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本編
きぃちゃんが嫁とか聞いてない
しおりを挟む「あっ、明石さん、こっちでぇーすっ!」
あちこちからグラスの音がする店内で、柊真が思いを寄せる人が、すらりと長い腕をぶんぶん振って自分を呼んでいる。
あぁあぁ、そんなに腕振り回して、怪我とかしないでよ。
危うく顔が緩んで、みっともなくデレてしまう一歩手間で、今日は二人では無い事を思い出した。
どちらかと言えば会社でするものに近い、人好きのする笑顔を浮かべてテーブル席まで向かう。
「おまたせー。
ごめんね、急にお店変えてもらって。
あっ、君が同僚くん?
はじめま……、あれ?
えーーーっと、長谷川くん?だよね、だよね。
うわぁーー、前会ったのって三年くらい前だっけ。
渡辺さん元気?」
一体どんな男がついてきたのかと目線を移すと、見覚えのある顔があって。
柊真が新人の頃から個人的に付き合いがある渡辺進士が飲みの席で、期待の新人なんだと連れてきたのが長谷川だった。
会ったのは三年前の一度だけとはいえ、こんなイケメンはそうそういない。
人を覚えるのがあまり得意では無い柊真でも、顔を見ただけで名前を思い出せた程である。
っていうか、きいちゃん、
……バディって、二課一番の出世頭じゃないか。
「あーっ!ご無沙汰してます、明石主任。
もう、本当にその節はお世話になりました。
渡辺も変わらず元気ですよ。」
長谷川がわざわざ席を立って、柊真に挨拶をした。
年齢にふさわしく爽やかだが、堂々としたその姿に、渡辺の目に狂いは無かったのだなと確信する。
「いえいえ、こちらこそ。
さ、そんな気ぃ使わずに、座って座って。
……っていうか、きぃちゃんって○○製菓なの?」
そういえば、営業事務だと言う話はしていたような覚えはあるが、会社までは聞いた事がなかったなと思い出して、柊真と長谷川の会話について来れず、あわあわしている季衣の隣に座って、気になっていた事を口にする。
○○製菓って意外と大手だし、しかも長谷川くんのバディって、俺が思ってた以上にきぃちゃん仕事出来だね!?
「そうですよー、言ってませんでしたっけ?
っていうか、明石さんこそ長谷川と知り合い
だったんですか?」
「うん、渡辺さん繋がりでちょっとね。
っていっても、仕事っていうより、
ほぼプライベートみたいなもんだし、
結局会ったのは一回だけなんだけど。
あっ、二人はもう何か頼んだ? 」
お冷とおしぼりだけが置かれたテーブルを見て、自分が来るまで待たせてしまったかと、少し罪悪感を覚える。
「まだですよー。
せっかくなら明石さんも一緒に
乾杯したいじゃないですかぁ……んふふっ。
何飲みます?」
季衣が表裏のないような笑みを浮かべて、柊真にメニュー表を差し出してくる。
あーホント、こういうとこが可愛いんだよなぁ。
「んー、なににしよっかなぁ。
ラムネレモンとかも美味そうじゃない?」
何を頼むか、頭の中で既に決まっている癖に、悩んでいるふりをして季衣に身体を寄せた。
「えぇ~、明石さんがそんな事言うから、
また悩んじゃうじゃないですかっ。
今日はこれにしよって決めてたのにぃ。」
「ごめんごめん。
気になるのあるなら後で頼も?ね?」
「ぐぅ~、そうします。」
いつもの如く、唇をとんがらせて唸る季衣に愛おしさを感じるとともに、自分以外には見せないで欲しいと思ってしまう。
我儘だよなぁ、まだ告白すら出来てないのにな。
こんな風にうずうずしているから浅沼が言うように、他の男に取られるんだ。
それこそ長谷川くんみたいなね。
やだなぁ。
恐らく長谷川は季衣に気がある。
若くて仕事が出来るうえに、きぃちゃんとバディ組んでる男がライバルとか、俺自信ないわぁ。
「はぁ……。」
一人で勝手にネガティブになって、思わずため息を漏らすと、季衣が心配したように、ん?と見つめてくるのを、ふるふると首を振って、何でもないよと伝える。
それを見た季衣が困ったように眉を寄せるが、何も言ってこなかった。
あ~あ、きぃちゃんにまで気ぃ使わせちゃった。
流石にそろそろ切り替えろっ、俺ッ。
「う~ん、俺はやっぱり生にしようかなぁ。
長谷川くんは何にする?」
いつものノリで季衣とやり取りしていた為、若干置いてけぼりになっていた長谷川は、少々難しい顔をしていた。
愛想もノリも良くって、付き合いやすい子だなぁと思ったけど、そういや真面目なとこ結構あったもんな。
季衣の態度を見て、自分も同じノリでいったほうがいいか、失礼に当たらないかと、柊真との距離を測りかねているのだろう。
「あ、じゃあ俺も生でぇ~。」
「(あからさまに態度変えたなこいつ。)」
へぇ~、長谷川くん相手だと、ちょっと口悪いんだぁ。
ぼそっと言ってるけど聞こえてるよきぃちゃん。
どうやら長谷川は同じノリで貫くことに決めたようだ。
「んじゃ、頼みますねー。すいませーん。」
柊真が言おうとした事を、季衣に先を越されてしまい、直ぐに店員が駆け付ける。
「はーい、お伺いします。」
「生ふたつとー、レモンサワーひとつ。
あと唐揚げと、きゅうりの9ちゃんと……、
今日の魚って何ですか?」
「本日のお魚はブリてすねー。
焼きと煮付けが出来ますよー。」
「じゃあ、煮付けひとつー、
あと取り皿三つお願いしまーす。
以上で。」
「かしこまりました。
ご注文ご確認させて頂きます。」
店員が注文を復唱し、裏に下がった。
「注文ありがとー。」
「いえいえー。」
ナイス。
俺も煮付け食べてみたかったんだよ。
「お前、ちゃんと注文出来んのな。」
「何それ馬鹿にしとるん?
私が仕事出来る女なん忘れたんか。」
初めて知ったというふうに長谷川が漏らすと、季衣がぷんっと効果音が付きそうな顔でむくれる。
「キレんなって。
季衣が飲み会あんま来ねぇから、
知らなかっただけだ。
心配しなくても、季衣は仕事が出来て、
気配りも出来るいい嫁だよ。」
「だーかーらぁー、
誰があんたの嫁なんかなるかっちゅうねん。」
…………………………まさかの季衣呼び?
っていうか
「嫁?」
恋人通り越して夫婦?
「あ''ッ、明石さん違いますからね!?
嫁でも彼女でもないし、
恋愛感情なんて微塵もないですからね!!
こいつのショーもない冗談、
真に受けないでくださいね!?」
季衣が一生懸命誤解を解こうとするも、嫁というワードのインパクトが強すぎて、柊真の頭には疑問符しか浮かばない。
…………何がどうなって嫁になった?
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