆に長谷川は私の何なんだよ。
「彼氏じゃないし……。」
「へえ~、男なのは否定しないんだ?
何?彼氏じゃないならセフレ?」
「違うっ!ただの飲み友!
セカンドファンの人!」
ホンマに痛いとこ突いてくるなぁ。
一回抱かれたからと言って、セフレ
……にはならないと信じたい。
「あんたそれ大丈夫なの?
そのうちセカンド餌にして家に連れ込まれるわよ。」
うっ、心が痛い。
ごめん美沙。時すでに遅しだわ。
正確には連れ込まれたんじゃなくて、押しかけたんやけど。
「そっそんな人じゃないし。
ジアの祭壇作るような人が悪い人な訳ないし。」
むしろあんなに迷惑かけた私の方が悪いヤツだろう。
「「はぁ~~」」
二人してため息つかないで欲しい。
「長谷川、私金曜デートなの。頼むわよ。」
「あぁ、任せろ。」
えっ、何。
美沙は何を頼んで、長谷川は何を任されたん?
「季衣、次の金曜、俺もついてくから。」
オレモツイテクカラ……?
「…………はぁ!?
いやいやいや何で?
美沙はともかく長谷川は来んなよ。
私に拒否権無いわけ?」
「無いな。」
「無いわね。」
「何で!?」
ホンマに意味分からん。
何なんこいつら。
何の権利があって私と明石さんの楽しい時間に割り込んで来るのだろうか。
「おうおう、今日も朝から夫婦喧嘩か?
長谷川夫妻~。」
美沙と長谷川に噛み付いていると、一番面倒なタイミングで一番面倒な人がやってきた。
営業二課の課長であり、長谷川夫妻と呼び始めた元凶でもある渡辺進士だ。
課長だが本人がこのノリなので、部下も軽いノリで接する事が多いが、実は入社一年目で営業トップに躍り出たという武勇伝の持ち主でもある。
「そうなんスよ。
俺の嫁が他の会社の男と浮気してるらしくて。」
「誰がお前の嫁になんかなるか!
死んでもお断りやわっ!
てか毎週のように違う女の子とご飯行ってるのは
誰ですかぁ?」
「何が駄目なんだよ田所ぉー。
こんなにイケメンで成績もトップクラスで、
食うのにも困らねぇぞ?」
「そうだぞ。
お前、俺とじゃねぇとバディ無理だろ。」
お決まりの課長のお節介に便乗して、長谷川が生意気な事を言ってくる。
「そっちだって私じゃないとあかんくせに何言ってんねん。
何より人間性がクズなんで無理ですぅ。」
自分の顔の良さを自覚しているだけに、態度がデカいし、傲慢だし、可愛い女の子を見つけるとすぐ連絡先を聞きに行く。
仕事は成績が良い事もあって、目が回る程忙しく、散々こき使われる。
長谷川の我儘に付き合って、何度残業したか分からない。
「お互いの実力は認めてるのにいがみ合ってる所がまた、
夫婦っぽいのよねぇ。」
「美沙っ!」
前までは味方だった美沙も、最近は長谷川に便乗するため、季衣の味方がどんどんと居なくなっているのである。
「うわっ、もうこんな時間じゃん。
じゃ、そういう事だから!
金曜逃げるんじゃねぇぞ!」
「だから一緒に行かへんってば!
おいっ長谷川!話を聞けぇ!」
なぁにが、そういう事だから!っだよ!
引き留めようと叫んだ所で長谷川はダッシュで逃げた。
あー、お昼に明石さんに電話しとこぅかなぁ。
ホンマにごめんなさい、明石さん。
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