きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

お手付き済みとか聞いてないんだけど?

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「もう付き合っちゃえば?」

美沙は向かいのテーブルに座る季衣に投げかけた。

「え?誰と?」

当の本人はいきなり過ぎて頭が付いてきていないようだ。

「飲みに行ってる人。
  さっき電話してたのもその人なんでしょ?」

「な、なんで分かったん!?」

本当に自覚が無いというのだろうか。
おまたせー、とランチを食べに行くために待っていた美沙に駆け寄る季衣を見て、営業二課全体がザワついた。
本人は自分は地味で貧乳でモテるわけないと思っているようだが、そこそこ人気がある。
あくまでそこそこの域を出ないが。

関西弁で少し口調がキツく聞こえることもあるが、方言が可愛いと言う奴もいるし、誰に対しても愛想よく接するため、小動物のような愛嬌にやられる奴もいる。
ただ、二課の人間は全体的に、仕事は出来るものの、中身が小学生のような男ばかりなので、構って欲しくてちょっかいをかけて、季衣がキレて終わる。
ホント馬鹿よねぇ。

一課の人から季衣の連絡先を教えて欲しいと頼まれたこともある。
本人に自分で聞けないようなヘタレに教える気はないが。
季衣に寄り付く虫は私と長谷川で叩き落としてきたので、最近は減ってきていたのだが、この様子だとまた増えるかもしれない。

「あんた、会議室出てきてから、
  今まで見た事無いような顔してるわよ。
  なんて言うか『私今幸せです』みたいな。
  何?デートの予定でも決まった?」

あえては言わないが、あれは紛れもなく恋する乙女の顔だった。
二課の何人かは落ちたんじゃないか。
長谷川の機嫌が悪くなるからやめて欲しい。

「デート…って言っていいんか分からんけど、
  まぁ……。」

あれまぁ、可愛く照れちゃって。
季衣にこんな顔させるなんて、どんな男なんだろうか。
金曜日のデートと他の日にずらしてもらって、私もついて行こうかなと考えるも、彼が拗ねると面倒臭いので諦める。

「どこ行くの?映画館?水族館?ショッピング?
  ヲタク同士だったらPOPアップストアとか?」

初デートで行きそうな場所と言えばこんなところだろう。
しかし、季衣の方を見るとすぃーっと目を逸らされた。
何か重要な事を隠してるわねこの子。

「……怒らへん?」

「まだ聞いてないから分からないわよ。」

「じゃあ、誰にも言わへんって約束してくれる?」

なんだか拗れてる予感がするが、仕方がない。
聞いてやろう。

「誰にも言わないわ。約束する。」

「じゃあ、金曜日の事から話すな。」

それから季衣は、相手の名前は明石さんということ、二人で盛り上がり過ぎて酔っ払ったこと、季衣が終電を逃してしまったこと、意識が戻ったときには彼の家で抱かれていたこと、今週の土曜日も彼の家に行く予定であることを白状した。

私が知らないうちに、知らない男に食べられていたなんて。
普段なら危機感が無さすぎるだとか、もう一回家に行くなんて何考えてんだとか、
長々と説教するのが確定な内容だったが。

「はぁー、もう付き合っちゃえば?」

内容だけ聞けば、何も知らない子羊が狼に食べられたようなものだが、季衣の顔を見るに、抱かれたことを嫌だったと思っていない。
美沙があーだこーだ言ったところで、会うのを辞める訳でもないだろうし。

「えっ、
  ……でも、まだ好きかどうか分からへんし……。」

何言ってるのかしらこの子。

「あんたねぇ……、
  あんな顔しといてそれは無いわよ。
  どういう風に抱かれて可愛がられたか
  知らないけどぉ、
  あんなこっちが胸焼けしそうな、
  デレデレした態度で帰ってきて、
  好きじゃないってんなら何だってんのよ。」

そうだそうだっ!と私の頭の中で空想の野次馬が野次を飛ばす。

「なっ、……しゃーないやろぉ、
  恋なんかした事無いねんから。
  どういう気持ちになるのが好きって事なんか
  分からへんのっ。」

もう、やだァ。
眩しいぐらいにピュアな季衣の言葉に、全てを誰かに擦り付けて帰りたくなる。
私にもこんな時期あっただろうか。
あったのかもしれないが、もう微塵も思い出せない。
どうしたものか。

「じゃあ、想像してみなさいよ。
  明石さん?が他の女を抱いてるところ。」

これで自覚しなかったらもう、お手上げだわ。
名付けて『美沙ちゃんの嫉妬で気付いて恋心~』
なんつってね。

「明石さんが……、他のひとと……?」

そうよ。
トキメキとかキラキラした感情で気付けないなら、自分の醜い部分を知って気付きなさい。
離れなさいって、そこは私の場所だって、憤りなさい。

「美沙、みさ、……私、私……」

しばらく深く考えるように下を向いていた季衣が顔を上げると、ほとんど黒に近い焦げ茶の瞳をゆらゆらと揺らして、今にも泣きそうな顔をしていた。

「嫌だって、その人は私のだって思った?」

「…………ぅん。」

ホントに手が掛かるんだから。
相手の男も私に感謝しなさいよね。
どこの誰だか知らないけどぉ、この鈍感に気付かせてあげたんだから。

「みさぁ、私どぉしたらいい?」

「またうやむやなまま抱かれて変な関係になる前に
  告りなさい。」

セフレなんかになって帰って来たら許さないんだから。

「ふぇ~っ、告白とか無理ぃ。
  絶対頭真っ白なるやん。」

食べた後の皿が下げられ、何も無くなったテーブルに季衣が突っ伏す。
下手したら営業より営業してる、営業事務というか営業アシスタントのくせに、今更日和ってんのか。

「顔見れないってんなら、
  思い切って後ろから抱き着いて、
  『好きだ』って言えばいいだけじゃないのよ。」

まぁ実践して両思いになった場合、そのままベッドに連行されそうだが。

「そんな恥ずかしい事出来るわけないやろぉ。」

「おうちデートなんだから
  誰かに見られる訳でもないし。
  そもそも微塵も気がない相手を抱こうなんて
  思わないんじゃない?
  もしかしたら、ヲタ友の関係が壊れるかも
  しれなかったのに。」

「確かに……。」

自分が好きでも何でもない男友達に抱かれたら速攻で縁を切る。

「自信持ちなさいよ。
  あんたは胸が小さかろうが、
  気が強かろうが、関係ないぐらい可愛いわよ。」

「なにそれぇ。
  ふたことぐらい余計やけど、……ありがと。
  頑張ってみる。」

よぉし、季衣が決意を固めたことだし、前置きはこれぐらいでおしまいにしましょうか。
季衣のことだから、一度決めたことを止めることはないだろう。

「季衣、今日の夜、空いてる?」

「空いてるけどなんで?」

「惚れさせたいんでしょ?」

なら勝負服買いに行かないと、と仕事終わりに『金欠やねんって~っ』と渋る季衣を引きずってショッピングモールに連れて行った。














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